“ 可能性と生きる力を見出すために”
はじめに
教育現場は、「生徒の人格をどのように形成していくか」「校内の団結力をどのように高めるか」という問いに、常に向き合っています。 それらの答えを模索し続ける中で、アウトドア教育への関心は過去数十年間高まり続けてきました。学校ではもちろん企業においても研修 という形で多く取り入れられています。これからご紹介する「冒険活動プログラム」を実施する学校は年々増え、現在では通常のカリキュラムの一部となっているところも少なくありません。
アウトドア教育の目的
現代の教育は、教科学習だけではなく生徒の豊かな人間性を育む全人的な教育を目標としています。アウトドア教育を推進し「冒険活動 プログラム」を実践する学校の多くは、キャンプや登山遠征、マウンテンバイキングにカヤッキングといった活動のノウハウを生徒たちに 教えようとしているだけではありません。
「冒険活動プログラム」の本質は、粘り強さ、自己管理、仲間と協 力し合うことなど、生きていく上で大切な資質を、大自然の中での挑 戦を通して学んでいくことにあります。これらの資質は学校在学中だ けでなく、大学進学後や社会人となってからも、ますます求められる ようになってきました。
楽にこなせる野外活動ではなく、遠く離れた未知の環境で困難にチャレンジする冒険活動は、自分の中にある「挑戦心」を呼び起こします。体力や精神力の限界への挑戦を重ねるうちに、生徒たちは粘り強く物事に取り組むことを身体で覚えていきます。必死になることで内なる可能性に気づいたり、果敢なチャレンジが新たな自己表現の機 会になるかもしれません。同時に、行動を共にしている周囲の友人を励ますこと、力を合わせて乗り越えようとすることの大切さも体験するでしょう。冒険活動をやり遂げた時の達成感と充足感、そしてチームとしての一体感は、個性や優れた資質を伸ばし、生徒を人間的・社会的に大きく成長させるのです。
「 冒険活動プログラム」とは
学校のカリキュラムにおいて、「冒険活動プログラム」はどのように実施されるのでしょうか。 プログラムは校内の有資格者チームによって非常に注意深く立案されます。このチームが、経験が豊富で厳しい安全基準を満たす外部の専門機関と緊密に連携していきます。年齢にふさわしい、挑戦の中にある楽しさを仲間とともに感じられるような冒険活動を体験させることが重要です。学年が上がるにつれて活動の難易度は上がっていき、生徒自身が進歩を実感する工夫がされています。どの程度の冒険なのか、理解を深めるため具体例を見てみましょう。
UWCSEAの全人教育においては、アウトドア教育プログラムがカリキュラムの柱の一つとなっていますが、教育的効果は生徒たちの成長から証明されていると感じます。冒険活動は現地での奉仕活動や、その土地の文化、地理、歴史などの学習機会とも組み合わせて提供され、普段の教科学習や課外活動にも結びつけられます。こうして、生涯にわたる大切な生きる力を総合的に身につけられるのです。
あえて「コンフォートゾーン」を超える
何百年もの間、自然は人間にとって厳しいものでした。危険や不快なことを乗り越え、困難と闘いながら今日のような生活環境を手に入れてきました。原始的な自然から離れても生活が成り立つ現代では、かつて大自然の中で困難に立ち向かう中で得ていた成長の機会が失われてしまったようです。利便性を追求してあらゆる努力を続けた結果、自然が引き起こすちょっとした不快感も緩和できるようになりました。現代人は、少しの天候の変化だけで「湿度が高くて不快だ」などと感じるようになってしまい、コンフォートゾーン(心地良いと感じ る領域)はこれまでにないほど狭まっています。
現代においてこそ、あえてコンフォートゾーンを超え、個人としてもチームとしても挑戦する経験が必要なのです。電子デバイスのネットワークに常につながって窮屈な空間に暮らす日常から離れ、どこまでも続く壮大な大地で自然と結びつくとき、全く異なるものの見方に気づくでしょう。 教育者クルト・ハーンの「遠征旅行は己を強くする」という言葉は広く知られています。また、小説家ジョゼフ・コンラッドは、代表作「ロード・ジム」の中で、「内面的な価値、忍耐力、頑強さ、負けまいと思う心、己をごまかすことなどが、自分にはどの位あるのか。こういった本質に気づく体験を、他者と関わり合う中で若い頃にしなくてはいけない」と訴えました。
アウトドア教育プログラムは、今後ますます重要になるでしょう。多くの若者が新しいチャレンジを志し、仲間とともに大きく成長する ことを願ってやみません。
※2013年11月25日現在の情報です。最新情報は各機関に直接ご確認ください。