グローバル教育
Gakkenアジアパシフィック 代表取締役社長 能 宏彰 氏

自分の力で考えて問題解決に取り組む人を育てるために必要な学びは、根本の部分では世界共通で、昔から変わっていないのです。

弊社が長年出版や教室事業で取り組んできたことが、近年必要とされている「21世紀型の学び」と合致していることは偶然ではないと考えています。

グローバル時代を迎えた今、企業が求める人材、教育とは何でしょうか。
企業の方からお話をうかがいました。

Gakkenアジアパシフィック 代表取締役社長 能 宏彰 氏

Gakken アジアパシフィック
代表取締役社長
能 宏彰 氏

Q.御社のご紹介をお願いします。

読者の皆さまは、学研というと「科学」と「学習」を思い浮かべる方が多いことでしょう。現在の「学研ホールディングス」の前身、学習研究社(学研)は1946年、終戦間もなく創業しました。創業者である古岡秀人は元教員で、戦後の焼け野原と混乱の中で「この国の復興のために一番必要なものは何か」と自問し続け、たどり着いた答えが「子どもたちの教育」でした。国の復興の要になる次世代の教育こそが自らの使命、として立ち上げたのが学研です。当初は主に出版事業に取り組み、創業間もなく創刊したのが「科学」と「学習」でした。

このシリーズは書店での販売ではなく、学校を通して教員が直接配本する形を取ることで急速に普及しました。その後、代理店制度を導入し、直接ご家庭に販売員が配本する形へと変化していきましたが、ピークだった79年には「科学」と「学習」併せて月販670万部に上り、小学生の2人に1人以上が購読している時代が続きました。

現在では長年蓄積された学研独自の教育コンテンツを活かして、さまざまなコンテンツ開発やサービスの提供に取り組んでいます。また「学研教室」を始めとした教室・塾事業サービスや、急速に進みつつある少子高齢化に対応した高齢者福祉・子育て支援事業などにも力を入れています。更にタブレットやPCで学べるオンラインの教育サービス「学研ゼミ」や、日本の企業で雇用されている外国人向けの「日本語学習e-ラーニング」など、この時代の社会のニーズに合わせた事業も展開しています。

Q.海外進出の沿革について教えてください。

従来出版業がメインで日本の市場が十分に大きかったこと、そして日本語という言語の壁もあり、海外展開は版権(著作物の現地語版を販売する権利)の販売が中心でした。書籍や教材の在庫を抱えての海外展開はリスクも伴うため、あくまでも日本向けの制作販売にとどまっていたのです。

しかし日本の少子化が進むにつれて世界に目を向けてみると、子どもの数が多く、教育に熱心な傾向があるアジア地域は非常に有望な市場と考えられました。学研が開発した良質な教材やコンテンツは間違いなく世界でも通用すると確信し、2013年にシンガポールに駐在員事務所を開設、14年にはミャンマーに現地法人を設立し、翌年シンガポールも現地法人化しました。その後、マレーシアとタイにも現地法人を設立し、各国で「学研教室」の展開を始めました。現在ミャンマー、タイ、マレーシアで合わせて1,200人を超えるお子さんが学研教室に通っています。また、16年にはインドネシアに商事駐在員事務所も開設しており、現在これらの国々で教材の販売も行っています。主な商品は日本で「多湖輝の頭脳開発」シリーズ(現在「学研の幼児ワーク」に名称変更)として累計4,500万部 を販売した幼児向けの教材の英語翻訳版(「GO GO SERIES」)などです。また、新しい事業として日本で毎年行われている「算数オリンピック」を、昨年初めてシンガポールで実施し、今年はインドネシアからも合わせて200名が参加しました。

弊社が創業当初から大切にしていることに、「自らが考える力を育む」があります。こうした教育アプローチは「21世紀型の学び」にも通じるもので、問題解決に前向きに取り組む人を育てるためには不可欠な力です。教育にはさまざまなアプローチがあるように思われますが、実は根本の部分では世界共通で昔から変わっていないと確信しています。この視点は弊社が海外に進出する上での大事な指針となっています。

