グローバル教育
日本アイ・ビー・エム株式会社(日本IBM) 取締役専務執行役員 山口 明夫 氏

テクノロジーが日々進化する中で、自ら積極的に新しいものを吸収し、変化に次々と対応でき、主体的に変化を起こせる人材が求められています。

AIを安心して活用いただき、社会や人々のお役に立つように進化させ、それを活用できる人材を育成するご支援をしていくことが、我々IBMとしての責務であると考えています。

グローバル時代を迎えた今、企業が求める人材、教育とは何でしょうか。
企業の方からお話をうかがいました。

Q. 御社のご紹介をお願いします。

IBMは米国で1911年に創業し、日本では1937年に日本ワトソン統計会計機械株式会社として設立されたのが始まりでした。当初は業務効率の向上につながる計算機器の製造を手がけていましたが、その当時から「いかにお客さまの事業にお役に立てるか」「社会から最も必要とされる存在になれるか」を考え、時代に合わせて新しい技術やサービスの開発・提供に努めてきました。今日においてもそのDNAは生き続け、ITの力で金融、製造、流通、小売からスポーツ、宇宙産業にいたるまで、さまざまな領域で世界を変えるイノベーションを起こし、IT業界の中でお客さまに最も必要とされる存在となれるように挑戦をしています。

特に近年はAI(人工知能)を駆使したIBM Watsonを中核とした「コグニティブ・ソリューション※」が多くの業界で採用され、注目をいただいています。経営とテクノロジーが切り離せない現代社会において、私たちが提供するサービスへの期待が更に増していることを実感しています。また、企業に変革をもたらすだけでなく、世界中で蓄積した技術やノウハウを結集してさまざまな社会課題に取り組むことで「より良い社会をつくることへの貢献」が、IBMのミッションであると考えています。

※与えられた情報を処理する単なる機械ではなく、自ら理解・推論・学習するAIシステムを使ったソリューション

日本アイ・ビー・エム株式会社(日本IBM) 取締役専務執行役員 山口 明夫 氏 日本アイ・ビー・エム株式会社(日本IBM)
取締役専務執行役員
山口 明夫 氏

Q. どのような人材を求めていますか。

今、テクノロジーの進化のスピードは日々加速し、社会のあらゆる場面で集められるデータがかつてない勢いで増加しています。我々はこうした圧倒的な変化に常に対応できなければなりません。人材という観点で見ると、例えば私自身はIBMで32年間勤務をしていますが、「会社に長くいるから強い」ということはなくなってきました。なぜなら、明日にでもまた新しい知識を必要とするテクノロジーが開発されようとしている時代において、社歴は全く関係がなく、今年入ってきた新入社員と私は同じスタートラインに立たなければならないからです。このような時代を生き抜くためには、自ら積極的に新しいものを吸収し、変化に次々と対応でき主体的に変化を起こせる人材が求められています。学生と社会人の年数を比較すれば、明らかに社会に出てからの方が長いですから、常に新しいことを吸収しながら成長し続けられる人であってほしいと思います。

その一方で、「変化してはいけないもの」も大切にしています。例えば「お客さまの成功のために全力を尽くすこと」「互いに尊敬の念を持って他者に接する態度」など、環境が変わり厳しい状況に置かれても、人としてぶれてはいけないことがあります。変化すべきところは柔軟に対応し果敢にチャレンジする気概と共に、何があっても守り続ける強い意志、この両面を兼ね備えた人がこの時代に必要とされる人材だと思います。

日本IBMのミッションは、日本のお客さまと共により良い社会づくりに貢献することであり、当社を含むIBM自体は世界中で約36万人以上が働く組織です。一つのテーマやプロジェクトのために、専門性に応じてさまざまな国のIBMの社員が結集して力を出し合うことも当たり前に行われています。国の垣根を超えてチームが一丸となって働くフラットな企業風土と、いつも前向きに創造性を発揮しながら周囲と協働できる人材がIBMの誇りなのです。

弊社のような国境を意識することがない企業では、「グローバルに活躍できる人材」が必要です。グローバルな人材には、備えるべき3つの資質があると考えています。第一に、「リスペクト(尊敬)」ができる人。つまり、どのような国籍や経歴などのバックグラウンドの方々とでも、違いを認め合えることです。二つ目は「トランスペアレンス(透明性)」、つまり可視化する力です。それぞれの局面で自分がどう考えて、なぜそう判断したのか、ということをきちんと明確に伝えて共有できなければいけません。そして三つ目に「フェアネス(公平性)」です。多様な組織では、誰もが納得できる公平性を保つことは必須です。これらの力を持ち合わせた人が、グローバル人材として活躍できるのだと考えています。

