グローバル教育
NIPPON EXPRESSホールディングス 常務執行役員 南アジア・オセアニア地域総括 兼 NX南アジア・オセアニア株式会社 取締役社長 田中 博之氏

企業からの声 Focus On The Future

当社は「モノを運ぶ」という、いわば無形のサービスを
提供しています。お客さまの商品によって、
自由な発想でお客さま満足度を高めることができ、
必ずしも決まったものが最善とは限りません。

言い換えれば、「できる・できない」ではなく、「どうやったらできるのか」を考え、諸条件の中で

最善の方法を見つけ出すことが必要なのです。

 

グローバル時代を迎えた今、企業が求める人材、教育とは何でしょうか。
企業の方からお話をうかがいました

Q. 御社の紹介をお願いします。

弊社は2022年にホールディング体制に移行し、日本通運株式会社からNIPPONEXPRESSホールディングス株式会社に社名を変更しました。読者の皆さまの中には、以前の「丸通(円の中に「通」の文字)」という赤いロゴを思い出してくださる方も多いことでしょう。主な事業内容は、物流業、そして引越事業です。以前のロゴのイメージから、日本に深く根差した会社だと思われがちですが、実は海外にも広域で進出しており、49カ国、313都市、733拠点を有しています。海外拠点は、1962年に米国日本通運を設立しました。アジアでは1973年に第一号としてシンガポール日本通運を設立し、今年で50周年になります。

現在、会社全体として日本国内の事業はもちろんですが、海外事業をより一層拡大しようと取り組んでいます。当社の創立は1937年で、2037年には創立100周年を迎えます。そこで「グローバル市場で存在感を持つロジスティクスカンパニー」というスローガンを掲げ、全社員が共通の長期ビジョンとして意識しています。売り上げは3.5兆円から4兆円、海外売り上げの割合は50%を目指しています。毎年発表される世界のフォワーダーランキングでは、2021年時点で世界第5位であり、世界の中でも徐々に存在感が高まっています。当社は、創設以来、ものを運ぶことを通して、人、企業、地域を結び、社会の発展を支えてきました。これからも、社会の変化に合わせ、物流から新たな価値を創造することに挑戦していきます。

Q. どのような人材を求めていますか。

当社では、年間、約300名程度の新卒採用を行っています。事業内容から、男女の比率は男性の方が多いと思われがちですが、現在はほぼ半分が女性です。理系出身者の活躍の場も多くあります。例えば、物流と一言で言っても、運ぶものはさまざまで、中には新幹線や風力発電の羽を運ぶこともあります。一つで何百トンも重さがあるものを運ぶ際、橋の強度や傾きがどこまで耐えられるかなどを計算します。場合によっては橋や仮設の船着場を作らなければならないこともあり、そのような場面で工学部などの理系出身者が活躍しています。

グローバルに展開している当社では、日本人として日本の考え方に固執していては立ち行かないことも多々あります。誠実に謙虚に人の話を聞くことができ、コミュニュケーション能力が高い方を求めています。採用はあくまで「人物重視」で、海外の大学出身者も含め、大学について縛りはありません。求める人財像は自ら課題を見つけて解決することができる人、そして挑戦と変革を恐れない人です。

近年、特に進めているのが外国人の採用です。当社の海外拠点には総勢約22,000名の社員がおり、うち日本からの出向社員が約400名です。最近は幹部職の多国籍化も進んでいます。日本でもかなりダイバーシティーが進んでおり、今後は更に加速するでしょう。そのため、日本以外の方とコミュニケーションをとりながら仕事ができることが非常に大切で、その意味でも海外で勉強し生活された方は貴重な人財です。また、複数の言語が使える方は大きな強みを持っていると言えます。

 

Q. 多国籍、多文化のスタッフの方との関わり方、マネージメントのご苦労やその時のポイントは。

仕事上で大切なのは、きちんとプロセスを説明し理解してもらうことだと考えています。納得するまで徹底的にコミュニケーションを取ることは非常に大切です。また、「ゴールを明確化する」ことも有効で、一人ひとりの役割をきちんと決め、時に励まし時に評価する、この繰り返しを実践しています。業務の多くはチームワークのため、全員で結果が出せるよう鼓舞し合い、失敗した場合でもそれを責め立てるのではなく、どうすればカバーできたかをしっかり話し合うことを心掛けています。

当社が誇れる点は、「安全」と「品質」に対しての意識が非常に高いことです。文化や価値観が異なる人と協同で事業を進める上で、最も重視しているのは「安全」と「品質」そして「コンプライアンス」です。「安全」と「コンプライアンス」は事業を継続していくために最低限守らなければならないことであり、「品質」は競合する他社との差別化を図り当社を選んでいただくために重要で、競争力の源泉とも言える点です。

