グローバル教育
三菱東京UFJ 銀行 Asian Human Resources Office Deputy General Manager 北村 慎 氏

グローバル時代を迎えた今、企業が求める人材、教育とは何でしょうか。企業の人事担当者に聞きました。

御行は海外業務では有数の実績と強さがあるというイメージを持っている方が多いと思います。

弊行は2006 年に「三菱銀行」「東京銀行」「三和銀行」「東海銀行」を源流に持つ三菱東京UFJ 銀行として設立されました。現在約36,000 人の行員と約20,000 人のLS(Locally Hired Staff)がおります。世界40 ヵ国以上、100 拠点以上の海外ネットワークがあり、アジアだけで約50 拠点という我が国No.1 の海外拠点網を有しています。シンガポールには1916 年に進出しました。現在日本人も含め約1,000 人のスタッフがおります。

世界的な競合相手との比較においては、邦銀はまだまだ「成長途上」という状況ではないでしょうか。ある調査で、世界規模の銀行をその活動形態ごとに「グローバルバンク」「リージョナルバンク」「ローカルバンク」の3 つに分類したところ、弊行を含めて邦銀は全て「ローカルバンク」の位置づけでした。弊行は「資産規模は大きく世界の拠点も充実しているが、収益力が見劣りする」という評価であり、M&Aなどの投資銀行ビジネスや、ハイレバレッジや金融デリバティブ(金融派生商品)などの一部の取引で遅れを取ってきたのは事実だと思います。

弊行はこの2012 年4 月に新中期経営計画(3 ヵ年)を策定し、「世界に選ばれる信頼のグローバル金融グループ」を目指しております。

当該計画において、国際部門の果たす役割は大きいといえ、中でもアジアなど新興国におけるプレゼンス拡大を大きな柱として掲げ、アジア各地のお客様・金融機関向けの営業体制の整備・強化や、アジア域内に加え、欧米地域との連携や、銀行と証券の協働によるお客様のアジア域外へのビジネス拡大のサポートを強化していきたいと考えております。

「アジア」における弊行の戦略も明確です。「アジアビジネスのステージアップ~グローバルで存在感を増す金融グループへ」というスローガンのもと、アジアNo.1 外銀としての地位確立を目指しています。具体的には、国境を越えて業務を展開する日系企業・アジア企業を支援するために、弊行のアジア域内外における連携を強化し、更には各アジア拠点における業務のサポートを強化するべく、本部機能をシンガポールへ前線化するなど、積極的に取り組んでおります。

シンガポールは、弊行のアジア戦略における中心的役割を担う拠点として、スタッフの数も約1,000 人に達し、これからますます大きな存在感を示していくことになると思います。

非日本人の採用についてはどのように考えていらっしゃいますか。

アジアにおけるビジネスの強化、とりわけ地場企業のお客様とのビジネスを強化する上では、多国籍多文化のLS(Locally Hired Staff)の力は不可欠であり、彼らの採用・登用は最も大きな課題です。今後は、全員をLS にするという訳ではありませんが、ポストによってLS をどんどん登用したいと考えていますし、実際それが私の仕事です。地場企業とのお取引や、現地法律・規制に沿ったリスク管理などが増えるに従って、現地採用の人材を登用し、活かしていく仕組みを作っていかないといけないですね。

「グローバル人材」という観点では、派遣行員のグローバル化、それと同時にLS もグローバル化させる方向性を考えています。実際の「グローバル人事」というのは、派遣行員もLS も一緒に議論することができ、どのポストにどの人が就くのがベストかという点まで論じられるようなボーダーのない登用だと考えています。

日本企業としてのアイデンティティーとシステムの課題についてはどうお考えですか。

日本企業のアイデンティティーを捨てようとは思っていません。捨てようと決断しても捨てられないのが日本人だと思います(笑)。

日本企業のアイデンティティーといえば「個人」としてよりも「チームワーク」を重んじる点でしょう。弊行は共有すべき価値観として「プロフェッショナリズムとチームワーク」があります。プロとしての自覚と責任を持って多様な社員が互いに尊重し合い切磋琢磨しながら、地域や業態を越えたチームワークでお客さまの期待に応えていくことを目指しています。上司や部下というチームで答えを導き出し実践していくという点でもチームワークを非常に重んじるカルチャーを持つ会社だと思います。チームとしてお互いを高め合う職場の雰囲気を保っていたいと考えています。

また、現在弊行ではグローバルバンクにふさわしい企業風土へ変革しようと考えています。LS が日本企業の社風の中で理解しにくいものの1 つとして「決断のスピードが遅い」ということが挙げられます。特に何か重大な決定事項がある場合は、多くのプロセスを経るため時間がかかる場合もあります。こういったプロセスの中で、けん制が効きすぎて物事が段階的に進まない、あるいは何もできない、という事態は回避すべきです。特に、非日系業務や投資銀行業務を推進する中で、スピーディーな決断が勝負となるビジネスも増えており、こういった流れにもしっかり対応できるよう、権限委譲などの仕組を構築するなどの変革は、グローバル人材戦略の一つのポイントになると考えています。

