グローバル教育
シンガポール日通株式会社 総務部長 高田 浩一 氏

グローバル時代を迎えた今、企業が求める人材、教育とは何でしょうか。企業の担当者に聞きました。

Q「世界日通」をキャッチコピーに持つ御社にとってアジアは重要な拠点であると思います。「世界日通におけるアジア」という意味で改めて紹介をお願いします。

シンガポール日本通運株式会社の親会社である日本通運株式会社は1937 年に設立され、今年で76周年を迎えました。個人の引越しや事業所の移転を担う輸送業務においては、シェアと売上高で業界1位の座を誇ります。

日通グループの海外ネットワークは、1958 年にニューヨークに駐在員事務所を開設したのが始まりです。国際物流の広がりとともに世界各地へ進出し、現在では世界40 ヶ国224 都市に460拠点があり、1万8千人近くの海外社員を抱えるほどに拡大しました。

当社グループの最大の強みは、陸・海・空すべての輸送モードを駆使した「総合力」です。国内だけでなく世界各地域でビジネスを拡大しており、今後の事業戦略として、長期的には海外の売上高比率を現在の30%から50%まで引き上げようという目標を掲げています。シンガポール日通は米国日通に次いで古い会社で1973年に創立し、今年で40周年を迎えました。引越、旅行に加え、航空貨物、海運貨物、重機建設、倉庫ロジスティックも取り扱う総合物流業者としてシンガポール社会に貢献しています。現在、日本からの出向の社員16 名を含む757名のスタッフがおり、現地スタッフは、シンガポール・マレーシア・中国・フィリピン・日本・インド・インドネシアからの7カ国から採用しています。

Q多国籍のスタッフをマネージメントする点での苦労はありますか。

その国の文化や慣習を尊重しながらも、会社として決められたことは守ってもらうように努力しています。日本人の考え方と大きく異なると感じることは、「結果が全て」という点が前面に出ることです。例えば就業時間については、やるべきことをやっていれば定時出社にこだわらなくてもよい、と考える人がマネージャークラスでもいます。また日本ではビジネスの基本として「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」という言葉がありますが、結果さえ出せば途中経過を報告する必要はないと考える人も多いようです。

日本人の場合、例えば「職場は自己実現の場所である」という言葉が示すように仕事に生き様そのものを見ますが、シンガポールでは「ワークライフバランス」という言葉が広く認知されているように、仕事はまずは生活の糧を得る場所なのでしょう。その認識の相違を埋めることに非常に難しさを感じています。

Q日本企業としてのアイデンティティーとは何ですか。また、それをどのように伝えていますか。

今流行の言葉になってしまいますが「おもてなしの精神」であると思います。お客様本意でのサービスの提供は、日本企業のアイデンティティーであると思います。勿論どこの国の企業でもお客様本意のサービスを会社方針として唱えていますが、日本企業のそれは他国とは違うものを感じます。和をもって尊しとなす文化、相手の立場を考えるという教育から生まれてきた「おもてなしの精神」です。商品を売るために後付けした精神ではなく、本当に相手のことを思う気持ちから生まれる精神であると思います。

ただ伝え方は非常に難しいです。日本企業のアイデンティティーを伝えようとすることは、文化の違いを超えようとすることでもあり、これは言葉の説明だけではその溝を埋めることはできません。抽象的な言い方になってしまいますが、日本人がそのアイデンティティーを背景に規範となる行動を示しながら、更に言葉で相手に説明するということが必要であると思います。

ちなみに弊社はシンガポール国内に4 拠点ありますが、各事業所で企業理念や行動規範を日本語と英語の両方で掲示し、会社の理念を共有するように努めています。

Qどんな人材を求めていますか。

日通グループは今後グローバルロジスティクス事業の更なる拡大を念頭に置き、全社における海外の売上高比率を現在の30%から50%まで引き上げようという目標を掲げています。シンガポール日通でも、この目標達成のためグローバル人材の育成にも積極的に取り組みます。

将来海外で働くためには、コミュニケーション力は欠かせません。英語力は必須で、更にはどこの国でもその国の言葉を話せる人が望ましいでしょう。また、自分の価値を押し付けず、相手を理解しようとする心も大切です。海外駐在員になる場合は立場的に守備範囲が多いので、垣根を取り払い何でもやるのだという気持ちとともに、 一人で抱えこまず他の人に任せることも必要になります。

現在シンガポール日通には6 つの支店があります。その中の1 つの支店ではシンガポール人が支店長でGeneral Manager も2 人います。日通本体でも毎年ナショナルスタッフの経営職候補者研修を日本で実施する等、グローバル人材育成に取り組んでいます。日通は歴史的に日系企業をサポートするかたちで海外展開を進めてきました。 しかし昨今のグローバル化により、会社を成長させるためには非日系企業との取引も必須で、そのための現地化を進めることが急務になっています。既にインド日通はインド人が社長ですし、現在の流れからも今後はますます加速するに違いありません。

Qシンガポールならではのご苦労もあるそうですね。

シンガポールは失業率が2%を切るほどで、働く側の勢いが強いのが現状です。そのため転職も頻繁におこなわれており、どうやって良い人材を会社に引き留めておくかというのが重要な課題となっています。そこでシンガポール日通では、日本で学んでいるシンガポール人を新卒のような形で採用し、 弊社の企業理念を学んでもらい、末永く日通グループに貢献してくれる人材を育てようという試みを検討しています。グローバル化の潮流の中では、幹部としてのナショナルスタッフの力が必要になることは確実です。

勤続年数の長いナショナルスタッフからは「日本からの出向者は3~5年で入れ替わるため、一定の方向性を保つのが難しく、そこを変えていかないと会社として成長ができないのでは」という声も聞かれます。「企業は人なり」と言う通り、会社のために貢献してくれる人材を育てていかないと、企業としての成長はないのではと危機感を感じます。

Q日本が他国に学ぶべきことはどのような点でしょうか。

「必死さ」であると思います。シンガポールの場合、小さな島国で人口も少ないことから、いろいろな意味で皆一生懸命生きていると感じます。例えば若者の場合、徴兵制により2 年間の兵役が義務付けられていることもあり、日本のように社会に対し斜に構えているような人はいないように感じます。大変勤勉で、ファーストフード店ではいつも若者が勉強しています。会社員も常に上昇志向を持って勉強を続けており、会社が自分のためのステップアップにならないと判断すると、すぐに次の飛躍の場を考えます。国もトップクラスの若者を米英の有名大学へ送り込むことで将来の国の幹部にする取組みをし、個人でも海外の大学に行く人がたくさんいます。日本人はとかく、安定志向で新しい一歩を踏み出すことに躊躇しがちです。そのような上昇志向はぜひ見習うべきではないかと感じます。

海外で子育てをする保護者の皆さまへメッセージをお願いしま す。

シンガポールは治安が良く、医療が充実しており、日本語による教育機関もあり、食材等必要な物を他国に買出しに行く必要もないので、安心して家族と生活することができます。ただ便利さゆえに、海外で生活しているにも関わらず日本と同じような環境で過ごしてしまう場合もあると思います。シンガポールには他国にない多くの選択肢があるゆえ、親はどの選択枝を選ぶかという非常に難しい決断をしなければならない国であると思います。ご家庭でしっかり話し合って、お子さまにより良い選択をしていただきたいと思います。

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