グローバル教育
ORIX Investment and Management Private Limited 前マネージングディレクター 山名 伸二 氏

「人」が成長を支え「人」こそ財産

グローバル時代を迎えた今、企業が求める人材、教育とは何でしょうか。企業の方からお話をうかがいました。

Q. 御社はリースや球団経営で広く知られていますが、銀行・生保を始めとした金融業全般、不動産、自動車リース、環境エネルギー、空港などの社会インフラなど、その事業領域は多岐にわたっています。CMにある「Do you know ORIX?」という問いかけの答えを聞きたい、という方もいらっしゃると思います。まずは、御社の概要を教えてください。

ORIX Investment and Management Private Limited 前マネージングディレクター 山名 伸二 氏

オリックスは東京オリンピックが開催された1964年に、リース会社「オリエント・リース」として設立されました。70年代の経済成長期に香港やシンガポールなどの東南アジアを中心に、海外へいち早く展開していきました。現在では36ヵ国約2,000拠点に約35,000名の従業員が所属しています。設立当初は主に中小企業が設備や機器などの導入に必要な資金の調達を「リース」という形で支援することを生業としていました。リース事業から隣接分野に進出し、現在の事業範囲は多岐にわたります。現在ではリース事業による収益は一部に留まるため分かりにくい業態になっているのは事実で、我々社員も一言で説明できず苦労することがあります。

Q. 「社会に新たな活力を」をスローガンに、常に変化する世の中のニーズに応えながらビジネスをつくり出している御社ですが、海外マーケットの開拓はどのようにされているのでしょうか。

設立当時、日本では「リース」という概念はほとんど認知されていなかったと聞いています。特に日本人は「所有」することに大きな価値を見出していたため、物を借りて「使用」するというリースに対する心理的な抵抗もまだ強かったようです。そのため、リースの仕組みの浸透を図るためのPR活動に尽力したようですが、高度経済成長期のお陰もあり会社は拡大していきました。その後東南アジアの経済成長を見込み、他の日本企業に先駆けて香港を皮切りに進出しました。シンガポールに現地法人を設立したのは72年のことです。

現在、海外事業部門はセグメント資産ベースで全体の約3割を占めています。地元の人を重用し、彼らと共に海外の業務を拡大していく形態をとっており、顧客は主に各国の中小企業です。シンガポール法人3社のうち2社には日本人はおらず、私が社外取締役を務めているにすぎません。従業員約500名のうち駐在員の日本人はわずか4名で、大半のスタッフとCEOもシンガポール人です。

Q. 海外でのマネジメントで大切にされていることは何ですか。

どの国で仕事をするにしても、自分の信念となる「軸」を持ち、 飾らず物ごとの本質を語る姿勢を大切にしています。必要に応じて長い時間をかけ、真剣な議論をしてお互いが納得する答えを導くことを常々心がけています。

この教訓は、韓国駐在中の自らの経験から得たものです。在任当時、アジア通貨危機がありました。韓国も深刻な不況で出資していたリース会社が傾きかけ、その会社を立て直すか見放すか、重要な選択を迫られたのです。法的には我々が経営を助ける義務はないにもかかわらず、「出資元は経営を助けて当然」という見方が強く、日韓両国の歴史認識の問題など難しい背景も加わり、解決は困難を極めました。最終的には、銀行などで構成される債権団の諸々の条件合意を取り付けた上で、再建に乗り出すことができました。この経験から「今回解決しなければならない問題は何か」と「何が求められているのか」の本質を真剣に考え、現場でのさまざまなプレッシャーに振り回されることなく終始一貫することの大切さを痛感したのです。

日本人には「阿吽の呼吸」に象徴されるように、言わなくても相手の意図を察する文化もありますが、外国では全く異なります。会社として議論をする場合など、建前論で話すとあまり良いことはありません。常に論理を展開できるよう準備をし、包み隠さず自分の思いを粘り強く繰り返し伝えることが大事だと思います。もちろん自分が間違えることもあるので、その際は潔く認めるという姿勢は、ビジネスの原点だと思います。