御行は女性が活躍しやすい会社だとうかがいました。

2006 年4 月に「女性活躍推進室 」を立ち上げ、「女性のキャリア形成支援」「ワークライフバランス施策」「風土づくり」に取り組んできています。この3 つをテーマとした活動を受け、2010 年6 月に改編された「ダイバシティー推進室 」では、女性管理職登用の推進や、仕事と家庭の両立支援、女性自身と上司の意識改革などを通じて、女性の活躍を広げる様々な取組を継続して行うとともに、真に一人ひとりが“ かがやき”、能力を発揮できる風土づくりを目指し、活動範囲を広げています。

取り組みの一例を挙げると、当行では数値目標を設定して女性の登用を推進しています。2012 年には女性のマネジメント層が265名に達するほか、役付者の女性比率が1 割を上回るなど実績は順調に推移しています。また、2011 年4 月に入行した総合職に占める女性の比率は30% 弱に達しており、今後もますます積極的に女性の活躍の場を広げていきたいですね。

また、海外拠点において近い将来、女性の支店長が誕生する見込みです。これまで国内では女性の支店長はいましたが、海外では初となります。他の企業と比較すれば随分と遅れているように思われるかもしれませんが、私はこういった流れ、そして変化が着実に起きていることを誇りに思っています。海外において女性のマネジメントが活躍することは一般的で、実際、私の上司も女性です。弊行が海外の強豪と戦っていくためには、分け隔てのない人材の登用が不可欠です。最近では本来は地域の異動を伴わない行員でも、自らのキャリアアップのために手を挙げ、海外で活躍している人もいます。チャンスはますます広がっていますね。

現在の採用状況について教えてください。

日本での採用はこれまで通り筆記試験と面接が行われています。海外という観点では、アメリカのボストンで行われる「キャリアフォーラム」などにも参加して採用活動を行っており、日本人に限ることなく外国人も含め有能な人材を採りたいと考えております。

海外の大学で頑張っている日本人であれば、そういったキャリアフォーラムや日本での採用試験などさまざまな場所でアプローチできます。同じ日本人でも入り口はいくつか用意されています。採用は一般的な春採用と、海外大学を卒業したなど春には就職活動ができなかった人向けの秋採用の2 回に分けて行っています。

文系と理系を特に分けて採用しているわけではありません。銀行の場合、もともと文系出身の人が圧倒的に多いような気がしますが、銀行としてどちらが良いというのはありませんし、様々な経験などを通じ色々な夢や志をもった人達であればどなたでも歓迎です。

今後御行が求めるのはどのような人材でしょうか。

今後、日本企業にとっては海外における事業戦略が何よりも重要になっているのは明確です。それは金融機関に限ったことではないでしょう。日本は少子高齢化による人口の減少もあり、これから日本国内だけで商売をしていくことが難しくなることを考えると、いかに海外におけるビジネスを展開していくかが重要になってきます。

海外で働くということは決してアイデンティティーを捨てるということではなく、海外の文化や習慣、国籍の違う人たちを受け入れて、自分なりにどう接していったら良いのか、どう対応したら良いのかを考えていくことです。大切なのは「英語が話せる」ということだけではありません。同じ一人の人間として、肌の色や言語、考え方も宗教も違っても、仕事を通して同じ目標に向かうという共通点のもとで、上手くコミュニケーションをとり自ら積極的に関わって行くことが一番大事ではないかと思います。

日本人が今後学ぶべきことは何でしょうか。

外国人から日本人が見習うべきことは「自己表現力」でしょうね。何でも発言すれば良いとは思いませんが、自分の意見を躊躇(ちゅうちょ)せず率直にぶつける姿勢は見習うべきです。日本人は出席者が多い会議などになると、英語の壁という問題だけでなく、発言するのが苦手になるという人が多いのが現状であり、私自身その気持ちはよく分かりますが「何かを発言しなければ」という外国人が見せる積極性は必要だと思います。

LS(Locally Hired Staff)の人は自分の評価を非常に貪欲に聞いてきますね。それくらい自分をアピールして、認められたい、評価されたいという気持ちが強いのでしょう。日本人は「頑張っていれば誰かが見ていてくれる」と期待する人が多いようですが、LSの人の姿勢は自分への評価に対する責任を自分自身がしっかり持っていると言っても過言ではありません。後になって「自分はこう思っていた」というより、その場で「自分はこう思う」と伝えた方が存在感もありますし、何らかの評価は必ず得られます。何も発言しなければ、誰も評価できません。

シンガポールで暮らす保護者やお子さんにメッセージをお願いします。

海外で生活できるということ自体とても貴重なことであり、この限られた時間をいかに有意義に過ごすかが大切だと思います。日本にいる場合、お母さんと子どもだけで活動する(できる)ことも多いと思いますが、海外にいる場合は、お父さんも一緒になって家族単位で活動することも比較的多くなるのではないでしょうか。そうすると家族での会話も増えますし、家族単位での交流なども増えるなど、生活の充実度は高いと思います。

個人的には「海外にいるのだから上手に英語が話せるようにならなくては」と子どもに過度な期待をかけるよりは、外国人との垣根を越えて誰とでも話せるコミュニケーション力を持った子どもを育てていくことこそが、親が大切にしなくてはならないことだと思います。きちんとコミュニケーションが取れる人は、日本でも海外でも最も仕事ができる人になるはずです。そういう人が将来どんな企業にも求められる人材となるに違いないと思います。

※本文は2012年9月25日現在の情報です。

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