グローバル教育
みんなが知りたい! 「バイリンガル」の育て方 ~英語を保持・伸長するための秘訣とは~

海外滞在中にお子さまの英語習得に力を入れるご家庭が多い一方で、読者の皆さまからは「せっかく学んだ英語も、帰国後は忘れてしまうのでは」という懸念も寄せられています。英語力を伸ばし、保持するためには、どのようなことに気を付けるべきなのでしょうか。
今回Springでは、帰国生の英語保持・伸長研究の第一人者として活躍され、海外子女教育振興財団 外国語保持教室アドバイザーも務める大妻女子大学・大学院教授 服部 孝彦先生にお話をうかがいました。

(本企画は、2017年9月の特別記事に最新の研究結果や事例を追加した改定版です)

服部 孝彦 教授

みんなが知りたい! 「バイリンガル」の育て方  ~英語を保持・伸長するための秘訣とは~大妻女子大学・大学院教授、早稲田大学講師、言語学博士。国連英検統括監修官、海外子女教育振興財団外国語保持教室アドバイザー、元NHK英語教育番組講師。著書に文科省検定中学英語教科書『ニューホライズン』他183冊。近著には『新・私たちはいかにして英語を失うか:帰国子女の英語力を保持するためのヒント』がある。日米間を行き来しながら、米国の大学での講義・講演、国際学会での研究発表を精力的に行う。自身も帰国子女。

海外で外国語を習得したお子さんの多くは、帰国後にその言語を失っていきます。その際、この現象を表現するのに適切なのは「Language Loss(言語喪失)/Language Shift(言語交替)」どちらだと思いますか。こう聞くと「Loss(喪失)」と考える方が多いと思いますが、実は「Shift(交替)」の方がより的確です。

脳は「その時に必要な言語」を習得するようにできています。英語圏にいれば「英語を習得しよう」と働きます。しかし、日本に戻ると今度は、「日本語力をつけよう」と働きます。すなわち、外国語を忘れることは自然現象なのです。つまり帰国後も言語を保持しようとすることは自然現象に逆らうことであるため、当然簡単なことではなく、親子ともに負担の大きい取り組みになります。

その時のために、「どのように外国語を忘れていくのか」「親としていかにサポートするか」ということを、ぜひ知っておきましょう。

親はどのようにサポートするか
~「言語忘却のメカニズム」を理解してサポートしよう~

言語忘却が進行する「順番」を知ろう

❶ 語彙力の喪失 <あれ何て言うんだったけ・・>
❷ 不規則変化動詞の誤り
❸ 語順の乱れ
❹ 発音の忘却  <帰国した今も発音を褒められる!>

帰国後は、「単語がスムーズに出て来なくなった」など、子ども自身が英語力低下を実感し、自信を失う場合も。
その場合も焦らずに、比較的忘れにくい発音や聞き取る力を積極的に褒めてあげよう!

4技能と言語忘却の関係性を知ろう

言語には4技能あり、それらは「能動的な技能」と「受動的な技能」の2つに分けられます。この2つを比較すると、能動的な技能である「話す・書く」力の方が圧倒的に忘れやすいということが科学的に証明されています。また、受動的な技能である「読む・聞く」力を蓄えていれば、仮に流暢に話せなくなったとしても再び能動的な技能の力をつけ、かつての英語力に近づくことが可能なのです。その意味では「読む・聞く」力は英語力の根幹をなす力といっても過言ではありません。

「根幹となる「読む・聞く」力をしっかり蓄えて、
「話す・書く」力を押し上げよう!

みんなが知りたい! 「バイリンガル」の育て方 ~英語を保持・伸長するための秘訣とは~

忘却しにくくなる「高度な英語力」について理解しよう

より英語力が高ければ高いほど、言語忘却はしにくくなり、帰国後の英語保持にもつながります。

海外滞在中は、英語力を出来る限り高いレベルに
引き上げるように努めよう!

<英語力の習得レベル>

① BICS(Basic Interpersonal Communication Skills)

忘れやすい
明確に「場面設定」がされていて、高度な認知力を必要としない状況で使う言語能力。
〈英検での目安〉 4級、5級程度
(例) 「遊び場」「食事」など日常で使う話し言葉
May I eat this cake?

