グローバル教育
桐朋女子中学校高等学校 校長 今野 淳一氏

「ことばの力」を育み、世界とつながる教育

はじめに

本校は、1959年に初めて帰国生を受け入れて以来60年にわたり、帰国生が「あるがままの自分」でいられる学校を目指し取り組んできました。2019年3月現在、帰国生は世界24ヵ国から104名が学び、中でも6年以上の長期間海外に滞在された生徒は30%にも上ります。海外生活の長い生徒が多数集う学び舎として万全のサポート体制を整え、帰国生が持つ「柔軟性」や「持続力」をさらに引き出す教育を実践しています。

本年度から校長に就任した私は、ますますグローバル化が加速する新しい令和という時代にふさわしい「帰国生教育とは何か」を考え、帰国生受け入れ伝統校としてあるべき姿を日々模索しています。

桐朋女子中学校高等学校 校長 今野 淳一氏

「聞く」ことがコミュニケーションの秘訣

子育てにおいて私が一番大切だと考えていることは、子どもの話をしっかり「聞く」ことです。それは、幼少期でも中高生のお子さまに対しても言えることだと思います。特にお子さまが多感な十代の時期には、反抗期と言われるように一時的に親御さんとあまり口をきかなくなることもあるでしょう。そんな時でも、まずはお子さんの話をしっかり聞き、時には声がけをしてください、とお願いしたいです。

以前、学校での素行が悪く、成績も低迷していた生徒がいました。親御さんを呼んで話し合いをしましたが、退学の一歩手前の状態でした。私はそれまではその生徒とあまり話をしたことがなかったので、まずは1対1で話をしたいと思い、時間を設けました。すると、思いの外話が合い、生徒も私の言葉に共感してくれた部分があったようで、少しずつではありましたが心を開いてくれるようになったのです。この関係が功を奏したのか、学校での態度も徐々に改善されていきました。

今振り返っても、私が特別な何かを言った訳ではありません。ただその生徒の話をじっくり聞き、相槌を打っていただけです。恐らく、ご家庭に少し複雑な事情があったその生徒にとっては、しっかり自分の話を聞いてくれたことが嬉しく、心に響いてくれたように思います。まずは相手の話を聞いてあげる、これはどんな「魔法の言葉」よりも効果があるコミュニケーションの秘訣だと実感しています。

受験指導に偏らない人間教育 

世間一般には高校3年生という学年は「受験生」であり、生徒たちにとっては将来の進路を決定する大事な時期であることは言うまでもありません。どのような大学に進学するかはまさにその学校の特徴の一つでもあり、親御さんも大いに注目されている点でしょう。

大学入学者の選抜については「学力検査に偏らず総合的に人物を評価する考え」が広がりを見せており、文部科学省は大学合格者全体の3割は推薦・AO入試にするよう推奨しています。2020年度からはさらに拡大され、5割に改められるとも言われています。本校では近年、推薦入試やAOで合格する割合が大変高くなっており、2019年度は5割を超える実績を出しました。高校3年生の一年間は受験だけに集中するよう指導をする学校もありますが、本校では、しっかりとした受験指導をする一方で、最後まで高校生である部分も大切にしてほしいと考えています。

生徒たちが大切にしている年間行事の中に「体育祭」があります。学年対抗で競うため、特に高校3年生にとっては一番思い入れがある行事です。下級生たちも先輩だからと配慮することなく果敢に挑んでくるため、白熱した競技が繰り広げられ、まさに「青春の1ページ」を刻んでいます。本校生徒の進学先は多様であり、国内の難関大学をはじめ、帰国生では海外の大学を目指す生徒もいます。毎年3月に合格結果が出て思うこと、それは、体育祭や部活などでキラリと光る活躍をしている生徒ほど、受験への切り替えも早く、大学進学も「さすがだな」という実績を残しているということです。世界から集まる帰国生が多く学ぶ本校では、机上の勉強に偏ることなく人間的な成長にも目を向け、推薦・AO入試をはじめとする受験指導もしながら、一つひとつの目標に集中し、全力を出し切ってやり抜く人間力を育んでいます。

DLPで世界に通じる「ことばの力」を育む

人はことばを通して考え、自分の考えを他者に伝えます。本校では、「ことばの力」はすべての活動の土台になると考え、6年間を通して本校独自の「デュアルランゲージプログラム(DLP)」に取り組み、日英両言語において「真のコミュニケーション力」を育むことに力を入れています。

