グローバル教育
日本政府観光局(JNTO) シンガポール事務所 所長 真鍋 英樹 氏

グローバル時代を迎えた今、企業が求める人材、教育とは何でしょうか。企業の担当者に聞きました。

少子高齢化で人口減少が進み内需が縮小する日本において、経済活性化のために外国人旅行客を増加させ、新たな需要を創出することは、ますます重要になってきています。政府は「観光」を重要な成長分野に位置付けており、とりわけ中間層の成長が期待されるアジアは今後のマーケットとして最重要地域であると言えます。シンガポールに拠点を置く御局の果たす役割は非常に大きいと思います。

日本政府観光局(JNTO:Japan National Tourism Organization)は、東京オリンピックが開催された 1964 年に我が国の政府観光局として発足し、昨年 50 周年を迎えました。正式名称を独立行政法人 国際観光振興機構と称し、訪日外国人旅行者の誘致活動に取り組み、国際観光の振興を図るための政府系機関です。現在、世界 14 都市に海外事務所を持ち、各国の海外旅行市場のマーケティング情報の収集・分析等を行うとともに、現地旅行会社やメディア等と連携し、日本へのインバウンド・ツーリズム(外国人の訪日旅行)のプロモーション活動を実施しています。シンガポール事務所は、2006年にバンコク事務所から独立する形で設立されました。

近年、国際観光いわゆるインバウンドマーケットは経済成長が著しいアジア地域を中心に急速に拡大しています。国連機関である UNWTO(国際観光機関)によれば、2020 年にはアジア・太平洋地域で 3 億 5,500 万人が海外旅行に出かけ、そのシェアは世界の 1/4 以上に至 ると見込まれています。急成長するアジアをはじめとした世界の観光需要を取り込むため、韓国や台湾、マレーシアそしてここシンガポー ル政府も非常に熱心にインバウンドプロモーションに取り組んでいま す。世界各国の皆さんが感じる「日本の魅力」はそれぞれ異なりますので、今後は、各国の市場特性を生かした現地目線での訪日プロモーションを更に強化していきたいと考えています。

海外からの観光客誘致のプロモーション活動は、2020 年に開催される東京オリンピックが大きな起爆剤になりそうですね。

2020 年に東京で開催されるオリンピック・パラリンピックという世界的イベントは、日本を世界中の方により知っていただく大きなチャンスと考えています。日本政府が本格的な訪日プロモーションを開始した 2003 年の訪日外客数はわずか 520 万人。2013 年には、その 2倍 となる 1 千万人を突破した訳ですが、新たに 500 万人を増やすために 10年の歳月を要したことになります。ところが、その翌年、2014 年には更に 300 万人増となる 1 千 300 万人の外国人が日本を訪れ、今年に入ってからも前年と同じ時期との比較で 4 割増という驚異的な伸びが続いています。

次なる目標としては 2020 年の東京オリンピック・パラリンピックで「2 千万人」を目指していますが、日本の「実力」を考えると決して実現できない目標ではありません。国土交通省観光庁や関係政府機関、 日本大使館、地方自治体等と在外日系企業とも連携しながらオールジャパン体制で取り組んでおり、シンガポールの方々の趣味嗜好に合ったプロモーションができるよう、知恵を絞って取り組んでいるところです。

「観光が日本の未来を変える」と聞きますが、どのように変わるのでしょうか。またシンガポールでは、日本のどのような点が人気なのでしょうか。

2014 年、シンガポールからは、およそ 23 万人の方々に日本を訪れていただきました。シンガポールの人口が約 330 万人(外国人を除く) ですので、総人口の7%もの方が日本に行った計算になります。興味深いのは訪日が 2回目 3回目、あるいはそれ以上というリピーターの方が 7割を超えていることで、他の国と比較しても訪日リピーター率は高く、「日本は素晴らしい。行くたびに新しい発見ができる。」という嬉しい声を毎日のようにいただいています。今後は東京や大阪、北海道だけでなく、地方の魅力もどんどん紹介し、訪日旅行を何度も楽しんでいただきたいと思っています。

国際観光の促進がもたらす経済効果は旅行会社やホテル等一部の観光産業だけにとどまらず、小売店や飲食店、交通機関も含めた裾野の 広い分野にわたり、2013 年で 23.6 兆円に上ると言われています。昨年 10 月に訪日外国人向けの免税制度(Tax-free)が改正され、百貨店や家電店の売り上げが 2倍、3倍に増えたというニュースは皆さんも耳にされたかと思います。特に今後、日本は本格的な人口減少社会を迎え、国内経済が厳しい状況になることも懸念されますが、インバウンド消費はその打開策の一つとして極めて有効だと言われています。