倉庫での保管業務(ロジスティクス)を例にすると、当社ではほこりがかぶらないように、箱が潰れないようにといった「5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)」を意識しています。中でも整理・整頓においては、どう整理するか、どの程度きれいに並べるかという価値観は、それぞれの国によって異なり、その感覚的なものをも合わせなくてはなりません。当社は日系企業ですので、当然「日本のサービス品質」が求められます。目に見えない価値観をどこに合わせるかというのは非常に難しいため、入社時のオリエンテーションやさまざまな自社拠点を見たりして、自分たちがどのレベルなのかを把握し、全体の品質を上げていくことに時間をかけています。

 

Q. 日系企業としてのアイデンティティーはどのように大切にしていますか。

「日系企業の強さ」とは、お客さまの声をよく聞き考え抜くこと、決まったことを愚直にやり抜くこと、絶え間ない向上心を持っていることだと感じており、当社のコーポレートメッセージ“WeFindtheWay”にもその想いが込められています。当社は「モノを運ぶ」という、いわば無形のサービスを提供しています。お客さまの商品が何であるかによって、大きさや重さ、温度管理が必要か否かは異なるため、自由な発想によってより良いサービスを作りお客さま満足度を高めることができます。言い換えれば、「できる・できない」ではなく、「どうやったらできるのか」を考え、諸条件の中で最善の方法を見つけ出すことが必要なのです。私どもが「考え抜く」「やり抜く」ことを諦めれば、そのものに込められた人の思いは実現せず、新しい可能性が萎んでしまうでしょう。私たちの強い意志と自信を、この企業メッセージに込めているのです。

実際に多く欧米系の多国籍企業とお付き合いをしていますが、この姿勢に評価をいただいています。コロナ禍であっても、サプライチェーンを止めず、お客さまの事業を止めなかったことには、高い評価をいただきました。

 

Q. 女性の活躍について教えてください。

昨今、男女共同参画に向けて社会の取り組みが加速しています。当社では以前から、男女を分けて区別する社風はありませんでした。現在では育児休暇はもちろん、さまざまな取り組みによって働きやすい環境を整えています。例えば、他の企業に勤める配偶者が海外駐在になった場合、休職して帯同し帰国後に復職することもできます。また、毎年海外研修生として派遣する40名程度のうち、3分の1以上は女性で、帰国後数年して海外に行く社員もいれば、帰国後は日本国内のグローバル事業で活躍するケースもあります。海外に目を向けると、シンガポールを始めアジアでは、むしろ女性の管理職が多いのが実情です。フィリピンやマレーシア、タイなど大きな拠点では女性社員の割合が7~8割にものぼり、それが当たり前という社風になっています。現地で積んだ経験を日本に持ち帰ることで、さらに良い循環を生んでいると感じています。

 

Q. 海外で暮らすご家族にメッセージをお願いします。

米国の有名な政治家が20年ほど前に言った言葉に興味深いものがあります。それは、“thereareknownknowns(知っていることを知っている)””thereareknownunknowns(知らないことを知っている)”、”therearealsounknownunknowns(知らないことすら知らない)”です。海外で生活し、異なる人種や宗教の方と接していると、まさに「我々が知らないことすら知らないこと」に直面することも多いでしょう。せっかく海外にいるのですから、限られた滞在期間にはぜひ皆さんが知らない何かを探す好奇心を持っていただき、それを探す旅に出ていただきたいと思います。家にこもるのではなく「こんな発見があった」という感動を味わってください。

お子さんにとっては現地での生活環境や人間関係は全て未知の世界でしょう。ぜひ、親御さんがその子の状況や様子、性格を見ながら時に背中を押してあげ、一緒に知らない世界に足を踏み込んでみることをおすすめします。余力があれば、英語のみならず、中国語やスペイン語などに触れてみるなど、お子さんが新しい世界に興味を持つことで、やがて、将来の夢や職業につながるかもしれません。

「知らないことを知ること」は、新しい可能性を広げ、豊かな楽しい人生を送れる第一歩なのですから。

 

会社概要

NIPPON EXPRESSホールディングス

1937年に日本通運(株)として設立。自動車輸送、船舶・航空利用輸送、鉄道利用輸送、倉庫、重量品・プラントの輸送・建設などの物流事業全般および関連事業を手がける。2022年にホールディング体制に移行し社名を変更。

田中 博之 氏
1986年 日本通運株式会社(当時)入社、2011年オランダ日本通運(株)営業開発部長 兼 航空貨物部長、
19年 執行役員 (海外事業統括部・グローバルフォワーディング企画部 ・グローバルロジスティクスソ
リューション部担当) 、21年 執行役員 南アジア・オセアニアブロック地域総括 兼 南アジア・オセアニア日
本通運(株)取締役社長を経て23年より現職。 

※2023年3月25日現在の情報です。最新情報は各機関に直接ご確認ください。

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