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私学5校 教育本音トーク【前編】~グローバル時代の海外生受け入れ~

帰国生を積極的に受け入れている私立学校の中から、今回は海城中学校高等学校・聖学院中学校高等学校・洗足学園中学高等学校・富士見丘中学高等学校・茗溪学園中学校高等学校の先生方にご参加頂き、 これからの海外在住子女受け入れについて語ってもらいました。

司会:シンガポールはアジアの国際教育ハブを目指しています。アジア の周辺各国から中等教育を受ける子供を多く集め当地で英語で教育し、 世界中の大学へ輩出するものです。グローバル化が進む中で、日本の教 育はどう進んだらよいのでしょうか。各学校での考え方、取り組み、帰 国子女受け入れ体制について議論したいと思います。

帰国子女受け入れについて

茗溪:30 年前に帰国生の受け入れを始めました。グローバル化の重要性 を問われる昨今になり、急に新しい見方をするのは難しいですが、従来 の考え方からどう脱却して、時代に即した新しい教育にシフトすること を模索しています。以前は帰国する際に、日本に戻った後の教育を重視 していました。また、親が海外にいる場合でも子供が日本で学ぶための「茗 溪は寮のある学校」と言うイメージでした。現在はインター校に行かせ る親が多くなり、海外での経験を子供のアドバンテージにしようと思う 傾向が強く、帰国後更にプラスになる学校を考えています。そのニーズ に応えられる教育インフラ、コースを模索中です。

茗溪学園中学校高等学校 校長 柴田 淳 氏

聖学院:帰国生受入れ校として名乗りを上げた理由は、英語圏の生活経 験をした子供の英語力保持向上を望む保護者が多数いると分かって、それなら「聖学院の教育力」としてやれると判断したからです。急速に進む グローバル化の中で、海外生活体験を持った生徒は貴重な存在であり、 世界の教育を受けてきた経験は、同世代の日本の生徒たちに刺激を与え る存在で、特に最近は日本の先行き不透明感が強まり、それを打破でき る一番近い存在が帰国生かもしれません。従って、更に積極的に受け入 れて行きたいと思います。

 

聖学院中学校高等学校 校務部長 平方 邦行 氏

富士見丘:私どもの学校は元来、生徒の個性に合わせた多様な進路の実現を目標としており、高2 からは自分の進路に応じて各自に時間割を作 らせています。ところが昨今国内生は同質な子供同士が小規模なグルー プでまとまりがちです。つまり異なる個性のぶつかり合いが乏しく、個 性を発揮し伸ばす機会に恵まれません。一方、帰国生は異質な人とも分け隔てなく話をする傾向が実に顕著です。帰国生は学校生活を構成する 上で大変貴重な存在です。

 

富士見丘中学高等学校 校長・日本私立中学高等学校連合会 会長 吉田 晋 氏

司会:受け入れたときのベクトルは2つ。ひとつは日本の社会に如何に 慣れさせるか?…いわゆる適応教育。もうひとつは海外で育成された経 験・個性を如何に保持・発展させるか?現在の日本の環境では後者はな かなか難しいですね。

 

聖学院:今も日本の中等教育は「大学受験のための学び」の構造であり、 国内で完結していた20世紀はその恩恵にあずかったエリートが多数いま したが、20 世紀型教育は社会の個人化を進め、自己否定感を持つ若者を 大量生産してきました。グローバルに持続可能な社会を考えて行く際に、 20 世紀型の教育では十分機能せず、21 世紀型の新しい教育が不可欠です。 それは、グローバルエリートやクリエイティブエリートの養成であり、 自己肯定感を持った若者を育てることです。21 世紀の「共に生きる社会」 は、自己肯定感を持った若者が満ちないと達成されません。聖学院の21 世紀型教育は、“only one for others” を達成する人材で、“only one for others” こそ聖学院が想い描いているグローバル人材です。これからの帰 国生受入れは、帰国生の望む2 つのベクトルの融合が教育の中で実践さ れる必要があります。

海城:10 年来取り組んできた“ 共生教育” を更に推し進め、建学の精神に 謳う「国家社会に有為な人材」を育てるために、今年から高校の募集を停止し、中学で30 名の海外帰国子弟を迎えています。グローバル化が進ん だ国際社会、価値観の多様化した日本の成熟社会では、これからの若者 たちには従来とは異なる新しい人間力と新しい学力が求められています。 特に異質な者たちとの共生を可能にする対話的コミュニケーション能力 と、互いの長所を引き出し合って創発を呼び起こすコラボレーション(協 働)の力が重要です。本校ではこれらの人間力を養うべく、これまでも PA(プロジェクトアドベンチャー)やDE(ドラマエデュケーション)といっ た二つの体験学習プログラムを導入して来ました。この春からは、海外 で貴重な生活・学習体験を積んできた帰国生を迎え入れ、相互に体験共有させることでグローバルかつ複眼的な視野を持った人間を育てていき たいと考えています。

