特集記事
海外生・帰国生が挑む!医学部受験 -前編~

<< 海外生・帰国生が挑む!医学部受験 -後編-はこちら

いつどんな対策をする?海外生・帰国生が挑む!医学部受験 -前編-
~知られざる“帰国生入試”の合格戦略~
新型コロナウイルスの感染拡大や高齢社会となり、医師の社会的需要が高まるなか、大学入試での「医学部人気」は依然根強いものがあります。他学部に比べると難易度も倍率も格段に高いため、早めの情報収集が欠かせません。海外で学ぶ高校生が日本の医学部をめざす場合、どのような心構えをもち、どのような対策をすれば良いのでしょうか。情報が少ない「医学部の帰国生入試」を突破するポイントを、専門家に伺いました。

河合塾 海外帰国生コース責任者
藤田 真由美さん

1992年学校法人河合塾に入塾。教材作成部門、大阪校、大阪校医進館(医学部特化校舎。現大阪北キャンパス 東大・京大・医進館)などを経て、2020年より本郷校海外帰国生コース、2021年より現職。
これまでの指導クラスは、医学部医学科、東京大学、京都大学、慶應義塾大学など幅広い大学、学部に及び、多くの受験生(帰国生・一般生)を合格へと導く。

 

少子化が進むなかでも、医学部入試は年々志願者が増えています。学力トップクラスの受験生が1点を争う一般選抜や、意欲や適性が重視される総合型選抜(旧AO)も高倍率ですが、定員が極めて少ない帰国生入試もまた「超狭き門」と言えるでしょう。
「帰国生入試」とは、一般に保護者の海外赴任などで日本の教育を受けられなかった高校生を対象にした大学入学試験を指します。医学部の帰国生入試について、「全国82大学医学部のうち、帰国生枠を設けているのは国公立大学と私立大学を合わせてもわずか15大学前後です。いずれも募集定員は若干名で、実際に合格するのは1名か2名で合格者が出ない年度もあり、難関中の難関と言えます。

医学部の帰国生入試とは
● 例年9月に始まり、翌年2月まで各大学がそれぞれの日程で選考する長期戦。
● 選考はおもに二段階。
 一次選考では、共通テストの代わりにSATやAレベル、IBDPなどの統一試験のスコアのほか、TOEFL、IELTS、現地校での成績(GPA)などが問われる。
二次選考では、大学ごとの個別日程で面接、口頭試問、
小論文などが課される(下図Ⓐ)。

般入試と異なり、複数の国公立大医学部に出願できるのは、帰国生入試の利点とも言えそうです。選考方法は大学によってまちまちで、中には理科3科目を課す大学もあり、突破のハードルは非常に高いのが現状です。また、入試要項が突然変わることもあり、戦略を立てるために常に最新情報に目を配らなければなりません。

出願要件に変更があった例
【国際医療福祉大学】
海外の在籍期間が『2年』⇨『4年』に変更(2024年度入試より)。
帰国生に対してより高い英語力を求める大学側のニーズが読み取れる。
【慶應義塾大学】
二次試験で理科3科目⇨理科の出題がなくなる(2025年度入試より)。
志願者が増えることが予想される。

医学部受験は情報戦とも言えます。海外のインターナショナルスクールを卒業し、帰国してから「さあ、どこに出願しようか」という感覚でいてはとても間に合いません。高校1年生、あるいは中学生のころから医師になる決意を固め、第一志望をある程度絞り込んでおくことがおすすめです。

 

医学部をめざす帰国生にとって最大の壁の一つが、世界的にみても高いレベルにある日本の学力試験です。

Q 帰国生入試でも一般入試と同じ対策が必要ですか。また、注意すべき科目は。
A 同じ対策が必要なわけではありません。
特に必須科目である数学については、海外の高校では得意だった生徒も帰国してから苦手科目になってしまうほど、日本で数学を学んできた受験生と比べると大きな学力差が生じています。計算力や暗記力、記述力を重んじる日本の数学と異なり、海外の試験には電卓を持ち込むことができ、公式も試験問題に示されている上、答さえ求めることができれば、答までの課程を示さなくても点数は与えられます。また、ベクトルや微分積分を海外では習わないなど、履修内容も大きく異なります。帰国生にグラフを描かせると、原点O(オー)、グラフの方程式を描きません。こうした乖離を埋めるには、相当な努力が必要です。

Q 日本の医学部入試に対応する学力をつけるには?
A  最も大事なのは現地校での勉強です。
まずは海外滞在中に学ぶべきことを着実に学び、学力の絶対基礎となる土台を作っておけば、その上に日本の大学で求められる学力を乗せることができます。理科は英単語を日本語に置き換えれば理解が進みますし、数学の記述力定着にも役立ちます。高校の成績(GPA)をはじめ、AレベルやSAT、TOEFL、IELTSなどのスコアを現地にいる間に上げておくことが大切です。

藤田さんからのアドバイス
海外の高校は宿題や課外活動も多いことでしょう。日本式の難解な問題集をやりこんで、現地での成績を下げてしまっては本末転倒です。最も優れた参考書は日本の検定教科書です。高1、2年生から目を通しておき、日本との違いを知っておくと、帰国後に慌てないでしょう。

 

「親が医師だから」「偏差値が高いから」という理由で医学部をめざす人もいるかもしれません。医学部入試では昨今、すべての大学で面接試験が課されており、受験生の「医師としての適性」が重視される傾向にあります。医師は患者の命にかかわる職業だからこそ、大学側も学力だけでなく、高い『人間力』を備えた学生を選びたいと考えています。この点は、一般入試でも帰国生入試でも共通しています。
語学力は言うまでもありませんが、いろいろな国の文化や価値観に揉まれる中で身に付けた『発信力』が高く評価されます。ここでいう発信力とは、自分の意見を伝えるだけではなく、他者を尊重して、その場をうまくまとめる順応性に富んだ力です。
医師は、看護師や検査技師、管理栄養士ら専門スタッフと協働する「チーム医療」の一員でもあります。現場をまとめるリーダーシップやコミュニケーション力は欠かせない資質と言えるでしょう。
また、日本ではできない国際的な経験を積んでいることもポイントです。医学部に合格した帰国生の中には、欧州でウクライナ難民を受け入れるボランティア活動に取り組んだ人や、Aレベルの課題をきっかけに医療系の研究論文を書き上げた人もいました。また、自分が海外の医療機関で辛い思いをした経験から、『日本で医師になって外国人患者を助けたい』という明確な志を持った人も多いです。大学側は、帰国生の経験値に期待しています。

藤田さんからのアドバイス
海外にいる間にいろいろな経験を書き出しておくことをおすすめします。その経験をもとに自分はどのような医師をめざすのか、医師としての将来像にまでつなげて描けるようにしておくと、志望理由書や面接での説得力が増すでしょう。
医学部の帰国生入試は甘くはありません。晴れて合格後も、日々の勉強を怠らないことが大切です。医学部生になったら、ハイレベルな一般入試を突破してきた優秀な学生と机を並べることになるのですから。「医師は一生勉強」とも言われます。合格は医師になるためのスタート地点であることも忘れないでください。

※2023年11月25日現在の情報です。最新情報は各機関に直接ご確認ください。

- 編集部おすすめ記事 -
渡星前PDF
Kinderland