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シンガポール・ダンス・シアター(SDT)プリンシパル・ダンサー 内田千裕

~バレエとの出会い~

試練から学び、更なる高みへ

私がバレエを始めたのは2歳半の頃でした。歩き始めたころから音に合わせて体を動かすことが大好きで、テレビで音楽が流れるといつも踊っていたそうです。そんな私を見ていた母がバレエ教室に連れて行ってくれたのが始まりでした。その頃は、将来プロとして活躍することになるなど夢にも思っていませんでした。

強さと喜び ~辛かった経験を糧に~

バレエには華やかなイメージがありますが、アートであると同時にスポーツでもあります。トゥシューズを履けば足に豆はたくさんでき、痛みで辛いこともあるでしょう。怪我もつきものです。肉体面で過酷な状態にあるときでも、それに打ち勝つ強さが必要です。

私自身、怪我という試練に直面したことがあります。本番前日の最終ドレスリハーサルで右ひじを骨折したのです。シンガポール・ダンス・シアター(以下SDT)に入団した当初は、とにかく「がむしゃらに」すべて全力で取り組んでいました。「公演では練習やリハーサル以上の成果を出そう」と、必死で気力を奮い立たせていた折に転倒してしまったのです。公演に向けて積み重ねて来たものが一瞬にして崩れ落ちただけでなく、手術後、ギブスを外してからまったくひじが動かなくなってしまいました。「このまま伸びないかもしれない、もう踊れないかもしれない」という恐怖を味わいました。リハビリは涙が出るほど痛く、しかし「絶対にまた舞台に立つ」という強い意志と「バレエが何よりも好き」という思いで乗り越えることができました。

この経験は私に「全力で取り組みながらも心に余裕を持つ」ことの大切さを教えてくれました。今では、冷静に自分自身を見つめることができるようになり、踊っているときの視野が広がったと思います。好きなことを続けられる尊さと喜びを深く感じながら、練習に励むことができるようになりました。

国際色豊かなシンガポール唯一のバレエ団

現在、SDTには37名のダンサーが所属していますが、日本人は7名、シンガポール人が5名、その他オーストラリア、ヨーロッパなどの出身となっています。それぞれこれまでのバレエ環境が異なるため踊り方も違い、それがSDTのユニークさにつながっていると思います。クラシックを踊るときは合わせる
のが難しいこともありますが、フリーの演目のときでは個性あふれる深みあるパフォーマンスとなります。一人ひとりそれぞれの強みと個性を生かした国際色豊かなバレエ団でプリンシパルとして踊れることを誇りに思っています。

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