グローバル教育
横河エンジニアリングアジア 社長兼CEO 竹岡 一彦 氏

日本人はいざという時には腹をくくって諦めずにやり通す強さがあります。

技術力や語学力など以上に、「より良いものを作ろう」「お客さまに喜んでいただこう」と思うパッションや向上心、相手を気づかう「おもてなしの心」が、高品質な製品やサービスにつながります。

グローバル時代を迎えた今、企業が求める人材、教育とは何でしょうか。
企業の方からお話をうかがいました。

横河エンジニアリングアジア 社長兼CEO 竹岡 一彦 氏

横河エンジニアリングアジア
社長 兼 CEO
竹岡 一彦 氏

Q.御社のご紹介をお願いします。

横河電機と聞いて、具体的な製品が思い浮かばない方もいらっしゃるでしょう。当社はグローバルに事業を展開する計測・制御機器メーカーで、現在は日本国内最大手、主力の制御システムでは世界で第3位のシェアを誇りますが、始まりは1915年にたった4名でスタートした電気計器の研究所でした。工業化が進む日本において、それまで輸入に頼ってきた電気計器の国産化を目指した新しい挑戦でした。創業の精神「品質第一主義」「パイオニア精神」「社会への貢献」は今に引き継がれ、変化の激しい近年も国内外の、実にさまざまな産業界の発展を支えてきました。

近年はただ製品を提供するだけでなく、お客さまが困っていることを解決する「ソリューション」を提供するコンサルティングサービスが主流になってきています。製品は、石油・石油化学・化学・電力や鉄鋼など幅広い業種のプラントにおける生産設備の制御・監視システムや、自動車の開発や、通信、環境計測などで使用する電気・電子測定器、航空機の計器システム、ライフサイエンス事業など、多岐にわたります。

Q.海外進出の沿革について教えてください。

当社は「技術力」を柱とした会社ですが、当初は国内で最高の技術でも、海外に目を向ければ先駆者がいるような状況でした。海外からも学び、将来的には「海外で市場を競い合う日も来るだろう」という意気込みもあり、初期の頃から世界には目を向けていました。1955年には北米の会社と技術提携し、57年には北米営業所を開設しています。63年には米国ヒューレット・パッカード社との合弁会社を、82年にはゼネラル・エレクトリック社(GE)との合弁会社を設立するなど積極的に展開し、日本の技術力の高さを示してきました。グループ全体では現在世界61ヵ国で、海外100社と国内12社でグローバルに事業を展開しています。

シンガポールには74年に進出しました。現在は当地にも多くの日系企業がありますが、当時最初に計測・制御機器メーカーとして工場を建設したのは当社です。現在はASEAN、オセアニア、台湾など13ヵ国を統括する地域統括事務所として機能している他、米国、英国、インドと並んで本社直轄のR&D(技術研究開発)、サイバーセキュリティ対策ラボの機関があります。さまざまな国から研究者・エンジニアが集まっており、当社の主力製品である制御システムはすべて日本ではなく当地で製造し、日本を始め全世界へと送り出しています。

近年シンガポールは、Industry4.0を基本としたIoTコア技術を最大限活用したスマートシティ化を推進しています。また、将来の食糧難に備えたASEANの「シーズバンク」※や、World Business Council for Sustainable Development(持続可能な開発のための世界経済人会議)など、世界中のトップ企業が持っている技術を集めて地球規模の課題に取り組むプロジェクトにも、政府として積極的に参加しています。当社はこれらのプロジェクトに協力する機会も多々いただいています。
※シーズバンク:多様な植物の種を長期的に貯蔵管理するプロジェクト

Q.海外展開を進める上で工夫されている点は。

当社の製品は、重要インフラである製造工場などの稼働を担う「プラント運転」の要であるため、「プラントの連続稼働」「正確に作動しなければいけない」ということが大前提です。実際、当社で製造した制御システムの稼働率は設計上「99.99999%」であり、高い評価を得ています。これらお客さまに貢献し、高い評価を得るためには、それら活動に従事する人財、「専門性のある人財を雇用すること」と同時に、それぞれの強みを発揮できるポジションに「適材適所に配置していくこと」です。この専門性と仕事のマッチングがうまくいかないと、継続的な会社運営に支障をきたすことになります。また、海外展開する中で日本のやり方を日本人が持ち込んでも長期的にはうまくいきません。現地のスタッフだけでも運営していけるように、現地の文化やニーズに合わせて現場が主導していく「現地化」を進めていきました。実際にこのアセアン・オセアニア・台湾地域では約3,000名の社員が在籍していますが、そのうち日本人は40名ほどで、1割も占めていません。

