グローバル教育
特別企画 国際AS&ALevel、IGCSEとはなにか

 スイス・ローザンヌの国際経営開発研究所(IMD)による「世界競争力ランキング」※において、日本は1989年に行われた第1回目の調査では1位でしたが、2023年は64ヵ国中35位と過去最低となり、経済やビジネスの効率化など、課題山積であることが露呈されました。世界各国では現在、複雑化する社会課題を解決するために、探究力や論理的思考力などを育む国際教育が広がっています。Springでは、これまで「国際バカロレア(IB)」を連載で特集してきましたが、今回はIBとともに代表的な国際教育である「国際AS & A Level」および「IGCSE」についてご紹介します。
過去の「国際バカロレア」特集はこちら
https://www.spring-js.com/global/?category=80
※IMDランキング。世界の主要64ヵ国・地域を対象に「企業にとってビジネスをしやすい環境がどれほど整っているか」を基準に順位をつけた国・地域の国際的な競争力についての格づけ。 「経済状況」や「政府の効率性」、「ビジネスの効率性」や「インフラ」など300以上の項目について調査。

取材協力:    Crimson Global Academy(東京)・静岡聖光学院(静岡)・Dover Court International School(シンガポール)・Dulwich College(Singapore)(シンガポール)・EtonHouse International School(シンガポール)・Epsom College in Malaysia(マレーシア)・Middleton International School(シンガポール)・One World International School(OWIS)(シンガポール)・Overseas Family School(OFS)(シンガポール)
ケンブリッジ大学国際教育機構 国際教育資格推進マネージャー 戸渡文子氏
文部科学省国際政策特任フェロー/東京インターナショナルスクール理事長 坪谷ニュウェル郁子氏
参  照:    文部科学省「日本の大学入学審査におけるCambridge International AS & A Levelsの活用推進について(2020年)」
https://www.mext.go.jp/content/20201209-mxt_daigakuc02-100014554_21.pdf
ピアソン・エデクセル https://qualifications.pearson.com/en/qualifications/edexcel-international-advanced-levels.html

高校課程ケンブリッジ国際「国際AS & A Level」とは?
日本の高校課程に匹敵する「国際AS & A Level」は17~19歳を対象にした教育プログラムおよび修了試験。
● 世界130ヵ国で学ばれ、22年において約35万人が修了試験を受験。
● 日本では文部科学省が国内の大学への出願資格として認定。
● 英国ケンブリッジ大学の初の試験は1864年に実施。
● 国際AS & A Level、ケンブリッジ大学国際教育機構(Cambridge International)が提供。
● 英国の高校生対象の「A Level(Advanced Level)」に対して、世界各国の学校で国際社会に根ざした内容を学ぶため「国際A Level」と呼ばれる。

中学課程ケンブリッジ国際「IGCSE」とは?
日本の中学課程に匹敵する「IGCSE」は、14~16歳を対象にした教育プログラムおよび修了試験。
● 世界150ヵ国以上で学ばれている。
● 学習者数が世界で最も多い課程と言われている。
● 英国の義務教育(中学課程)である「GCSE(General Certificate of Secondary Education)」に対して、世界各国で対応できるプログラムとして「International GCSE(IGCSE)」と呼ばれる。

国際AS & A LevelおよびIGCSEのプログラム・修了試験は、ケンブリッジ大学国際教育機構だけでなく、ピアソン・エデクセルやAQAという認定機関でも提供しています。提供している科目が異なるため、科目選択の幅を広げるためにケンブリッジとピアソン・エデクセルをともに採用する学校もあります。英国など海外大学での出願ではどちらの国際A Levelでも同じく認められています。
※詳細は各大学の出願情報をご確認ください。

※50の幅広い科目から選択が可能。ほとんどの科目をどのような組み合わせでも受講可能で、将来の進路に合わせ自由に選択することができる。一般的には英国の大学への入学には国際A Levelのスコアを3科目提出する必要がある。

対象年齢

科目
日本の高校は科目数が10以上、 IB DPでは6分野であるのに対し、国際AS & A Levelでは3~4科目と、自分の興味関心のある科目をより深く学ぶことが可能です。どのような違いがあるか見ていきましょう。

※IGCSEの科目詳細はこちらをご覧ください。
https://www.cambridgeinternational.org/programmes-and-qualifications/cambridge-upper-secondary/cambridge-igcse/subjects/

ケンブリッジ国際IGCSEの科目には現在「日本語」はないですが、ケンブリッジ国際では日本を含めた世界の需要をもとにシラバスを定期的にレビューしています。今後変更があれば、認定校に情報を提供する予定です。V

