グローバル教育
日本マクドナルドホールディングス株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 日色 保 氏

企業からの声 ~Focus On The Future~
グローバル時代を迎えた今、企業が求める人材、教育とは何でしょうか。
企業の方からお話をうかがいました。

日本マクドナルドホールディングス株式会社
代表取締役社長 兼 CEO 
日色 保 氏

Q 御社のご紹介をお願いします。
マクドナルドのハンバーガーといえば、皆さまも一度は口にされたことがあると思います。1955年にアメリカで1号店がオープンし、以来、68年の間に世界100ヵ国以上におよそ4万店舗を展開しています。日本では、1971年に東京銀座三越に第1号店をオープンしました。現在は約3000店舗を構え、年間来店者数はのべ14億人、その数は日本人のほぼ全ての方に年間11、12回くらいご利用いただいていることになります。働いているアルバイト(クルー)は約19万人おり、年齢をはじめ国籍や人種は多岐に渡り、最年少は15歳、最高齢は95歳です。

Q 新卒採用と求める人材について教えてください。
国籍・性別・年齢による差別のない公平・公正な採用を行っており、さまざまなバックグラウンドを持つ人材が活躍できる体制を整えています。今年はおよそ180人ほどの新卒者を採用し、男女比は半々、大学・大学院卒業が95%、専門学卒業が5%程度です。出身大学名や学部に制限は設けていません。クルーのうち6割が高校生と大学生です。クルーから社員になりたいと思ってくれる人も多く、年によってはクルー経験者が新入社員の5割くらいいます。アルバイトはいわばインターンシップのような役割もあり、その方のポテンシャルを現場の社員が評価しオフィスに推薦することもあります。

日本マクドナルドの2022年度全店売上高は7175億円で、店舗によっては2億円を超えるところもあり、その額は中小企業のレベルと同じと言えます。大きな店ではスタッフも100人以上在籍しているため、各スタッフにリーダーシップが求められています。また、当社では「ピープルビジネス」を掲げており、多様な人々が自分らしさを認め合いながらワンチームとなって働いており、相手を理解する協調性も必須です。

Q  日本におけるマクドナルドブランドの認知は93%と伺いました。「グローバル」と「地域性」はどのようにバランスをとっていますか。
マクドナルドの世界観はどこの国でも同じでないとグローバルブランドと言えません。そのため、例えば「ビッグマック」は世界中どの国でも作り方も味も同じです。誰でも手軽に利用でき、お財布に優しい価格であることもマクドナルドがグローバルブランドである所以の一つです。 牛肉を食べないなど文化的背景も考慮しているため提供している商品は国ごとに異なりますが、お子さまからお年寄りが、朝から晩まで気軽にお食事を楽しんでいただける点は、古今東西変わらないブランドマネジメントの肝となっています。

その一方で、私どもはお客さまあってのビジネスですから地域に根ざしたニーズでお店を進化させることも大切にしています。日本のお店が清潔でホスピタリティが高いと評価をいただきますが、それは会社の方針というよりも、その土地のニーズに合わせて進化してきているからに過ぎません。その意味では、お客さまによってお店が作られていると言えるのです。

例えば、都心のお店は学生やビジネスパーソンが多く、そこで勉強や仕事をしているため、邪魔をせず集中しやすい環境をご提供することが大切で、商品も素早くお渡しするようにしています。郊外の店舗では、毎朝常連のお客さまがいて「おはよう」「今日は遅いね」という会話がクルーと交わされており、丁寧なホスピタリティーが求められます。マクドナルドと言えば金太郎飴のように画一的なイメージを持たれている人が多いかもしれませんが、実際にはお店ごとに大きく異なり、その土地に根ざした運営をしているのです。「地域性」はとても大切で、地域にコミットしないブランドでは、お客さまが遠のく一因になります。それゆえお客さまに寄り添うことは大事で、地域性とグローバル両方のバランスを取るよう心がけています。