大多数である現地スタッフの力を高め現場中心で事業を進める一方で、近年は現地に任せきりにするのではなく、最終的な決断は世界10ヵ所の地域統括や日本の本社が一緒になって行うようになりました。つまり「現地中心のローカルマネージメント」と「グローバルマネジメント」のハイブリッドのような形です。一言で「現地」と言っても当社シンガポールオフィスだけをみても12ヵ国の国籍のスタッフで構成されていますので、グローバルによるトップダウンアプローチだけではなくローカルマネージメントをある程度尊重し、柔軟な姿勢で綿密にコミュニケーションをとることを常に心がけています。

Q.御社で求められる人財について教えてください。

「Co-innovating tomorrow」をコーポレート・ブランド・スローガンとしているYOKOGAWAが、社員に求めているのは主に次の3点です。「自ら行動し変化を起こせること」、「失敗を恐れずチャレンジできること」、そして「現状に満足せず常に自らを高めること」です。現在、YOKOGAWAグループの事業は海外が7割、国内が3割というビジネス比率ですので、海外で仕事をすることを視野に入れた人が必然的に多くなっています。また、即戦力として既卒採用や外国人の採用など、採用の多様化も進んでいます。既卒採用は別の枠を設けていますが、外国人は一般の日本人と同じ枠で採用しています。日本で学び、専門性や日本文化への理解があり会社に多様性をもたらしてくれる貴重な人財は、日本人社員に良い刺激になっています。

今後も時代と社会のニーズに応えて更に進化していくためには、このような多様性の推進は必須です。国籍だけでなく、男女比についても女性のマネージャーやエンジニアが増え、性差を感じない環境になってきました。特に海外では、柔軟性とたくましさを兼ね備えた日本人女性の活躍が目覚ましいと感じます。当社における初の女性エンジニア海外駐在員は現地で出産・子育ても経験しています。多様なスタッフが最大限に個々の力を発揮できる環境を整え、今後も国籍や性別を問わず優秀な人財を確保していかねばなりません。

また、現地のスタッフが圧倒的多数という人事構成で、日本で作ってきたのと同様またはそれ以上に高付加価値の製品・ソリューションをお客さまに提供していくためには、単なるKnow-How継承や技術移転を推進するだけでは不十分です。個々の人財のマインドセットを変えること、つまり、自社の製品・ソリューションにプライドを持ち、常に「より良いものを作ろう」「お客さまに喜んでいただこう」と思うパッションや向上心を抱かせ、更に高いレベルにチャレンジをしていただくようにナビゲートし、それによって生まれた付加価値を共有していることです。この付加価値を共有する努力が、最終的に製品・ソリューションの高品質やお客さまとの信頼関係を確保するだけでなく、海外で課題になりがちな離職率も低く抑えることにつながっています。

Q.海外で暮らす日本人のご家族へ。

国外に暮らしていると、日本のことが冷静に、客観的によく見えてくるものです。

課題が山積する日本を心配することも当然ありますが、個人的にはもっと日本人であることにプライドを持っても良いと感じます。日本人の最大の強みは「おもてなしの心」です。職種・業種にかかわらず、この「おもてなし」の精神が誠実な仕事ぶりや丁寧なマナーに反映され、製品やソリューション提供サービスの品質へとつながっているのです。また、私自身海外で仕事をする中で感じるのは、「日本人には、いざ腹をくくれば最後まで諦めずに頑張り通す強さがある」ということです。語学やその他のスキルなどあまり心配しなくても、この芯の強さがあればグローバルな環境下で十分やっていけると思います。海外生活では、その当地の良さを感じ、習得すると同時に、親御さんがお手本となって、「日本人ならではの強み」をぜひお子さんたちに受け継いでいただきたいと感じます。

更に、海外に在住しているからこそ身近に日本全国から来られている方々ともお知り合いになる機会が多々あると思います。これらの機会を大事にして頂き、シンガポールだけでなく、アセアン、更には世界各地、そして日本全国の方々とコネクトできる稀有な環境を大事にしながら、人と人とのつながりを生涯の財産としていただきたいと思います。

会社概要

横河電機 アセアン・オセアニア・台湾地域統括
Yokogawa Engineering Asia Pte. Ltd.

各種プラント生産設備の制御・運転監視を行う制御分野の世界的リーディングカンパニー。電気・電子計測機器の他、航空機用の表示装置やエンジン計器、燃料残量計などの各種センサなどを製造する。近年は製造業のスペシャリストとして製造業務のトータルソリューションを提供するコンサルティングサービス事業も大きな柱になっている。

『企業からの声』バックナンバーはこちら
https://spring-js.com/expert/expert01/fof/

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