 評価

AS Levelの評価は、a(最高)からe(修了の最低条件)の5段階。
A Levelの成績は、A*(最高)からE(修了の最低条件)の6段階。
パーセンテージ・ユニフォーム・マーク(PUM)は、各科目別のグレード詳細を示す数値で、対応表は以下の通り。

※文部科学省
「日本の大学入学審査におけるCambridge International AS & A Levelの活用推進について(2020年)」
 https://www.mext.go.jp/content/20201209-mxt_daigakuc02-100014554_21.pdfより抜粋

国際バカロレア(IB)との成績相関図は以下の通り。

※国際バカロレア(IB)は6科目+コア科目の合計値、国際A Levelは3科目の成績を人数比で対比
※偏差値は人数比から正規分布表より世界で生きる教育推進支援財団が独自に試算した数字であり参考値
 

● 米国、英国、オーストラリア、カナダなど、世界各国の2,300の大学から高く評価、認定されており、ケンブリッジ国際AS & A Levelは日本の文部科学省も認可している。 ※出願条件の詳細は各大学にご確認ください。
● 米国では、ブラウン大学、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、スタンフォード大学、イェール大学など、アイビーリーグやその他のトップ大学を含む900校以上の大学が ケンブリッジ国際AS & A Levelを公式に受け入れ、英国では全大学がケンブリッジの資格を受け入れている。
● 米国やカナダなどでは、一定のケンブリッジ国際A Level科目で優良な成績を修めた場合、大学において最大1年分の単位として認定されることも。

文部科学省 国際政策特任フェロー
東京インターナショナルスクール理事長
坪谷 ニュウェル 郁子 氏

「国際A Level」を活用した日本の大学進学
世界各国の大学で広く認められている国際A Levelを日本の大学受験でも活用できるように文部科学省に働きかけ、2020年から文部科学省で国際A Levelが出願要件として認められるようになりました。今後は日本での国際A Levelの認知度向上が一層求められています。
「国際A Level」と「国際バカロレア(IB)」の違い
国際バカロレアは母語を重要視しているため、日本のI B認定校では日本語でさまざまな科目を学習することが可能です。日本での動きはその後韓国やドイツにも波及し、各国では母語での授業が実施されています。一方、国際A Levelでは、その国の母語に対応するという動きは起こらず、どの国においても共通して「英語で学ぶ」ことが重視されています。文理6分野を広く学ぶIBと、3~4科目を深く学ぶ国際A Levelと、どちらが自分に向いているか見極めると良いでしょう。

ケンブリッジ大学国際教育機構(ケンブリッジ国際)
国際教育資格推進マネージャー
戸渡 文子 氏

ケンブリッジ大学国際教育機構とは
英国ケンブリッジ大学の一部門であるCambridge University Press & Assessmentに属する非営利組織。3~19歳の児童生徒を対象とする5段階の教育プログラムを世界160ヵ国1万校で提供。
ケンブリッジIGCSEとケンブリッジ国際AS & A Levelって何?
ケンブリッジIGCSEは後期中等教育課程として14歳以上を目安に、ケンブリッジ国際AS & A Levelは大学入学準備課程として16歳以上を目安に提供。各国の教育システムや、各校の教育方針によって対象年齢や科目は柔軟に決めることが可能。ケンブリッジ国際認定校は、ケンブリッジIGCSEは70科目以上、ケンブリッジ国際AS & A Levelは55科目の中から児童・生徒に提供する科目を選ぶことができる。

ケンブリッジIGCSEとケンブリッジ国際AS & A Levelの意義とは
各教科の「深い知識」と「概念の理解」をもとに、暗記の積み上げではなく「高次の思考力(Higher Order Thinking Skill)」を育てます。また、21世紀の社会を生きていくために必要な力「自信」「責任感」「内省する力」「イノベイティブな力」を備え「社会貢献」ができる人の育成を目指しています。

科目の「概念」から深く学ぶ
各科目の学習内容は、ケンブリッジ大学をはじめとする世界を主導する大学の専門家が関わり、必ず学ばなければならない「概念」を決めています。例えば、ケンブリッジ国際A Levelの「経済」では、大学や卒業後に仕事をする上で必要となる経済学の概念「希少性と選択」「マージンと変化」「均衡と効率」「規制と公平性」「進歩と発展」について学びます。高校最後の2年間でこのような深い学びができることは非常に刺激的で、大きなアドバンテージになります。最終試験では、生徒がこれまでの学びで育んだクリティカル・シンキングスキルを評価し、その教科で学ぶべき概念をどれだけ理解しているかを問います。