海城中学校高等学校 教頭 中田 大成 氏

洗足:帰国受け入れは20 年前に始めました。本校があるエリアは、単に 帰国生を受け入れるだけでなく、外国で学んだ経験を活かせるような教 育システムのある学校に通わせたいというニーズが多数ありました。20 年前はちょうど学校改革を始めた年で、女性としての幸せをつかむ良妻賢母育成という古い発想から「社会に出て自分自身で考えられるような 教育」という流れに変わりつつありました。更に帰国生の積極的な考え 方や果敢な力を取り入れたいという学校の思いがエリアのニーズと一致 した時期でした。

 

その後20 年変化を重ね、現在は21 世紀型グローバルスタンダードな学 校教育を実施し、その中で帰国生教育をより充実させていくことを模索 している段階です。科目数を増やし、中長期的には国際水準に近い教育 にする目標を今持っています。その際に外国での経験を持った生徒は当 校の教育像に非常に近い存在です。例えば模擬国連は帰国生が中心で、 そこでは学術的な学力が求めらます。自分が日本以外の国を代表するの で、カンボジア代表として行くのならカンボジアに関して十分調べた上 で、議論をカンボジアに有利なように引き出す交渉力が必要です。大学 を卒業した後に社会で活躍できる力が不可欠で受験勉強に特化せず、その先を目指した複眼的な学力構成が学校に求められています。

洗足学園中学高等学校 広報委員長 玉木 大輔氏

富士見丘:私学の帰国子女受け入れは30 年の実績があります。一人ひと りの帰国生は実に貴重な体験をしています。中でも、日本の比較対象と しての異文化を若い時代に肌で知っていることは、日本の将来を考える と重要です。 また視点を今に限っても、帰国生は国内生と比べて家族の時間の大切 さを良く知っています。家族旅行の経験も多い。子供の勉強も父母で見 るし、家族が一つになって過ごす素晴らしさを知っています。日本では 子供が帰ってきても家に誰もいなかったり、家族が揃っても会話も少な い。そう考えると帰国生が持つ良いところは、本来、日本の生徒が持っ ていた良いところであり、そこを活かしたいと切に願っています。

 

 

グローバル化と教育

富士見丘:21 世紀はグローバル化の時代です。この動きに我が国が乗り 遅れているという感は否めません。それは、多種多様な人々と共同して 仕事をしていく基礎トレーニングが日本の教育には欠けているからです。 つまり日本の学校は未だ20 世紀以前の状態にまどろんでいるのです。我 が国で特殊進化を遂げた「受験英語」を見ると、ネイティブが首をかしげ てしまうような英文が、入試問題として幅をきかせています。日本の学校や塾では、このような英文を読み解く訓練が英語教育の中心です。こ れではグローバル化の前提となる「英語での意思疎通」は難しく。この受験英語をまず解体することが必要なのです。

司会は後藤 敏夫 氏(World Creative Educations 代表、左から3番目)が務めた

司会:実際、東大を頂点とする上の大学に入れば満足という考えが残っています。駐在員のお父さんは学歴競争で比較的勝ち組の人が多く、成功体験があるのでその発想は残りますね。

 

聖学院:20 世紀の教育は完全に国内完結型で東大を頂点にするピラミッ ドになり、一部の上位の生徒は良いが、それ以外の生徒たちは「僕はだめだ」と否定的に思わせる負の側面を持っていました。しかし、「共に生きる社会( 共生型)」という21 世紀社会では、自己否定型ではやっていけ ないので、自己肯定感を持たせるような教育が必要です。きちんとした 受け入れ態勢さえ作れば、帰国生が一つの突破口になれましょう。

茗溪:21 世紀型の教育は、ただ単に知識量がある、つまりテストで点数を稼げるというだけではだめで、思考力や創造性に富んだ人材を育成す る教育だと思います。そのような状況を知っているのに、学校選びで偏 差値や大学進学実績を重視する傾向は、依然として根強く残っています。 親の意識が追いついていないと言える点です。 学校説明会にやってきて、学校の教育内容を把握したうえで受験校を決 めているようにも見えますが、やはりまだ、大学進学の方に優先順位を 置いているように感じるということです。中学高校時代にわが子にどん な経験をさせたいのか、自分の未来を切り開いていく力をこの時期の体 験から育てようという考えがもっと広く深く浸透して欲しいと思ってい ます。 【続く】

※本文は2012年1月20日現在の情報です。

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