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音楽との出会い特別インタビュー「チェロとの歩み」チェロ奏者 藤原真理さん

~音楽との出会い~

日本を代表するチェリスト藤原真理さんが 2 月に来星し、日本人会 でコンサートを行いました。「バッハ無伴奏チェロ組曲」や「八重の桜」 などの見事な演奏に、多くのファンがあらためてその音色の素晴ら しさに魅了されました。 コンサート終了後、藤原さんに幼少期から今日に至るまでの「チェ ロとの歩み」をお聞きしました。

チェロとの出会い

私のチェロとの出会いは、「教育パパ」とも言うべき父親の影響を 強く受けています。自らは楽器を演奏しなかった父は、度を超すほ どのクラシック好きでした。その中でも弦楽器、ことにチェロに魅 せられたようです。父の勧めにより、幼稚園の入園前には既にチェ ロを習い始めていました。音楽に馴染ませるため、家では常にレコー ドやラジオからクラシックが流れ、はじめはピアノによる音感教育を 受けていました。子ども用の小さなチェロが手元に届いたのは私が 4歳 のころです。 それからというもの、地元の先生のもとへレッスンに通う日々 が始まりました。

父がどれほどチェロに熱い想 いを抱いていた かを改めて知ることになったのは、私が小学5 年のときでした。 私に更に専門的なチェロの指導を受けさせるため、故郷大阪を離れ一家で東京へ移ることになったのです。サラリーマンだった父に転勤の辞令がでた わけでもありませんし、音楽の道での保証があったわけでもありませ ん。孟母三遷ならぬ「孟父三遷」という感じでした。

父は「絶対にチェロを続けなさい」とは言いませんでした。しかし、 父が意図した環境を、私は自然に受け入れていました。奏でる音が はずれていれば物が飛んでくるなど、父は私に厳しいときもありました。一方で母は、「ちょっと自転車にのってきたら」などとさりげ なく気分転換の助け舟をだしてくれる存在でした。今思えば、厳格 な父とその空気を和ませてくれる母とで、両親としてのバランスを とっていたのでしょう。 こうして本格的なチェロとの人生に向けて、更なる一歩を踏み出 したのです。

反復練習

チェロはすぐに納得できる演奏ができる楽器ではなく、ひとつ到 達すれば、更に次の目標がでてくる奥の深い楽器だと感じます。次の目標を追い求めて歩んだ結果、気がつけば 50 年以上のつきあいになりました。 一途にチェロと向き合えた理由に、「反復練習」があります。物心 ついた頃には既に毎日の日課になっていました。チェロに限らずど んな楽器でも、納得いく演奏をするためには、「反復練習」をするこ とが一番大切だと思います。

「音楽」をものにすることは、時に気の遠くなるような地道な作業 の連続です。例えば演奏曲に取り組んでいるときは毎朝、起きたら すぐに一度弾いてみます。気になっているパートを取り出して練習 すると、昨日までできていたことが、どこまでできなくなっているか を改めて確認します。朝一番の演奏は、まるで一日を始める準備体 操のようなものでしょうか。また、夜の就寝前にも、「このまま休み たいな」という気持ちを抑えて、もう一度弾いてみます。ベストコン ディションでないときに自分の演奏がどのように変化するかを、身 をもって理解するためです。 本番の演奏では「ちょっと失礼、もう一回」とは決して言えません。 本番で自分のベストの演奏をするためには、難しい練習に耐えるの は当然で、うまくできなければとことん克服する「粘り強さ」を持ち 続ける必要があるのです。

工夫と体力づくり

私はとても小柄のため、ステージではハイヒールを履いてチェロ を演奏しています。チェロ演奏に決してむいている体格ではありま せん。そんな自分のハンディを克服するために、上手に自分の身体 を使い、座り方なども工夫しています。 「音楽」を奏でることは、自分自身の身体をよく知ることでもあり ます。日々の練習の中で、自分の欠点や体格をカバーするために筋 肉やすじにかなりの無理を強いてしまうこともあるため、自分の体 の限界を把握し、それを補う工夫が必要になるのです。 私は体力作りのために、ジムや加圧トレーニングに通っています。 演奏と直接関係がないようでも、より良い演奏のためには、身体を 楽器の一部として作っていくことが欠かせません。

私にとって音楽とは

東日本大震災の当日、私はパリの空港にいました。音楽がその惨 事に直接的に役に立たないことは明らかで、自分の無力さを突きつ けられた気がしました。震災直後に必要なもの、それは食料や水で あり、暖のとれる物資や場所です。もし、私が命を脅かされるよう な境遇にいた場合、その時に音楽が聞こえてきたら何を感じるでしょ うか。その音楽がのどの渇きや寒さなどを忘れさせてくれるでしょ うか。その音楽に感動し、涙するでしょうか。答えはおそらく No です。 しかし、窮状からしばらく経ち、再び平穏を取り戻しつつあるとき に、音楽をはじめとする芸術が改めて威力を発揮すると信じていま す。間接的であっても、人々の心をいやし、明日への活力を与えて くれる存在であることを願っています。

「音楽」はいつその人の 心に影響するかわからない 不思議な存在だと感じま す。お子さんの先々を考え すぎず、何がその子の人生 に響くかわからない、とい うゆったりした心構えでい て欲しいと思います。もっ と気軽に音楽とふれあい、 かかわっていただきたいと 心から思います。

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