また、外国人旅行者が増えるとそこに国際交流が生まれ、日本と諸外国との間の相互理解が進みます。グローバル化社会において、日本が各国と良好な国際関係を構築していくことは、日本の未来になくてはならないものです。

さらに、多種多様な価値観で溢れる世界の中で、外国人の目を通した日本の価値の再発見、つまり、世界に通用する「ジャパン・ブランド」を作り上げることもできます。このように国際観光の促進は、経済面のみならず国際相互理解の促進や「ジャパン・ブランド」の確立に繋がるという点で、日本の未来に大きく貢献していくものと期待されます。

御局の採用について、また求める資質について教えてください。

採用に関する基準としては外国語ができることが望ましいですが、 具体的な資格や検定の点数などの縛りは設けず、総合判断をしています。毎年多くの方々から申込みがあり、1,000人以上の応募の中から若干名(3 ~ 5 名程度)の採用という状況です。

資質についてはこれが典型というのは難しいですが、日本のことが好きで、日本のことを伝えたいと思うパッションが強い人を求めています。そのパッションがないと仕事を面白いと感じられません。また、 ある特定の資格や能力というよりは、やはり日本各地を実際に訪れたことがあり、その地のさまざまな魅力を感じとることができるような 方はこの仕事に大変向いているのではないでしょうか。日本も外国も好きで、「日本のことをより広く紹介したい」とか「交流を通じて国際関係を変えていきたい」という夢と信念のある方を求めています。

シンガポールで暮らすご家族にメッセージをお願いします。

ご縁があってシンガポールで暮らしていらっしゃるのですから、シンガポールという国、そしてシンガポールの方々のことをよく知ることが大切だと思います。

今からちょうど 50 年前、当時のマレーシアから半ば捨てられるようにして独立した小さな国が、今日では日本を凌ぐ経済力を持つまでに発展しました。その「建国の父」とされる、リー・クアンユー初代首相が先日逝去されました。仕事上、親しい付き合いのあるシンガポール政府関係者にお悔やみのご連絡をしたところ、「ありがとう。しかし、 今こそ私たちは前を向いて進んでいかなければならない。リー・クアンユーさんは、これからも私たちの心の中に生き続けているのです。」 というお返事がありました。国の発展と国民の幸せを第一に考えてい たと言われる故リー元首相の、まさに強い信念や情熱を感じさせるような言葉です。故リー元首相が当時、高度経済成長を遂げた日本から多くのことを学び、シンガポールに取り入れ、その発展をもたらしたという日本とシンガポールの切っても切れない深い関わりを考え合わせると、日本人が本来持っている気概を感じ、シンガポールという国や国民に親しみを感じずにはいられません。

また、海外にいる時だからこそ「日本」という国を突き詰めて考える機会にして いただきたいと思います。海外在住時は、その国の方と同じ目線で日本を客観的に見ることができる貴重なチャンスだと思い ます。特に、シンガポールの方々は日本のことを良くご存じですから、 彼らから見た「日本」を知ることで、日本がどう見られているのか、 日本人の感覚とどこが異なるのか、日本のことがどのように伝わっているのか等、さまざまな角度から母国「日本」を知ることができ、本当の意味で日本のことを好きになれるのではないかと思います。

特にこれから ASEAN は、国際社会にとっても日本にとってもより重要な地域となりますので、当地で生活したことが将来の貴重な財産 になるに違いありません。得難い機会だと思われますので、積極的にシンガポールの方々と交流し触れ合う機会を作っていただきたいと思います。そして是非、皆さまお一人おひとりが日本の観光親善大使となり、日本の魅力をシンガポールから世界へ発信していただければと思います。

最後になりますが「観光」は、人種、性別、年齢等の壁を越えて人と人をつなぎ、国と国をつないでいきます。その土地で得られた人と のふれあい、新たな発見や経験は、きっと人生を豊かにしてくれます。「人生教育」という意味でも駐在期間をフル活用して、ご家族皆さまで観光旅行をされることをおすすめします。

- 編集部おすすめ記事 -
渡星前PDF
Kinderland