特集記事
早稲田大学と海外大学の「国際セミナーin シンガポール」

アジア7カ国の大学生たちによる共同プレゼンテーション

去る2月中旬、当地のリージョナルランゲージセンターにて第9回早稲田大学および環太平洋応用言語学会共催のセミナーが開催されました。同セミナーでは、アジア7ヵ国10大学の学生41名(うち12名が早稲田大学生)と教員13名が一同に会し、5日間にわたり共通テーマに取り組み、交流を深めました。
セミナーの様子と、参加大学が共同開講している遠隔共同授業を取材しました。

遠隔共同授業 「World Englishes and Miscommunications」

この授業は早稲田大学を含むアジアの16大学が参加する遠隔共同授業で、テレビ会議システムを利用し、海外の大学教員や学生と意見交換を行いながら世界の英語について学ぶ「サイバーゼミ」です。共通の教材として各大学の教員によるオンデマンド講義を事前に個別受講した上で授業に臨みます。半期に5回海外大学と接続し、学生が提案するトピックについて英語で討論を行います。

◇オンデマンド講義とは?

パソコンで受講する講義。学生は大学のポータルサイトにログインし、テキストや画像、動画、音声などを組み合わせて構成された講義(コンテンツ)を事前に受講する。その後、授業のために用意された電子掲示板システムを使って、教員や学生と質疑応答やディスカッションを行う。スマートフォン向けアプリケーションをダウンロードし、講義を聞くことも可能。

早稲田大学と海外大学の「国際セミナーin シンガポール」

App Store で無料ダウンロードし、アジア各国の大学教員の講義を聞くことができる。

早稲田大学と海外大学の「国際セミナーin シンガポール」

◎特徴

■ 学部の垣根を超えた学び
全学部の学生が履修することのできる科目として「グローバルエデュケーションセンター」が開講。政治経済学部、文学部、人間科学部などさまざまな学部から参加。

■ 反転授業形式
事前にオンデマンド講義を個別に受講し、知識を習得。実際の授業では発表や質疑応答を行い、論理的思考力を養成。

■ 異文化交流とプレゼンテーションが主軸
授業実施時間の調整が可能な時差の少ない地域の海外協定校と英語で協働。

■ 産学連携
1999年に発足した産学協同体「デジタルキャンパスコンソーシアム(DCC)」がサイバーゼミの開発、異文化交流の拡大、次世代eラーニングシステムの開発などを推進。協賛企業22社と共同で取り組む。

早稲田大学と海外大学の「国際セミナーin シンガポール」 共同授業にて。海外大学と遠隔交流中。

国際セミナー in シンガポール

開講期間中にオンライン上で学習・交流した各国の学生たちは、科目終了後の2月、授業総括の場である合宿セミナーに参加し、初対面しました。セミナーは地理的な集まりやすさと、治安の良さ、環境面での充実などを理由にシンガポールで開催されました。

「シンガポールセミナーに寄せて」

早稲田大学 遠隔教育センター所長
大学総合研究センター副所長
CCDL研究所所長
教育・総合科学学術院教授 応用言語学博士

中野 美知子 先生

2050年には世界の人口の半分が英語を話すと言われており、今後ますます多種多様な英語が受け入れられるようになるでしょう。英語はイギリス、アメリカといった国だけでなく、インドやシンガポール、フィリピンなどの国でも話されています。その国の歴史、文化、政治経済の影響を色濃く受けて、独自の発展を遂げながら世界中の国と地域で固有の英語が育まれてきました。

今日では「World Englishes」という考え方のもと、英語の多様性が認められるようになりつつあります。地域固有の英語のアクセントは、その地域では標準のアクセントなのです。グローバル時代においては「地球市民」として、世界で話されている様々な英語を理解する責務があります。

遠隔教育講座とセミナーを通して、学生にアジア各国の色々な英語に慣れてほしいと思います。そしてその英語の裏にある歴史や文化も学ぶことで異文化の理解を深め、その上で英語力、表現力、討論力を身に着けてほしいと思います。世界のどこにいても 相手を説得できる人間、問題点に自分で気づき仲間と共に解決出来るような人間に成長してくれるよう、願ってやみません。

 

「学生の皆さんへのメッセージ」

マラヤ大学 人文学・社会倫理学研究群部長
言語・言語学部英語科教授
Azirah Hashim 先生

長年にわたり、このセミナーでアジアの学生が共に学ぶ姿を見守り、指導してきました。近年、英語はますます共通言語としてアジアで重要視されるようになり、学生たちの英語力は出身国を問わず向上していると思います。日本の学生たちの進歩も素晴らしく、様々な背景を持つアジアの多彩な英語に触れ、一緒に課題に取り組んだ成果は、今後ますます大きな意味を持つことになるでしょう。

