グローバル教育
LifeScan Japan 株式会社 代表取締役社長 佐々木 昭 氏

企業経営者は、企業活動を通じて社会の問題を解決し、社会に意義ある価値を提供していくことが使命だと思います。

当社は、世界の糖尿病患者の方々が生活の質を維持し「制限がない普通の生活」を送れるような社会を目指しています。

グローバル時代を迎えた今、企業が求める人材、教育とは何でしょうか。
企業の方からお話をうかがいました。

Q. 御社について教えてください。

当社は、2018年にジョンソン・エンド・ジョンソン社より独立し、LifeScan社の日本法人として設立されました。LifeScanは、米国ペンシルべニア州に本社があり、自己検査用と医療機関向けの血糖モニター装置および関連のデジタルソリューションズを開発・製造・提携し、医療業界の最先端を歩む企業として発展してきました。現在では世界60ヵ国以上で血糖自己測定器のリーディングカンパニーとして、製品の提供とともに糖尿病患者の皆さまや医療従事者の方々のサポートを行っています。糖尿病管理のための測定器、ワンタッチ®ブランド製品は、世界中で2,000万人を超える方々にご利用いただいています。

厚生労働省の「2016年国民健康・栄養調査結果」によると、国内で糖尿病が強く疑われる成人男女は推計で約1,000万人に上るとされています。これは、12年の前回調査から約50万人増で、増加傾向が続いています。糖尿病は、血糖管理ができていれば重篤にならず健康的な生活を送れることが医学的に分かっていますが、悪化した際には心臓の血管が詰まったり、透析や足の切断を余儀なくされることがあります。そのため、事前に症状の悪化を予防することが社会的にも求められています。私は経営者として、企業活動を通じて社会の問題を解決し、意義ある価値を提供していくことが使命だと思っています。その社会的価値として当社が目指すのは、「Creating a world without limits for people with diabetes(糖尿病の患者さまでも制限がない、普通の生活を送れるような社会を築くこと)」なのです。

LifeScan Japan 株式会社 代表取締役社長 佐々木 昭 氏

Q. 医療の分野でも「イノベーション」の貢献は大きいそうですね。

私たちの日々の生活は、「イノベーション」のおかげで劇的に進化してきました。一言で「イノベーション」と言ってもさまざまですが、身近な例ではインターネットや携帯電話が挙げられるでしょう。インターネットの普及により莫大な情報が瞬時に国を越えて行き交うようになっただけでなく、コミュニケーションを取るためのコストが格段に下がった恩恵は、世界中の人々が享受しています。

「イノベーション」の多くに共通している点は、「手元に来る」ということでないかと思います。例えば電話も、発明された当時はわざわざ電話がある場所に行って依頼しなくては繋がりませんでした。しかし時を経て、現代では手元で即、世界中の人々と繋がるようになりました。情報収集も然りです。辞書や百科事典で調べる代わりに、インターネットを通じてさまざまな情報を簡単に入手できます。今後は、治療もどんどん手元に来る時代が来ると思います。病院で何時間も待たされ診察はほんの数分という通例から、遠隔診療でモニター越しに医師が診察し、必要な時だけ病院に行く時代へと移りゆくと思うのです。つまり、病院が「手元に来る」時代の到来です。

医療分野のイノベーションは、多くがアメリカで行われています。シリコンバレーやボストンではイノベーションを起こすエコシステムが確立しており、大学・研究機関、起業家、投資資金とあらゆる知能が集積しています。糖尿病管理では、血糖値を測る際に針を刺して血を出す必要がありますが、その際の痛みを軽減するだけでなく、採血なしに測れる方法がすでに世に出始めています。糖尿病の分野においても、イノベーションが恩恵をもたらしているのです。

Q. 日本の医療とその展望について教えてください。

国が違えば医療制度も大きく異なるものです。私は、日本の医療制度は「国民皆保険制度」が浸透し、貧富の差がなく日本全国どこにいても標準的な医療を受けられるという点で、世界的にも非常に優れた制度だと感じています。一方でアメリカは、資本主義の性格が強く保険会社ごとに提供される医療が異なります。保険未加入者の割合も比較的高く、貧困層は治療を受けられず、富裕層はより高度な医療を受けることができるという点で、格差が生まれているのが現状です。