Q 産業界が求める「グローバル人材」の必須条件とは何でしょうか。
日本の産業界は今、大きな転換期にあると言えます。新卒採用で入社し、同じ経験をして定年まで働くという就労形式が4、50年続いてきました。現代はものすごく変化の激しい時代で「VUCA※」と言われ、とても不安定で不確実です。実際に当社でもコロナ禍でサプライチェーンに問題がおこり、ポテトの販売を制限した時期がありました。世界と繋がる企業経営では予期せぬ状況の変化に翻弄されることも多々あり、迅速かつ的確な対応が急務です。ビジネスは今後ますますグローバルにつながっていきますから、激しい変化に対応できる力は必須の資質と言えるでしょう。  日本人は大人数が集う場で発言したり、自己主張したりするのが苦手だと言われています。多国籍でいろいろな価値観や人材が集まる場では、「阿吽の呼吸」で物ごとが進んでいくわけはありません。他者の主張に寄り添いながらも、自分の意見でしっかりディベートできなくてはグローバルに働く人材として務まらないと感じます。相手の意見をしっかり理解しながら、自分の意見も主張する力もまた必須だと言えるでしょう。
※VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の4つの単語の頭文字をとった造語。2016年のダボス会議(世界経済フォーラム)で使われて注目されるようになった言葉。

Q 今後10年後20年後を見据えたとき、今、子どもたちにどのようなアドバイスをされますか。
 「多様な経験をしてください」とお伝えします。私が学生さんの前で話す時に、必ず聞くことがあります。それは「この一週間に新しい何かを体験しましたか」です。例えば、初めて現代アートを見に行ったとか、新しいタイプの人に会ったなど何でも良いのです。学生さんの中には、真新しい何かを全くしていないという人が結構います。とてももったいないと感じます。ぜひ若い世代の方々には毎日お決まりのことを繰り返すのではなく、「新しい何か」に挑戦することをおすすめします。一見興味がないと思っても、好奇心を持って挑戦してみることが重要なのです。

現代はインターネットに膨大な情報が溢れ、いわゆる「エコー チェンバー(共鳴室)」のようです。そのような状況では、無意識のうちに自分の考えや嗜好に近い情報ばかりを取り入れ、限られた分野の情報ばかりがどんどん増幅されてしまいます。そうならないためには、意識的に異なる考えを持つ人に触れ、自分と違う考えに関心を持つことが大切なのです。  例えば自分はロック好きでクラシックには興味はないとします。しかしクラシック好きな人はどこが魅力なのかと思いを巡らせ、まずは一回クラシックを聞いてみましょう。やはり自分には合わないと思えばそれまでで、一度は興味を持って聞くということが大切なのです。なぜならそこに思わぬ発見があるかもしれませんし、自分の感性をどんどん豊かにしてくれることにもつながるからです。自分本来の興味関心以外にもアンテナを張ることは、ビジネスの世界でもすごく大事だと感じます。自分の考えや常識だけにとらわれないためにも、子どもの頃にいろいろな経験を積んでいただきたいと感じます。

Q 海外在住のご家庭にメッセージをお願いします。
保護者世代の教育と、現代の世界標準の学びは大きく異なっています。保護者が経験したことのない学びを子どもに挑戦させているケースも多々あることでしょう。海外では多様な経験や考え方に触れる機会に富んでおり、お子さまの将来に計り知れないプラスになると思います。ぜひ海外の地でその土地ならではの価値観に触れるよう、導いていただきたいと思います。

人生100年時代を迎え、人生に二毛作三毛作というステージがある時代 になりました。10年働いたら次の会社で「学び直す」という選択も視野に入れる必要があると感じます。リスキリングが注目されて久しいですが、実際にUnlearn(学び直す)は非常に大事です。短期的に成績が良い、悪いでお子さまの能力に限界を設けず、「人生100年のための学び方」を身につけるよう、お子さんを導いてあげることが肝要だと感じます。
 

現代はインターネットに膨大な情報が溢れ、いわゆる「エコー チェンバー(共鳴室)」のようです。自分本来の興味関心以外にもアンテナを張ることは、ビジネスの世界でもすごく大事です。
意識的に異なる考えを持つ人に触れ、自分と違う考えに関心を持つことが大切です。自分の考えや常識だけにとらわれないためにも、子どもの頃にいろいろな経験を積んでいただきたいと感じます。

日色 保(ひいろ たもつ)氏
1965年 愛知県生まれ、88年 静岡大学人文学部卒、ジョンソン・エンド・ジョンソン メディカル株式会社(当時)入社。同社 ライフスキャン事業部バイスプレジデント、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社代表取締役社長を歴任。18 年 日本マクドナルド株式会社 上席執行役員 チーフ・サポート・オフィサー、19 年日本マクドナルドホールディングス株式会社 取締役、 日本マクドナルド株式会社 代表取締役社長兼 CEOを経て 21年より現職。

 

日本マクドナルドホールディングス株式会社
ハンバーガー・レストラン・チェーンを中心とした飲食店の経営、及び関連事業の株式を所有しグループ連結経営の立案と実行を担う。

2024年1月10日現在の情報です。最新情報は直接お問い合わせください。

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