でもコミュニケーションが取れ、自分らしく活躍できる能力は不可欠と言えます。国際交流や海外移動は学術やビジネスで必須となりました。今こそ世界中の様々なコミュニティーを経験し、違いや新しいアプローチを学ぶことが求められているのです。

準備を重ねて迎えたプレゼンテーションの本番。各グループがチームとなり、ロールプレイやYouTubeなども取り入れて順位を競い合った。

セミナー概要

各グループは特定の国籍に偏らないよう5名で構成
・ 各国の教員による講演およびグループ討論
・ 教員の指導の元、グループ別プレゼンテーションの作成
・ セミナーの集大成としてプレゼンテーション・コンペティション
と表彰式

【共通テーマ】
「Does the worldview in World Englishes conflict with the notion ofGlobal Human resources at the age of global economy?」(「World Englishes」と「グローバル人材」は対立し、衝突するものだろうか。)

講演内容(一部):
「グローバル言語としての英語:アジアにおける国際高等教育の傾向と課題」
「国語、地域語、国際語としての英語:マレーシアの将来」
「中国人の英語」「World Englishesの進化動態」ほか、計12講演

参加学生の声

早稲田大学と海外大学の「国際セミナーin シンガポール」

日出 千恵子 さん
早稲田大学政治経済学部4年
英語学習歴:日本での学習のみ。
大学入学後、様々な英語科目(web /テレビ会議を利用)を履修、高麗大学との合同コンペティションなどへも参加。

以前は、英語と言えばアメリカ英語やイギリス英語であり、それを目指すべきだと漠然と思っていました。各地の英語の特徴を学ぶうちに、自分の中にあった英語のイメージが大きく変わり、とても新鮮でした。
初めてセミナーに参加した時は、フィリピンの学生など英語を第一言語として育ってきた人たちの中で、ほとんど意見が言えませんでした。しかし経験を重ね、3回目の今年はついに優勝することが出来ました。他のグループの発表を見て学び、自分が言いたいことをただ伝える一方通行のプレゼンではなく、「聴衆と交流のあるプレゼン」「飽きさせないプレゼン」を目指したからだと思います。
試行錯誤をして自分で工夫しながら英語を習得した経験は、今後世界の人と交流する上でも役立つと思います。

城田 剛 さん
早稲田大学商学部2年
英語学習歴:日本での学習のみ。大学入学後、授業や長期休暇中の短期留学、留学生との国際交流サークルなどで会話力をつける。

去年12月に「日ASEAN学生会議」に参加しましたが、その時のプレゼンテーションは原稿を読むだけで終わってしまいました。もっと発表を改良してしっかりやりたいと強く思ったのがこのセミナーに参加した理由です。
日本の学生と他国の学生を比べると、英語の実力自体よりも 、伝えようとする姿勢の差が大きいと思いました。プレゼンテーションでは原稿をただ読むのではなく、ジェスチャーを取り入れ聴衆を楽しませるよう心がけました。
将来は海外で働いて、国を問わず色々な人と直接関わるのが夢です。

大冨 まりあ さん
早稲田大学人間科学部1年
英語学習歴:日本で中学時代を過ごした後、早稲田渋谷シンガポール校で学ぶ。

24時間英語漬けでとても楽しかったです。英語が難しくテーマによっては理解するのが大変でしたが、とても刺激になりました。途中意見の食い違いもあり苦労しましたが、最後には団結し皆で納得のいくプレゼンテーションを作ることができました。
海外の学生のやる気はすごく、質問も積極的でした。この刺激を糧に、私も努力していきたいと思います。

Jaeseung Kong さん
高麗大学4年 ビジネス専攻
英語学習歴:14歳からカナダに2年間留学。帰国後外国語高校※2で中国語を専攻。大学では授業の半分を英語で学ぶ。

※2 外国語高校:韓国の特殊目的校の一つ。芸術高校・科学高校・外国語高校などがある。英才教育が行われ、多数が名門大学に合格。

英文学の先生にこのコースをすすめられ参加しました。マレー英語や台湾英語など、英語はバラエティに富み各地域の文化を内包していることにとても興味を持ちました。新しい友人もできました。
プレゼンテーションでは、「多国籍のスタッフが働く職場では、将来的にさまざまな英語があるという考えは支持されていくはずだ」と主張しました。P&G、 Google、投資銀行などのグローバル企業は、世界中の大学生の採用に積極的で今後さらに多様な人材を採用していくと思います。多様性はビジネスの障壁になるのではなく、企業の「強み」になっていくと発表しました。

卒業後はインターンを経験したコンサルティング会社で働きたいと
思っています。

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