グローバル教育
電通スポーツアジア 上席副社長 杉本 将 氏

グローバル時代を迎えた今、企業が求める人材、教育とは何でしょうか。企業の担当者に聞きました。

電通さんとスポーツと言われれば、サッカーワールドカップ、オリンピックに始まり、多くのスポーツ分野での関わりを想起します。コミュニケーションの裏方であり、最大の仕掛け人である御社の紹介をお願いします。

電通は1901年に創立以来、日本最大の広告会社として広告主様とともにメディア、マーケティング、ブランディング、スポーツ、コンテンツ、文化、芸能などさまざまなコミュニケーションを通じて社会に感動や驚き、イノベーションを創造するように努めてまいりました。読者の皆さまが日本で目にする新聞広告やテレビCM、イベントの多くは電通が手掛けています。現在は2020年開催の東京オリンピックを成功させるために大きな役割を担っています。シンガポールで開催されているAFAという日本のアニメなどの「クールジャパン」コンテンツを紹介するイベントも電通が積極的に携わっています。

当社はグローバル戦略の一環として、世界にスポーツビジネスの営業拠点を設置しています。電通スポーツアジアは2010 年にシンガポールに設立されました。アジアを基点にしながら中東アフリカやインドのスポーツビジネスの強化・拡大を目的に展開しています。現在は、スポーツのみならずエンターテインメントの領域にもビジネスを広げています。この仕事は日本企業がアジア各国のマーケティングやプロモーション活動を行う際に大変重要な要素になっています。

事業の海外展開について教えてください。

電通グループは現在110カ国に300以上の海外拠点があります。20年以上前は、日系企業が海外に進出する際にサポートをするような形で一緒に進出するのが主流でした。しかしグローバル体制を一層強化するために、2013 年、英国ロンドン市に本拠地を置くイージス・グループを買収し、グループの海外事業運営を統括する子会社として、新たに「電通イージス・ネットワーク社」を発足しました。今後は、ますます拡充された国内外のネットワークを駆使し、国境や領域を超えて、世界のどの地域においても、クライアントから最良のパートナーとして選ばれ続けるグローバル・コミュニケーション・グループを目指していきます。

アメリカやヨーロッパなどの成熟した先進社会では、ある程度広告関連ビジネスが出来上がっています。そのような国々に市場を拡大するためには、大きなグループと組み連携することに大きな意味があると思っています。新興国の開拓においても、当社とイージス・グループのそれぞれがこれまで培ってきたビジネスの土壌を共有することでシナジーを利かせていくのが全体の戦略です。

アジアを強化する日本企業は多く、これまで弊誌でインタビューさせていただいたどの企業も例外なくアジアを重視しております。欧州系のイージス・グループとの連携という流れを踏まえてのアジアの重要性についてお聞かせください。

当社の業績は経済成長に連動することが多いのです。過去の日本の広告費を見てもおおよそGDPに比例しており、現在の日本の広告費6兆円もその限りで中期的には横ばい傾向にあります。広告費の中にしめる当社のシェアもある程度一定なため、今後はますます経済成長があるところ、つまり広告やコミュニケーションの仕事のポテンシャルがあるBRICsやアジアを重要視していくことは確実です。ただ日本で培ってきた手法だけでは多様なマーケティングニーズに応えるには十分とは言えず、電通が持つスポーツやエンターテインメントなど多くの知的集積が厚みを持つグローバルソリューションにつながります。日本らしさを広げるというより日本で生まれ育った電通らしさが世界の知恵を吸収して進化していくイメージです。

多国籍のスタッフがいる環境で、工夫されていることはありますか。

「コミュニケーション・エクセレンス」というかつての社章どおり、コミュニケーションをしっかり取るようにしています。目標や方向性を共有し、今取り組んでいることへの意味をしっかり伝え理解してもらわないと、私には関係ないとか、これは私の仕事ではないなど、途中でやる気を損なう要因になってしまいます。基本的なことですが、意志の疎通が十分できていれば、お互いの考え方のズレを見過ごすことはなく問題も大きくなりません。この点は非常に大切だと感じます。

日本と海外の企業文化の大きな違いは、勤続年数の長さでしょう。日本では、一度入社すると長く勤め、その会社に忠誠心をもって貢献していくのが一般的ですが、海外ではそのような企業文化はなく、むしろキャリアアップを目指して転職することが良しとされています。会社との雇用関係が日本よりも対等であるため、社員は辞めることも自分たちの当然の権利だと思っています。

少しでも長く勤続してもらうために、電通スポーツアジアでは、社長も交えて社員と意見交換をする場を設け、マネージメントミーティングも頻繁に行っています。意見交換の場では、自分がこれからどのようなビジネスに取り組みたいのかをプレゼンテーションしてもらいディスカッションをします。そのアイディアを精査することで自分の目標が明確になり、やりたいことを形にできるという夢につなげ、モチベーションを上げようとしているのです。

非日本人の活躍の場は増えますか。

現在も電通イージス・ネットワークのほとんどはトップを非日本人が担っています。広告業界はその土地に合わせたテイストで展開する必要があるため、人と人とのつながりが重要です。そのため、コピーにしても表現にしても日本で一般的なやり方では必ずしも通用しないのです。最終的には現地の人の心に響く広告表現のほうが良いわけですから、広告主が日本人か現地人かによって表現の選び方が違うことも多々あります。その意味では、非日本人の活躍の場が広がっていくことは確実と言えるでしょう。

どのような人材を求めていますか、またどのような能力が求められるのでしょうか。

電通グループは、「Good Innovation.」(グッド・イノベーション)というスローガンを掲げています。単なる技術革新ということだけでなく、多様な専門性を備え互いに創造し合い相乗効果を生み出すことで、社会全体により良い利益と幸せをもたらす企業グループでありたいという私たちの決意が込められています。

入社に際して必要な資格やスキルについての質問をよく受けますが、特別なことは何もありません。事業内容が多岐にわたるためいろいろな人材が必要です。ある特定の専門領域に強みをもっていることも大切ですし、同時にジェネラルに幅広い知識があることも求められます。

しかし最も大切なことは、人としっかり「コミュニケーション」が取れるということでしょう。弊社の事業は、プロダクトや企業ブランドをどのようにして消費者に届けるかということがメインになります。普通の人がどう感じ、いかにして心が動かされるかを「コミュニケーション」を通して把握することが求められるのです。

大学名や語学力だけで採用を決定することはありません。語学力も大切ですが、それだけでなくいかに仕事を推進できるかという視点で選考しています。ここ10年くらい学生さんの英語力は格段に上がりTOEICが900点という方も珍しくありませんが、肝心なのはその語学力を活かして何ができるかということです。

海外で暮らすご家族にメッセージをお願します。

シンガポールは環境も良く教育が充実し、ご家族で暮らすには最適の国だと感じます。世界から見たときにアジアが成長領域として注目されているのは変わらないですが、日本のコンテンツ業界もアジア進出熱が高く、政府・企業ともに事業の柱にしているので、そのあたりをシンガポールにいて外からの視点で見ることができるという点も面白いと思います。英語だけでなく中国語を学ぶにも最適ですから、ぜひ当地ならではの体験をし、ご家族皆さんで生活を満喫していただきたいと思います。

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