日本の皆さんへ
ケンブリッジIGCSEとケンブリッジ国際AS & A Levelを学ぶことで、英国だけでなく世界各国の大学に広く門戸が開かれます。アメリカの大学ではケンブリッジIGCSE5科目が高校卒業資格レベル、ケンブリッジ国際AS & A Levelが大学初年度のレベルと認められています。日本の文部科学省も、ケンブリッジ国際AS & A Levelを日本の大学への出願資格として認めています。資格がどのように認められているかは日本の大学によって異なりますので、今後はさらに増えていくよう働きかけていく予定です。
数年前の米国大学での調査によると、ケンブリッジ国際AS & A Levelを取得し米国で学ぶ学生の87%が「プログラムが面白かった」、93%が「刺激的だった」と回答しています。
「学ぶこと」そのものが好きになり、新しい自分の可能性を発見し広い世界を知ることができるのが、当プログラムの特徴と言えます。これらの学びによって世界各国の大学、そして日本の大学で輝いてほしいと願っています。

世界および日本のケンブリVッジ国際認定校についてはこちら:
※ケンブリッジIGCSEおよびケンブリッジ国際AS & A Levelのほか、その前段階のプログラムも含む。
https://www.cambridgeinternational.org/jp/schools-and-teachers/find-a-cambridge-school/

~選択可能な科目?テスト時期は?どんな学びですか?~

Crimson Global Academy(東京、オンライン)
オンライン授業で学びたい分野を深く研究

※ピアソン・エデクセルのIGCSE・AS & A Levelを採用。個別指導の場合は他の科目も選択できる場合があります。

一問一答の回答を教えるような旧来の教育から、現代社会においては思考力、専門的知識がより重要になっている。国際A Levelの試験では、数ページにわたり自分の考察を論述するなど、思考力が求められる。
■ 生物ではワクチンの作り方、心理学では症状の分析・診断など、日本の高校では通常学ばないような、実社会に根ざした深い学びを展開。 
■ 各科目でアセスメントを実施し、年齢ではなく習熟度に合わせた指導を行う。
■ さらに高度な専門性を身につけるため、大学レベルのリサーチとして、Extended Project Qualification にも挑戦可能。

静岡聖光学院(静岡、男子校)
国際A Level導入の日本初の一条校※で、日本と海外大学両方を目指す
※一条校とは、学校教育法第一条に指定される、日本の一般的な学校。

※ケンブリッジ大学国際教育機構から認定を受け、国際A LevelをはじめIGCSEなどの国際教育プログラムをオンラインで
 提供することを認められたインターナショナルスクール「Nisai」と日本の一条校として初めて提携。

■ 日本の中・高でも無理なく両立できる体制。日中の授業時間に組み込むことで部活動や通常の学校の課題・復習も無理なく両立できる。
■ 現地校・インターナショナルスクール出身者でなくとも、目指せる国際A Level。
まず、IGCSEでは、「英語」1科目のみを集中的に学び、国際A Levelへの確固とした土台を築く。英語力で課題がある生徒には、IGCSEの準備プログラムや学習の進め方で柔軟に対応。「海外大学は国際A Level以外からも受験できる」ことも併せて周知し、個別対応で進路指導を行う。
■ 日本の伝統的な学びにはなかった多角的な視点「クリティカルシンキング」の考えは、一般生にも良い学習効果が波及している。

EtonHouse International School(シンガポール)
■ 国際A Levelで問題解決能力の育成や自主的な学びを重視する。
■  国際A Levelとともに資格取得・社会奉仕・国際協力などができる「イートンコアプログラム」や「ライフスキルコース」「大学進学・進路指導」で総合的な学びを展開。

試験時期:5~6月(学年8~6月)

Middleton International School(シンガポール)
■ 国際A Levelとともに、National Youth Achievement Award(NYAA)プログラムやスポーツチーム、生徒会としてリーダーシップを発揮したりすることで、大切なライフスキルを育成。

試験時期:10~11月(学年:1~12月)

 

Dover Court International School(シンガポール)
■ IGCSEを13歳から3年間かけて、理解度を深めきめ細やかに学ぶ。
■ 高校最後の2年間の学び(Six Form)でのIBDPに備えて学習する。

試験時期:5~6月(Year11)

Dulwich College(Singapore)(シンガポール)
■ 通常2年間で学ぶIGCSEを、あえて3年間かけることで習熟度を徹底し、IBDPの準備をする。
■ 順序立てて思考する力、問題解決能力、クリティカルシンキング、リサーチ力、議論を闊達にする力を身につける。