Q.海外展開を進める上で、苦労されたことは何ですか。

「学研教室」は、アジアの国々でもフランチャイズ方式で運営しており、まずは現地で教室の運営と講師の希望者を募り、研修を行います。アジアの教育の傾向として「教師が生徒に一方的に教える」という方式が一般的だと考えられています。しかし前述した通り、弊社の教育のコンセプトは「自分で考える」ことです。教材には最初に単元の説明や例題が提示されており、これを生徒が自分で読んで理解し、練習問題を解いてマスターすることを目標にしているのです。たとえ間違っていてもすぐには解法を教えず、生徒のやる気を引き出すように声がけし、再挑戦させます。どうしても分からない時にだけヒントを出すのが先生の役割なのです。ところが「説明して教えることが仕事」と考えている教師は、つい解法や答えを教えてしまい、生徒が自分で必死に考える機会を逸してしまうことがあります。そうならないためにも、最初に「学研が考える『教育』のあり方」をしっかり理解していただくことを徹底しています。

保護者の方にも、学習を始める前にこのコンセプトをしっかり理解していただかないといけません。アジアの親御さんの多くは、学校のテストの成績に神経を尖らせています。「テストですぐに好成績を出せるようにしてほしい」というご期待が高い場合には、学習の目的をきちんとご理解いただくことに心を砕いています。

教材の販売に関しても、各国で文化的な背景を考慮する必要があります。例えば幼児向けの教材には動物の絵がふんだんに使われ、楽しい雰囲気を出しています。言葉を翻訳することは容易ですが、イラストの中に可愛い豚の絵が入っていたりすると、イスラム教の方などは文化・宗教的に受け入れられない場合もあります。こうした異文化間の齟齬がないように、教材をしっかりと精査して修正をしていくことが、現地で広く受け入れていただくための優先課題だと考えています。

Q.御社で求められる人材とは。

グループ全体として、新卒採用は幅広い人材を募集しています。教材やコンテンツの開発には、創造性が豊かなことが強みとなり、新しい何かにチャレンジすることが好きな人が求められます。最近では教育業界にとどまらず異業種からの中途採用者も少なくありません。

海外の拠点として必要なのは、専門的な知識やスキルを持ち合わせ、「なぜこの教材が良いのか」「この学びはどのように効果的なのか」をしっかりと伝えられる人材です。商品やコンテンツを深く理解している専門家の言葉には説得力があり、人を動かす力があるのです。

ビジネスでは「良いものだから売れる」と簡単に考えずに、専門的な内容でもきちんと相手に分かるように伝え、「この国でこれを広めたい」という熱意を持つことが大切です。英語力はある程度は必要ですが、商品に対する深い理解と、文化や言葉の壁を超えられる熱意が鍵になると感じます。

世界では急速にIT化が進み、教育の現場でもITやAIの活用などが必須ですが、生身の先生が不要になることはないと考えています。学ぶ意欲を刺激できる情熱のある教師とのコミュニケーションは、この時代の子どもたちにこそ必要です。

Q.海外で暮らす日本人のご家族へ。

子ども時代に異文化に触れ、自分と異なる価値観を自然に受け入れられることは、グローバル化が進むこの時代において非常に大きな強みになると思います。また、コミュニケーション力をつけるためには、言い古されているかもしれませんが「読書の大切さ」を見直してほしいと感じています。小学生でも高校生でも、人生のどこかの時点でさまざまなジャンルの本を多読する素地と環境を整えてあげたいものです。どの言語であれ、本を読むことは教養や知識だけでなく「分かりやすく伝える術」「説得するための論理展開」などが自然に身につく貴重な学びです。学校や習いごとなど最近のお子さんはとても忙しいようですが、長い休みなどを利用して、ぜひじっくり読書に浸る時間も作っていただきたいと思います。

会社概要

Gakken
アジアパシフィック

「教育」を基軸とする雑誌・書籍を原点に、エンターテイメントや趣味・実用・教養分野などライフスタイルの変化に応じて多岐にわたる出版事業を展開。さらに幼稚園・保育園・学校に向けた教材・教具や、学研教室をはじめとする教室・塾事業の他、近年では高齢者福祉・子育て支援事業にも積極的に進出。アジア諸国へのコンテンツの紹介にも注力している。

『企業からの声』バックナンバーはこちら
https://spring-js.com/expert/expert01/fof/

- 編集部おすすめ記事 -
渡星前PDF
Kinderland