日本の医療分野の展望としては、第一に「予防医療」がより重要になること、第二に海外諸国からの介護人材やIT、AI・ロボットなどを上手に管理し活用できる人材が必要になることが挙げられます。高齢化が進んでいる日本では、急性疾患を治すことだけでなく継続的に治療する「慢性期医療」のニーズが高まっています。高齢者の増加は病床数の不足と国が負担する医療費の増加にもつながるため、「予防医療」がより重要になっていきます。前述の通り、糖尿病予備軍の人たちが適切に予防できれば、QOL(Quality of Life、生活の質)を下げることなく生
活できるため、早い段階で病状の進行を止めることが社会的にも強く求められています。

急速な少子高齢化に伴い、国内で介護に関わる人材の大幅な不足も予想されます。それゆえ日本でも介護人材の国際化が進み、ロボットやAIの導入も加速するでしょう。今後は、日本においても外国人労働者が増加し、否が応でもグローバル化が進むため円滑にコミュニケーションをとり組織をリードしていける人材や、ロボットやAIの得意なところと人間にしかできない部分とをきちんと理解して適切に活用できる人材が必要です。

Q. 日米で経営を学び、日系・外資系企業でのご経験から「グローバルに働くこと」について、アドバイスをお願いします。

世界における日本や日本人への評価は、とても高いものです。日本の製品やサービスは非常に信用されていますし、日本人は几帳面で秩序だっているため、ビジネスパートナーとしての信頼は絶大です。今後は、有無を言わさず多国籍企業やグローバルな環境で働くことになることは明らかです。これまで日本企業は「日本至上主義」が前
提になっていました。本社や工場が日本にあることを念頭に、日本の事例をそのまま諸外国で適用させようとしてきたのです。しかし、多国籍企業ではグローバルが当たり前であり、日本という場所は世界の中の一つの選択肢にすぎません。グローバルの環境で選択されるよう、我々自身の競争力を高めていくという視点を持つことが重要
だと思います。

世界では、文化や宗教の違いがビジネスにも大きな影響を与え、日本人が思う通りの段取り・スピードで物ごとが進まないことはよくあります。グローバルにビジネスを展開する上で欠かせないのは、宗教への理解です。以前、出張でイスラム教の国であるサウジアラビアへ行った時、私が交渉のために遠方から参加していたにもかかわらず会議の途中で帰宅した現地の男性社員がいました。日本人の感覚では、会議が終わるまでは、とにかくそこに居続けるべきだと考えるでしょう。しかし事情を尋ねると、その社員は急病の家族を車で病院に送るために帰宅したことが分かりました。当地では宗教上女性は車の運転が許されていないため、家族のためには彼が運転するしかなかったのです。

以来、私は相手国の宗教を事前に勉強するようになりました。日本人は一般的に宗教に対する理解が薄いですが、彼らがなぜそう考えるのかという理由を紐解いていくと、その所以は宗教にあることが多いのです。宗教の影響の大きさを知り、彼らの行動規範をも左右していると理解できれば、心理的な距離も近づき、より円滑な関係が構築できると疑いません。

Q. 海外で暮らすご家族へのメッセージ

子ども時代を外国で過ごしたことがない私からしますと、海外にいらっしゃることは、とても幸運なことだと思います。ぜひ、その機会を生かして、現地の人々を愛し文化を深く知ってください。

海外で生活しながらも、帰国後の受験を意識しすぎて日本にいるのと変わらない生活を送られている方も多いと聞きました。お子さんには、勇気を持ち自分の足で生きてくださいとお伝えしたいです。IQを磨き良い学校に行くことは素晴らしいことです。しかし、それだけで必ずしも豊かな人生が送れるとは限りません。私は、良き人生には「自分の好きなこと、得意なことで世の中に貢献しよう」と考える姿勢が大切だと思います。これから社会に羽ばたく皆さんには、日本人であることに誇りを持ちながら、国際舞台で大いに活躍することを目指していただきたいと思います。

会社概要

LifeScan Japan 株式会社

LifeScan社の日本法人。LifeScan社は米国ペンシルベニア州に本拠を置き、世界60ヵ国以上で血糖自己測定器(自己検査用グルコース測定器)および関連のデジタルソリューションズを開発・製造するリーディングカンパニー。

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