グローバル教育
芝浦工業大学附属中学高等学校 校長 大坪 隆明氏

中・高・大連携校の強みを生かして

はじめに

今のお子さんの多くは、将来を思い描く時「誰かの役に立ちたい」「社会に貢献したい」という気持ちを持っています。自分ひとりが幸せになれば良いと考えているお子さんは実はごく少数なのです。ところが、実際に「どうやって実現するか」「何をすればいいのか」という問いに対して、明確な答えを見つけることは容易ではありません。世の中には、たくさんの尊い職業があり、それぞれが多様な価値を生んでいるからです。科学技術立国の日本には「ものづくり」を通じて社会に貢献し、世界中の人々を幸せにしてきたという実績があります。

本校は、1922(大正11)年に開校した東京鐵道中学が前身となり、その後、53(昭和28)年に学校法人芝浦学園に吸収合併され、芝浦工業大学高等学校へと発展していきました。本校の教育の真髄には東京鐵道中学と芝浦工業大学の2つの源流があり、創立以来100年近くにわたり「社会に貢献する技術者」を輩出しています。2017年4月には校舎を江東区豊洲に移転し、隣接する芝浦工業大学のメインキャンパスとの連携を強化するとともに、日本で唯一の中学から大学まで一貫した「理工系教育学校」として比類ない教育環境を提供しています。

芝浦工業大学附属中学高等学校 校長 大坪 隆明氏

中・高・大一貫校ならではの「STEAM教育」

本校は長年、「STEAM教育」を実践してきました。STEAMとは、Science(科学)・Technology(技術)・Engineering(工学)・Arts(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)の5つの力を総合的に学ぶ教育を意味し、現在、世界で大変注目されている教育です。これからの社会に新たな技術革新を巻き起こす、高度人材育成のためのキーワードとも言われています。現在では日本でも多くの学校が導入しています。しかしScience(科学)は理科の先生、Mathematics(数学)は数学の先生が教えることができても、Engineering(工学)やTechnology(技術)ともなると、中高生に分かりやすく教えられる教員と環境を整えることは難しいのが実情です。本校では工業大学附属のメリットを最大限に生かして、大学教授の指導と大学院生の補助により、「STEAM」ならではの包括的で横断的な学びを実現しています。

実際の授業の内容を具体的にご紹介しましょう。本校では「全ての授業にテクノロジーとの関連を!」を合言葉に、「ショートテクノロジーアワー」という授業を設け、国語・数学・歴史・社会・英語・美術・音楽・体育などのすべての教科と科学技術との関わり合いを紹介していきます。学ぶテーマには「ヴェルサイユ宮殿庭園におけるポンプ技術(歴史+科学技術)」や飛行機の空気抵抗やエンジン効率を考察する「空のF1(体育+科学技術)」など多岐にわたります。中学生は毎学年、芝浦工業大学へ出かけていき、1日がかりで製作・実験・競技などを行います。さらに中学3年では大がかりな実験・工作・観察にも取り組む「サイエンステクノロジーアワー」もあり、高校入学生は、ものづくり特別講座「Arts and Tech」を3年間学びます。大学教授が直接指導する実験・制作の講座で、いわば大学の授業の先取りです。

今でこそ、世界でも日本でも注目される「STEAM教育」ですが、本校では以前から取り組んでおり、まさに時代が追いついてきたと実感しています。多感な中学高校時代から一貫して理工系人材を育成できる数少ない学校として、本校にしかできない「教育」がここにあり、これからもこの特徴を生かして生徒の好奇心と意欲を駆り立て、高度な学習の機会を提供していきます。

時代が求める「3つの言語」とは

理系・文系を問わず、これからのグローバルな社会で必要とされる資質として「3つの言語」が挙げられるでしょう。その3つとは「日本語」「英語」そして「コンピューター言語」です。本校では、この3つの言語の習得を6年間の教育の大きな柱と位置づけ、実社会で役立つ確実な力を育んでいます。

