グローバル教育
同志社国際中学校・高等学校 校長 戸田 光宣氏

「違い」という共通点からの出発

はじめに

本校は、同志社創立100周年の節目にあたる1980年に開校しました。
同志社の創立者である新島襄はアメリカの大学を卒業した日本人初の帰国生でしたので、同志社が帰国生教育に本格的に取り組む本校を開校したことは、当然の流れだと言えるでしょう。以来30年以上にわたり、「国際生」の学び舎として帰国生教育に取り組んできました。校名に「国際」とある通り、全校生徒の3分の2が海外生活経験のある生徒で、その割合も開校時から変わることなく真に国際的な環境があります。バックグラウンドのまったく異なる多様な生徒構成そのものが本校の財産であり、独特で自由な校風の形成に役立っています。

コロナ禍の一斉休校により「オンライン授業」が新しい教育の在り方として注目されている昨今、オンラインの方が「教育効果が高い」という声もあり、今、改めて学校が果たす役割、特に「集う」という意味が大きく問われていると感じています。多種多様な文化を感じられる本校こそ、世界に通用する国際人として育つことができる場所だと確信し、日々学び教えられながら、帰国生にとって最適な教育を模索し続けています。

同志社国際中学校・高等学校 校長 戸田 光宣氏

一人ひとりの「個性」を生かすために

本校では、40以上の国と地域からの帰国生と国内で育った一般生徒が混ざり合い、ホームルームを行っています。このような環境では、お互いの存在に驚きを感じることも少なくありません。「個性を生かす」ということは「お互いが多様なものを受け入れ合う」ことに他ならず、その人がどのような経験をし、どのような文化で生活してきたかを理解することは必須です。開校以来30年間の実践から築き上げた教育方針とは、帰国生、国内一般生を問わず「生徒一人ひとりを大切にする」であり、実にシンプルです。しかし実際に遂行するのは容易ではありません。

特に授業で言えば、さまざまなバックグラウンドと学習歴を持つ生徒が世界中から集まっているため、理解の度合いも異なります。そこで本校では個々の学習歴に応じて学習を進めていけるよう、中学1年~高校2年までのほとんどの教科で「習熟度別授業」を展開し、生徒のレベルに合った授業を受講できるよう徹底しています。具体的には、英語の授業は初学者からネイティブスピーカー並みのレベルまで、各学年6段階(中学)、4段階(高校)に分けています。その他の科目は、主に日本語がまだできていない生徒や未履修の分野がある生徒に照準を合わせ指導しているのです。

また、「校則」を最小限に抑えてそれぞれが持ち帰った「文化」を大切にする雰囲気を根付かせ、お互いの多様性を受け入れる環境も整えています。服装が自由なだけではありません。日本ではピアスを禁じている高等学校は少なくありませんが、本校ではそれも生徒に任せています。なぜなら、生徒によっては「生まれてすぐ教会で開けた」という子どもたちもいるからです。お洒落心で開けているのとは意味や重みが全く異なりますから、一律に我々のスタンスで外しなさいと言うのは適切ではないと考えているのです。

生徒がこれまでに得た経験は一人ひとり異なり、物ごとも一つの基準で測ることはできません。大切なことは、自分の価値観を一旦崩し、相手が大切に思っていることを自分も同じように感じられるよう努めることなのです。「生活のためにその国の法律を守る」という大原則に根ざした最低限の「校則」は、一人ひとりの個性を最大限に生かし、引き出しているのです。

「帰国生」の変遷と活躍

本校が開校した40年前からすれば、帰国生の家庭環境は様変わりしていると感じます。当時は日系企業の出向者がどんどん海外に赴き始めていた時代で、ご家庭では「海外に馴染むことを第一」に考え、帰国後の学校を見据えていないご家庭が多かったのです。当時はインターネットはもちろん情報のメディアも限られており、日本についての情報は極めて少なかったと言えます。そのため住んでいる地域に密着した価値観を持って帰国する生徒も多く、「私のいた国ではこうじゃなかった」「現地の学校では違った」と主張し、生徒同士や生徒と教員の価値観が激しくぶつかり合っていたのです。当時はトラブルも多く、「帰国生剥がし」という言葉もありました。「君の英語の発音は日本の英語の発音ではない」と、帰国生の特性をあえて学校が取り除いてしまっていたのです。帰国生に
とっても非常に辛い思いをした時代であったと思います。その後、帰国生の数が増えるとともに企業も対処するようになり、さらには日本の塾なども進出したことから、現地にいる時点から帰国を視野に入れた生活が可能になりました。今では帰国後のプランをしっかりとお持ちのご家庭が多いと感じます。情報も行き渡っており、帰国生徒が選択できる進路も実に多様になりました。