Q. 社内教育も多彩だと伺いました。

最近は従来の新卒採用者に加えて中途採用者も増えており、中にはITとは全く異なる業界から入社されてくる方も多くいます。その一方で、当然ながらIT業界からテクノロジーに強い方が入社することもあります。「業種」・「テクノロジー」いずれの切り口でも、さまざまな背景・経歴をお持ちの方が入社するので、入社後には多岐にわたる分野のさまざまなレベルの研修を用意しています。自分がどのような教育をどの深さで受けるべきなのかが分かるシステムを活用し、必要に応じて研修を受講することができます。研修はオンラインで受けるものから、さまざまな国のIBMの拠点で開催されるものもあり、自ら考えて自分の成長をデザインしていく必要があります。「自分の価値は何だろう」「これからどのような力を身につけなければいけないか」と、常に自分で考えて学ぶ姿勢が求められています。実際に私自身も、新入社員の頃と比べると現在の方が圧倒的に学びを必要としており、実践しています。

Q. AIが活躍する時代に向けて、大学との共同プロジェクトにも取り組まれたそうですね。

IBMの人工知能(AI)であるWatsonが多くの企業に採用・導入いただき、各界で注目されています。一方で、業務に急速にAI導入の流れが進み、AIを使いこなせる人材の養成が急務となっています。そこで、「AIを作る側」の我々が、関西学院大学と協力して「AIを使う側」のスペシャリストを養成するコースを開発しました。それが、来年度から開講する「AI活用人材育成プログラム」です。

これまでICTやAIというと、大学では理系の学生が学ぶ分野でしたが、実際社会に出てAIを使うのは文系・理系を問わず誰もが対象となります。そのため、世界初の取り組みとして、文系の学生の方々にも興味・関心を持っていただき、身近に感じてもらえるコースを開発しました。このコースは、文系の学生で初学者の方でも、ICTやAIなどについての最先端の知識や、各業界における導入例や活用方法などを学ぶことができるようにカリキュラムの内容が工夫されています。

社会人の早期の段階でAIを正しく理解し、活用することが求められる時代が始まっています。このプログラムを受講された方々は、まさに社会、時代のニーズに応える人材となられることを確信しています。

Q. 「AIの普及によって仕事がなくなる」という危惧も聞かれますが。

IBMでは信頼されるAIを活用いただくために、透明性のある情報提供をすることをお約束すると共に、AIは「人間の知性を拡張するためのもの」と定義し、開発そしてサービスのご提供をしています。AIの普及により、AIが人間を代替する仕事は確かにありますが、それ以上に社会をより良くする変化をもたらし、新しい仕事も生まれてくるはずです。過去にも、蒸気機関車が発明された時やコンピューターが普及し始めた時、それぞれ同じような危機感がありました。しかし、結局その発明や技術革新は新たな仕事を生み、社会を良き方向に導く変化をもたらしたことは言うまでもありません。AIを安心して活用いただき、社会や人々のお役に立つように進化させ、それを活用できる人材を育成するご支援をしていくことが、我々IBMとしての責務であると考えています。

Q. 海外で生活するご家庭へのメッセージをお願いします。

私自身は米国・ニューヨークに駐在をした経験があり、その時に初めて「自分は日本人なんだ」と心の底から感じました。海外に行けば、自分がその現地の「外国人」になります。自国を客観的に知り、自分のアイデンティティを考えるなど、その国で暮らしたからこそ、感じたり考えたりすることができる経験が大切であると実感しました。また、ご家族で海外生活をすると、「家族が一致団結して非常に仲が良くなる」という傾向があると思います。異国での生活や新しい学校でそれぞれ苦労し、その悩みを共有し、支え合って乗り越えていく経験は、その時は非常に苦労が伴うかもしれませんが、とても貴重なことです。

海外で多様な異文化を経験することで環境の変化にも柔軟に対応でき、その環境を自身の力で変える原動力になると思います。お子さまが現在の海外生活が糧となり、将来、世界を舞台に大きく雄飛され、ご活躍される日がきっと来るのではないでしょうか。

会社概要

日本アイ・ビー・エム株式会社(日本IBM)

IBMコーポレーションの日本法人として1937年に設立。ITに関する製品やサービスを提供し、企業に価値を届けてビジネス成長を支援している。近年はAIを駆使したIBM Watsonを中核としたビジネスソリューションや、ハイブリッド・クラウドやマルチクラウドを活用したクラウド活用の本格展開を支援し、各種業界のさまざまな業務プロセスに変革をもたらしている。

『企業からの声』バックナンバーはこちら
https://spring-js.com/expert/expert01/fof/

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