② CALP(Cognitive Academic Language Proficiency)

忘れにくい
明確な「場面設定」がなく、高度な認知力を必要とする言語能力。
〈英検での目安〉 1級~2級程度
(例) 論文を書いたり、抽象的な文章を理解する際に使う言葉(アカデミックな英語)
日常表現では
People have been interested in this thing for a long time.
これをアカデミックな英語で述べると
Researchers have been interested in this phenomenon for at least 10 years.

<年齢層による英語レベルと言語忘却>

幼児・小1・2基本的な英会話能力(① BICS)は身につくが、忘れるのも早い。
小3以降この年齢になるときれいな発音を失うことはほとんどない。
小5・6以降読み書きができ、認知力のあるアカデミックな力(② CALP)を持つようになり忘れにくくなる。

 「動機づけ」の大切さを理解しよう

英語学習には本人の「やる気・動機づけ」が極めて重要であり、学術的には「自己決定理論(Self-determination theory)」として注目されています。これは、「動機づけがされていると、自主的・自律的に学習する」という考え方です。つまり、「帰国前のお友だちとずっと仲良くしていたい!」「英語の絵本がおもしろい!」などといったように、子どもたち自身の「英語を学び続けたい」という意欲を育てることが重要であるということです。
子どもたちは、内面から湧き出る意欲によって英語を一生懸命に学習したいと考えます。「英語を使いたいから学習をする」「面白いから学習をする」といった動機づけを持たせることができれば、英語学習は半ば成功したと言えます。

子どもに英語を学ぶ動機づけを与えよう!

みんなが知りたい! 「バイリンガル」の育て方 ~英語を保持・伸長するための秘訣とは~

まとめ
~英語保持・伸長のためのサポート~

海外滞在中から取り組もう

◆ 現地にいる間に「より高い英語力」を身につけるよう努める。

帰国準備をしよう

◆ 英語に触れる環境を整える。
引越しの荷物の整理をする前に、英語保持教室の入室試験を受けるくらいのフットワークで!
<「落ち着いてから」と思うと随分先になってしまうので注意!>
◆ 帰国後の学校選びをする。 
進学実績だけを見るのではなく、帰国生がのびのびでき、英語を身近に感じて学び続けられる環境かを見極めることも重要です。

□ 帰国生の割合
□ 帰国生受け入れの意識が定着しているか
□ 先生が帰国生のことを十分理解して寄り添ってくれるか
□ 帰国生のためのカリキュラムが整備されているか

帰国後も継続しよう

◆ 英語学習の「動機づけ」を与える。
英語に関心を持たせ、好奇心や探究心を刺激しましょう。保護者が子どもと一緒に英語に取り組むことも効果的です。オンライン学習や教材なども、親が押し付けるのではなく、子どもの興味関心を尊重して選びましょう。
◆ 最低でも1日30分 英語に触れるようにする。
1週間に1度まとめて英語に取り組むので はなく、毎日少しずつ続けることが効果的です。英語保持教室などに毎週通うことも、学習習慣をキープしやすくなるのでおすすめです。
<保持教室では自分より英語力の高い帰国生に出会えるので、自分も努力しようと意識を高めることができます。>
◆ 本人の興味に合わせて「読む」。
「英語を学ぶために読ませる」のではなく「読みたいことが英語で書かれているから読む」という動機づけを意識して、子どもに本を選ばせてあげましょう。また、読書の際は英語/日本語の読書量のバランスを考えがちですが、どんどん自由に英語を読ませることをおすすめします。その理由は、日本語でまだ学んでいない言葉や概念を先に英語で学んでも、後で日本語とリンクして日英両方で理解し定着させることが理論上可能であるためです。
<読書は高度な認知力を必要とするため、映像より効率的に英語を学べることが分かっています。>
◆ 上質な英語を「聞く」。
英語の聞く力と発音は、他の技能に比べ忘却が遅いことが科学的に証明されています。帰国後、英語をなるべく多く聞くことによって、聞く力は保持でき、さらに伸長させることも可能です。
<コンテンツは子どもが好きな分野のドキュメンタリー番組などもおすすめ。>

☆人気シリーズ「バイリンガルの育て方」などバイリンガル教育に関する記事は☞こちら

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