試験時期:5~6月

One World International School(OWIS)(シンガポール)
■ 大学レベルの高度な学びを通じて、「リサーチスキル」や「クリティカルシンキング」を鍛える。
■ 確固たる知識を定着させ、IBDPへの準備をする。

試験時期:4~6月 ※科目による

Overseas Family School(OFS)(シンガポール)
■ 選択科目や学習期間に柔軟性がある。通常は2年間で学ぶ。
■ 英語の試験で好スコアの場合には、英国、米国、カナダ、オーストラリアなど世界各国の大学にて「第二言語としての英語」としても評価される。

試験時期:5~6月 
(8月結果通知、11月証書が届く)

Epsom College in Malaysia(マレーシア)
■ 国際A Levelでは、生徒に合わない科目を中断可能で、科目選択が柔軟。
■ IGCSEでは基礎固め、国際A Levelでは、生涯通用する「リサーチする力」「クリティカルシンキング」を身につける。

試験時期:5~6月 

 

静岡聖光学院
オンライン授業で学びたい分野を深く研究
達矢さん

アメリカの大学は「1・2年次に、さまざまな教科を広く学び後から専攻を決めることができる」と知り、海外大学を志望しました。高度な学びに対応できる英語力と知識を身につけたいと思い、国際A Level・IGCSEを学ぶことにしました。提携校Nisaiのネイティブスピーカーの講師から全て英語で学ぶことができ、費用面、時間の面でも効率的でした。将来は新しい価値を創造できる人になりたいと思います。

Crimson Global Academy
オンラインで分野を絞って効率的に学ぶ
綾音さん(英国 Imperial College Londonに進学予定)「海外大学で広く生物学を学び、その後はサメの軟骨魚類などの進化学で研究者を目指したい」と考え、国際A Levelを選びました。通学時間ゼロで、生物・化学・数学・英文学と分野を絞って学べることが効率的だと感じました。学校によってまちまちの成績ではなく、統一試験である国際A Levelのスコアは、自分の学力的な立ち位置も客観的に示してくれると思います。

Crimson Global Academy
日本の高校に通いながら海外大学を目指す
弥門さん(英国 University College London進学予定)「海外大学で広く生物学を学び、その後はサメの軟骨魚類などの進化学で研究者を目指したい」と考え、国際A Levelを選びました。通学時間ゼロで、生物・化学・数学・英文学と分野を絞って学べることが効率的だと感じました。学校によってまちまちの成績ではなく、統一試験である国際A Levelのスコアは、自分の学力的な立ち位置も客観的に示してくれると思います。

Dover Court
将来の目標に合わせて科目を選択
咲良さん選択科目の「ビジネス」では経済や経営の基礎知識が将来役に立ち、「グローバルシチズンシップ」では、世界の多様性や国際的な諸問題に対して、解決策を見出す力を身につけられると思います。歴史の授業では、過去の史実が現代社会にどのような影響を与えているかを学んでいます。IGCSEでは個々の興味や将来の目標に併せて科目を選択でき、自分の成長に繋がっていると実感することができます。

Dulwich College(Singapore)
IB一貫校から編入して学ぶ
桔梗さん MYPを教えるIB一貫校から、IGCSEの最終学年に編入しました。IGCSEでは学習内容が高度で苦労しましたが、自分の興味や好奇心に沿って幅広いトピックの知識を深め、計画的に試験の準備をすることができました。IGCSEで発展編の数学と科学を学んだおかげで、STEMへの情熱に目覚め、来年からのIB DPで数学(AA)HLを学ぶ上でも自信がつきました。

Dulwich College(Singapore)
モチベーションを維持しながら試験に臨む
真菜さん 先生方は、IGCSE試験の準備において、絶大なサポートとモチベーションを与えてくれました。試験までの期間はストレスが多かったですが、先生が楽しいクイズや過去問の解き方、試験対策など、さまざまな復習の機会を用意してくれ試験に臨む準備と自信をつけることができました。理科は苦手科目でしたが、先生方のサポートのおかげで、非常に満足のいく点数を取ることができました。

編集後記
23年国勢調査機関World Population Reviewが発表した「国民の知能指数(IQ)ランキング」では、日本は199ヵ国・地域中1位に輝き、日本の潜在能力の高さも表れました。思考力・専門性を身につけることで変容し続ける社会に対応し、より良い世界へと革新する資質を養えるのではないでしょうか。今後もSpringではさまざまな教育の選択肢をご紹介していきます。

※2023年9月25日現在の情報です。最新情報は直接お問い合わせください。

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