本校の卒業生の活躍の場は、世界中に広がっています。比喩的な言い方をするのなら、卒業生に遭う確率は「京都の街中よりマンハッタンの方が高い」のです。長期休暇の前「今度家に遊びにおいでよ」と誘われた家がアメリカであったり、「今から帰るね」という電話の先が東南アジアの国であったり、本校という空間には世界中のありとあらゆる「リンク」が貼られていると言っても過言ではなく、極めて「世界に近い」場所なのです。

「教育のゴール」とは

人生という長い道のりには、実にさまざまな障壁が待ち受けています。その都度、目の前の課題に取り組み乗り越えなくてはなりません。問題に直面した際に解決できるかどうかは、その人が解決に役立つ「アイテム」をいかに多く身につけているかにかかっており、人生の明暗を左右すると言っても過言ではありません。例えば、それは論理的な思考力や国籍を問わず議論できる語学力であるかもしれません。この人のためなら、と必ず助けてくれる他者の存在でもあるでしょう。このように「アイテム」の種類は多岐にわたります。それらを実際に手に入れるためには、その人自身に「柔らかな感受性」と豊かな「想像力」が必要だと感じます。そのため、生徒一人ひとりがそのことに気づく環境を作ることこそが、私たちのゴールであると考えています。

学校を選ぶ際に、世間の指標に基づいた「ランキング」をもとに決める場合もあると思います。親御さんには、ぜひその「指標」とお子さんの「スケール」が合うかどうかを、今一度考えてくださいとお伝えしたいです。ご家庭によっていろいろな価値観があると思います。ランキングが高い学校を目指されることも素晴らしいことです。しかし、ランクでは計れない個人の価値は否定されるべきではありません。「お子さんに合う学校」「お子さんが楽しいと思える学校」を選ばれることが、一番大切なポイントではないかと感じます。その先にある世界を見据えながらいろいろな選択肢を視野に入れ、お子さんにふさわしい学び舎を選んでいただきたいと、切に願っています。

同志社国際中学校・高等学校 校長 戸田 光宣氏

海外で暮らすご家族へのメッセージ

情報が溢れる現在の社会は、どうしても情報過多になり振り回されがちです。進学を控えた渦中にいらっしゃる生徒の皆さんやご家族は、飛び交う風評やトレンドに流されることなく、しっかりとお子さんご自身の長所短所を見極め、学習を積み重ねていくことが必要だと思います。

コロナ禍で移動が制限されている今、海外にいらっしゃる皆さんの存在はますます貴重であると思います。本校の留学担当者に「留学」することの価値について聞いたところ、「自分をマイノリティの立場に置き、世界と対峙する視点を養うこと」という答えが返ってきました。皆さんは、現地にお住まいになった瞬間からこのような視点をすでに獲得していると言えます。そしてそれは、日本中の多くの人々が願ってもかなわない経験でもあります。ですから現地での生活をしっかりと経験し、日本社会と世界情勢をしっかりと見極める努力を続けていただきたいと思います。「マイノリティの視点」を獲得した皆さんは、やがて世界を変えていける存在であると疑いません。ですから、自身の価値に誇りを持ってください。特に世界的なパンデミックである今日、皆さんは各々の地域で何が
起こっているかをご自分の目で見ている「歴史の目撃者」でもあります。ぜひ現地からも日本をしっかり見ていただき、今しか出来ない貴重な経験をして今後に生かしてくださることを、願ってやみません。

※2020年9月25日現在の情報です。最新情報は各機関に直接ご確認ください。

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