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<田畑 康先生講演> グローバルにはばたくために「本当に必要な小学生の英語力」とは ~シンガポール日本人学校小学部チャンギ校にて~

今年5月、シンガポール日本人学校小学部チャンギ校にて「本当に必要な小学生の英語力」をテーマに教育講演会が行われました。

講師は、早稲田アカデミー事業開発部 国際課長を務める田畑康先生です。ご自身も帰国子女であり、また豊富な海外勤務経験を生かして長年海外・帰国子女教育に携わり、生徒・保護者から絶大な支持を得ています。今回の講演の中で「小学生のうちに英語はどこまで学べば良いのか」「真のグローバル人材とは」など、興味深い内容をさまざまな事例を踏まえ、わかりやすく語ってくださいました。

田畑 康先生 講演

田畑 康先生 講演抜粋

日本で進む「小学校の英語教育」

グローバル化が進むなか、今後、ますます英語力が重要になることは間違いありません。日本政府は英語教育の改革を急ピッチで進めており、2020年度には英語が小学校5、6年から正式教科になることが決まっています。これを受け、英語を入試科目に取り入れる私立中学が急増し、今年度はその数が約100校にも上りました。これまで中学入試の英語受験といえば帰国生対象でしたが、一般枠入試のこの急速な変化が、小学校からの英語教育を重視する声を今後さらに高めるでしょう。

「バイリンガル」と「セミリンガル」の違いを知る

言語の習得は、ある年齢を超えると難しくなると言われており、日本における小学校からの英語教育熱は必然と言えます。その一方で、幼少の頃に英語の習得に多くの時間を費やし、意識を集中させた結果、日本語の読み書きや表現力が養われず、自分の感情をうまく伝えられなくなってしまう可能性が指摘されています。実際、海外・帰国生の中には、「バイリンガル」を目指しているのに英語も日本語も年齢相応のレベルに達しない「セミリンガル」に悩む子どもが少なくありません。言語活用能力は、いわば自己確立や社会とのコミュニケーションの軸であり、母語で達成されるべきものです。母語を習得するべき時期の英語教育にはリスクが伴うことを知る必要があるのです。

言語習得における「臨界期」仮説について

臨界期(9~10歳くらいまで)と呼ばれる年齢を過ぎると言語の習得能力が著しく低下するという仮説

  • 脳の吸収力が最も盛んな臨界期前に語学学習を進めることでしっかりとした英語力が身につく
  • 日本人が不得手とする【r】と【l】の発音や聞き分けも、臨界期前に学習することで不自由なく習得できる
  • 苦手意識や間違いを恥ずかしがることのない幼時期に英語を学ぶことで、よりスムーズな言語習得が可能

↓つまり↓

言語習得は早く始めるほど有利。しかし…
母語での表現が未発達な幼少期に英語の習得を急ぐことで、母語の語彙力や表現力が著しく不足し、思春期以降も日本語能力の低下を招く可能性があり、憂慮すべきです。

言語の土台は「母語」にあり

教師をしていた時代の夏目漱石が「I love you」を「我君を愛す」と訳した生徒に、「月が綺麗ですね、と訳しなさい。日本人にはそれで伝わりますから」と教えたという有名な逸話があります。言語には、翻訳機などでは決して訳すことのできない領域があります。

臨機応変に適切な表現を選ぶことができる思考力・判断力こそ、まさに「言語の土台」からつながる力です。その観点から、まずは母語を固め、揺らぎのないアイデンティティを確立することで外国語の習得能力にも一層の磨きがかかる、と私は信じています。

多様な言語と、言語に密着した文化の違いを理解する豊かな感性。それを小学校からの英語教育で養うことこそが、日本の国策の繁栄に繋がり、世界が求める「真のグローバル人材」の育成を促すものと確信します。

田畑先生よりもう一言

田畑 康先生 

更なるグローバル化を目指す日本の教育現場では、帰国生の活躍に大きな期待を寄せています。学校が求めているのは「英語力」だけではありません。海外生活の中で培われた「多様性」「協調性」「チャレンジ精神」「発想力」「表現力」が一般生にも良い刺激を与え、学校全体の活気溢れる環境を作っている、と先生方は感じています。

滞在国での日常が「非日常」であることに気付いてください。かけがえのない海外生活の中で、異文化への興味や関心を高く持ち、豊富な経験と柔軟なコミュニケーション能力をバネに、これからさらに大きくはばたいていただきたいと思います。

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