Q. 国際舞台では「コミュニケーション力」が重要だと言われます。多国籍の人とコミュニケーションをはかる際に心がけること、また、日本人として他国から見習うべき点は何でしょうか。

「コミュニケーション力」を養うことは確かに大切です。先ほどお話ししたようにローカルスタッフの目線で伝えるべき本質を率直に伝えることは重要で、自ら相手に歩み寄り、自分の間違いは認めるという心がけも重要だと感じます。

コミュニケーション力を養う技術的な意味では「同じ釜の飯を食う」努力は有効で、ローカルフードを食べに行き、「どこのホッケンミーが美味しい」など語れるようになると、話題に煮詰まった時に距離感が縮まる気がします。食の話はどの国でも盛り上がりますので、なるべく共通の話題を見つけるようにしています。

日本人として他国から見習うべき点は「自分に誇りを持つ」ことでしょう。シンガポールでも他国でも、海外の人々は自分と自分の国に誇りを持っています。日本人の中には、自分より相手の方が偉いと感じてしまい、外国人と話すと萎縮してしまう人がいます。

例えば、ある国の人に「日本は少子高齢化で人口が減っているし経済は回復しないよね」と言われたら、皆さんはどう答えるでしょうか。恐らく、何も言い返さない人が多いと想像します。この場合、他国の人でしたら恐らく「既にこういう対策を講じている」「将来的にはこういう良い兆しもある」と自分の意見を述べてくるに違いありません。日本人にも、その発信力が必要なのです。

確かに我々日本人には謙遜の文化があり、慎みを美徳とする慣習があります。しかし、海外ではそれが通用しないことの方が多いのです。国際舞台で他国の人と対等に議論するためにも自分の意見をしっかり持ち、言うべき時にしっかり意見を主張する姿勢を、ぜひ見習うべきだと感じます。

Q. 御社の採用について教えてください。海外で育った子どもたちが社会人になる際、どのような点を評価していただけるでしょうか。

オリックスが金融を中心としながら多岐にわたる事業を行い、世界でも稀な企業として進化し続けているのは、「人」がこの成長を支えてきたからであり、オリックスグループにとっての財産だと考えています。求める人材像としては、臨機応変に対応できる知識やチャレンジ精神があること、そして、多様な価値観でイノベーションを考えていける人です。皆、経験したことがないことばかりやっているので、「やったことがないから分かりません」という後ろ向きな態度は、会社では絶対タブーです。

また、設立当初から多国籍人材や、総合職への女性登用を他社に先駆けて取り組んできたことは、当社の社風とも言えます。 国籍・性別・学歴・中途入社を問わずさまざまな人が関わっていくことで、より良い結果を生み出すという信念が昔からあり、新卒・中途採用共にオープンに募集しています。

2018年度の新卒採用は総合職、一般職合わせて全国で250名ほどの採用を見込んでいます。採用において文系・理系の区別は特にしていませんが、全体的には文系出身者が多いようです。本社採用では、やはり日本語ができることが前提になりますが、積極的に外国人も採用しており、中国、台湾、韓国、オーストラリア、カンボジアなど、日本への留学経験者や日本育ちの外国籍の方も多く見られます。最近は台湾や韓国で、現地の大学生向けに本社勤務を前提とした採用活動も行っています。

海外出身の学生については、私の年代では少なかったですが、現在の若手社員では顕著に増えてきました。入社してからも、海外出身の学生は異文化への適応力や語学に長けている点などはプラスだと思います。入社後は体系的な研修プログラムも用意されており、語学力や本人の適正も考慮した上で海外関連の仕事に就く機会があります。

Q. 海外で暮らす日本人の方にメッセージをお願いします。

シンガポールは多民族国家で、アジア、欧米、オセアニアなどの人と対等に接することができる珍しい国です。多国籍の人と友人関係を築き、大人になる頃には皆が世界に散らばっているとしても、SNSで繋がりながら広い交流関係を続けてください。学生時代から続く友だちは、永遠の友になれるでしょう。 私自身は幼少のころから海外に長く住んでいますが、昔は体験できなかったことですので非常に羨ましく思います。

海外出身の学生は、外国人に怯むことがなく正面から当たっていける精神力が育まれています。これはこれからの人生において、大きな強みになるに違いありません。他国籍の友だちとは歴史問題や食べ物の話題など、率直に話し合う機会を持ち、関係を深めることを、ぜひ実践していただきたいと思います。

この取材は2017年1月に行われました

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