これからの時代「異文化コミュニケーション」が大切であることは言うまでもありません。一般に「異文化コミュニケーション」と言うと、国籍が違う人同士のコミュニケーションを意味し、実践するためにはネイティブスピーカーのような語学力が必要だと思いがちでしょう。しかし私は、必ずしも国や文化が異なる人種間のことを言うのではないと考えています。例えば日本人同士でも、男性と女性、昭和生まれと平成生まれでは考え方や価値観が異なり、理解しにくいこともあるでしょう。その一方で、日本人とシンガポール人など国籍が異なっていても、好きなアーティストが同じで閲覧しているYouTubeが一緒など共通点が多ければ、すぐさま心の距離は縮まるものです。つまり、相手が誰であっても、語学力と自分の気持ちや考え方を的確に伝える「スキル」さえあれば、コミュニケーションは可能になるのです。

これからますます国際化する社会において、語学力が大切なことはもちろんですが、語学力と並んで重要なのは、自分の思いを的確に「言語化できるスキル(言語技術=ランゲージ・アーツ)」で、そのスキルさえあれば、国籍や文化の違いにかかわらず、円滑なコミュニケーションを取ることは可能だと考えています。

本校のDLPでは「ことばの力の養成」「世界を読み解く力の養成」「高度な英語発信の実践」という3つの柱を設け、最先端の「言語技術」教育を導入し、言語を論理的に扱う力を体験的に習得できる教育を行っています。6年間で培われる「言語技術」を用いれば、あらゆる文化背景を持つ人とも理解し合い協働することができ、国の垣根を超えた異文化コミュニケーションも可能になると確信しています。グローバル社会で他者と協働して問題解決にあたるためには、必須の力だと言えるでしょう。

進路は広く海外へ

日々の授業で磨かれた「言語技術」や「ことばの力」を生かす場として、本校では多彩な異文化理解プログラムを提供し、国内で、そして実際に海外に赴き、異文化コミュニケーションの機会に多く触れています。英語での発信力を集中的に学ぶ「Creative Englishワークショップ」や日本の大学院に留学している海外からの留学生とともに学ぶ「異文化サマーキャンプ」、ニュージーランドで1学期間高校生活を送る「ニュージーランドターム留学プログラム」などがあり、それらのプログラムを通して知見を広げるとともに、高度な英語発信力を養成しています。最近の若者は海外に出たがらないと聞きますが、やはり、中・高生のうちにいろいろな経験を通して、どれだけ異文化に触れ合うかが将来の異文化耐性につながると信じて疑いません。はじめは海外への敷居が高いと感じていても、経験を積むことでその敷居は確実に下げることができるのです。

本校が誇る「海外協定大学推薦制度(UPAA)」は、日本の中でも選ばれた学校だけが加入できる大変優れた制度です。一定の英語力(IELTS 5.5~6.0)を身につけることで英米の有名大学に推薦入学することができ、進学可能な大学は世界の大学ランキングで知られる「タイムズハイヤーエデュケーション(THE)」の上位にランクインしています。入学の権利を得た上で、日本国内の大学を併願受験することも可能なため、多彩な選択肢を得ることができる、まさに理想的な制度と言えるでしょう。日本人として真の人間教育をしながらも、将来は日本と海外両方の大学を視野に入れ、世界中で自分の可能性を試すことができる環境が、本校には整っているのです。

桐朋女子中学校高等学校 校長 今野 淳一氏 映画の撮影にも使われたキャンパス

海外で暮らすご家族へのメッセージ

海外で暮らす皆さんは、日本と海外両方の文化に精通していてまさに生涯にわたる大きな財産を築いていると思います。その財産を生かし、ぜひ周囲の友だちに現地での経験を率先して伝え、背中を押すような役割を果たしていただきたいと思います。

帰国後しばらくは日本の学校に馴染めず、「英語環境にいればもっと自分が出せるのに」「もっと向こうにいたかった」「帰国になったお父さんが悪い」などと切り替えができないお子さんも少なからずいます。長年多くの海外生を見てきて感じることは、現地での生活を楽しみ「やり切った」と思えた生徒ほど、帰国後も目の前のことにしっかりと集中でき、日本の生活にも馴染むのが早いということです。

本校は、あらゆる帰国生を受け入れしっかりとしたサポートができる学校です。これまでも、長年にわたる海外生活により日本語に不安があっても、入学後に日本語や日本の文化・慣習を学び直し、その後、立派に活躍したお子さんをたくさん見てきました。帰国後からでも全く遅くはありません。現地にいながら帰国に備えて日本の勉強に精を出す気持ちもわかりますが、限られた期間ですので、ぜひ現地での生活を完全燃焼して帰国していただきたいと思います。

※桐朋女子中学校高等学校に関する情報はこちら
https://spring-js.com/japan/962/

『この人からエール』バックナンバーはこちら
https://spring-js.com/expert/expert01/yell/

 

※2019年6月25日現在の情報です。最新情報は各機関に直接ご確認ください。

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