「日本語」については、社会で通用する論理的コミュニケーション力を育みます。特に男子生徒は、もともと文章を論理的に組み立てたり他者にわかりやすく説明したり発言することがあまり得意ではありません。SNSの発達に伴いきちんとした文章を書く機会がますます減っているだけでなく、会話も単語だけで成立してしまうことが多くなっています。そこで、従来の「国語」という枠組みとは別に、「読む」「聞く」「話す」「書く」という4つのコミュニケーションスキルで捉え、言語技術教育の手法で鍛えていきます。それらの力が身につけば、人とつながる豊かな対話が可能となり、社会で活躍する全ての土台が築かれると確信しているからです。

「英語」の必要性は言うまでもありません。海外生を受け入れている多くの学校が独自のプログラムを展開していますが、本校では、卒業生の多くが理工系に進学する学校として、学会や学術論文の発表で必須となる英語について、20年以上にわたり伝統がある海外教育旅行プログラムなどを通じてきめ細やかに指導しています。また、本年度より米国パデュー大学副学長補佐・国際担当を務めていたダラス・ケニーが本校の副校長として加わりました。25年にわたる米国の大学での国際交流のキャリアを駆使して本校のさらなる国際化を牽引していきます。

3つ目の「コンピューター言語」とは、広く「コンピューターを活用する技術」のことで、コンピューターの背景となるプログラミング言語やデータベース・ウェブの仕組み、ハードウェアとソフトウェアを理解することを意味しています。中学校では「レゴ・マインドストーム」と呼ばれる教育用のロボットを授業で活用し、生徒が一人一台ロボットの制御実験を行います。高校生になると実際のコンピューター言語を用いてコマンドラインを作り、さらに複雑化した学びを導入します。これからの社会では、プログラミングが習得できているか否かで将来が大きく左右されることは間違いありません。2021年度からは、カリキュラムを大幅に変更し、プログラミングをはじめIT全体に関しても、さらに充実したカリキュラムを提供していく予定です。

中学も「共学化」へ

本校は現在、高等学校は男女共学ですが中学校は男子校であります。2021年からは中学校も共学化し、どのお子さんも「芝浦ファミリー」の一員としてお迎えできるようになります。共学化に至った背景には、これからの社会やものづくりには「女性の視点」が不可欠であり、企業は女性の技術者・研究者を本気で必要としていることが挙げられます。例えば、システム開発の現場はかつては男性ばかりでしたが、根気と忍耐力があり、さらにコミュニケーション力も高い女性の評価が高まり、年々雇用が増えています。また、ユニバーサルデザインをはじめあらゆるモノの開発には、女性の視点がなくしては完成しないのが現実です。そこで、本校も共学化することでさらなる多様性を促進し、女性の技術者・研究者を育成するという社会的使命を担い、今後ますます社会に貢献したいと考えています。

芝浦工業大学附属中学高等学校 校長 大坪 隆明氏

海外で暮らすご家族へのメッセージ

グローバル化が進んでいる今日では、「この教育さえ受けたら間違いない」という王道は、もはや存在しません。海外で教育を受けることは選択肢が増える分、迷いや悩みもあると思いますが、必ずや大きくプラスに転じる「次のステージ」が用意されていると疑いません。

私は、芝浦工業大学を目指す高校3年生全員に「なぜその進路を選択するのか」という面接をしています。そこで興味深いのは、ほとんどの生徒は子どもの頃の実体験が、将来の目標を決定づけるきっかけになっているということです。子ども時代の体験がいかに大切かを、改めて感じます。海外で暮らす皆さんには、ぜひ現地滞在中に親子でさまざまな体験をされ、お子さんが将来の目標につながる「きっかけ作り」をたくさんしていただきたいと思います。例えばもし、お子さんが「僕は将来、格好良いスポーツカーを作りたい!」と言ったとしましょう。親御さんは何とおっしゃるでしょうか。「そうだね、しっかり勉強すればなれるよ」、そんな風に返答してしまう方が多いと思います。しかし、そこで終わってしまっては、夢を追い続ける気持ちもそこで終わりです。海外にいる今だからこそ、日頃から一緒にいろいろな経験をし、そこから生まれる会話に耳を傾け、お子さんの夢に寄り添い、深めていっていただきたいと思います。

『この人からエール』バックナンバーはこちら
https://spring-js.com/expert/expert01/yell/

 

※2019年11月25日現在の情報です。最新情報は各機関に直接ご確認ください。

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