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日本の教育関係者がシンガポールの教育現場を視察 研修テーマ「世界基準の教育を目指して」

~日本はアジアの覇者になれるか~

今年で50周年を迎えた一般財団法人日本私学教育研究所の私立学校専門研修会・国際教育研究部会の先生方41名が、シンガポールの学校を視察に訪れました。この研究部会は、グローバル化が進む中で世界基準の教育と日本の教育内容について問題提起をし、教育の質向上を図るための研究を重ねています。

日本の教育関係者がシンガポールの教育現場を視察

研修は3 時間に及びました。「シンガポールの教育事情」「シンガポールでのIB 教育」 や「日本の今後の課題」ついてWorld Creative Education Group CEO /オービッ トアカデミックセンター代表 後藤敏夫氏によるレクチャーがおこなわれました。

今回シンガポールを視察するに至った背景には、アジア諸国が目覚ましい発展を遂げる中で、特にシンガポールの経済成長は著しく、国家戦略として優れた人材を育成し、教育においてもアジアのハブを目指している点があげられます。

日本ではグローバル人材育成に向けた提言を受け、2018年までに国際バカロレア(IB)認定校 を200校導入という大きな目標が掲げられ、2015年からは日本語IBの導入も決定されました。

研究部会の先生方は、世界で一番進んでいると言われるシンガポールの教育現場を視察するだけでなく、企業の方や塾関係者の方との意見交換会もおこないました。

日本私立中学高等学校連合会会長  富士見丘中学高等学校理事長・校長 吉田 晋 先生

日本の教育関係者がシンガポールの教育現場を視察

シンガポールを訪れるたびに驚くことは、街が絶えず変化していることです。 「 A rollingstone gathers no moss(転石苔むさず)」という諺が思い浮かびました。  今回の私達のミッションの目的は、日本の私立中高関係者41名が、シンガポールの教育事情、特にIB教育について、学校訪問を通じて見聞を深め、日本での可能性を探るということでした。シンガポールでは、3校のIB教育実施校を見学させていただきました。それぞれの学校が特色を持ち、日本の学校に比べれば大規模であるにも関わらず、システム化され、きめ細かい教育指導が行われていることを実感しました。

ただ、少し気になるのは、「転石苔むさず」の諺にも二つの意味があるように、転がりながらも、立ち止まる余裕が教育の中には必要ではないかということです。

京都の苔寺(西芳寺)の風情も捨て難いと、ふと思いながら、シンガポールを後にしました。


日本の教育関係者がシンガポールの教育現場を視察

市川中学校高等学校 副校長 及川 秀二 先生

本校では「品格あるグローバルリーダー育成」を念頭に教育活動を行っています。リーダーに必要な素養は「学力」「人間力」「科学力」「国際力」を基盤とする「リベラルアーツ」です。今回視察した各校が実践している揺るぎない学力と深い教養の涵養、そしてCAS(創造・行動・奉仕教育)に感銘を受けました。まさしくノブレス・オブリージュ(高貴な者に課せられた義務)の体現であり、未来を担う紳士・淑女を丁寧に育んでいました。今、我が国は「国際化」に向けて大きく歩を進めています。国際化という言葉が意味を成さぬほど定着しているシンガポールの教育は、我々に多くの示唆を与えてくれました。

聖光学院中学校高等学校 教頭 飯岡 幸雄 先生

ここ数年日本ではグローバル化という言葉を聞かない日はないくらいですが、グローバル化すなわち英語力のような印象を与え、実態を伴わないものになっています。その点、シンガポールは多民族国家で国際バカロレア(以下IB)のプログラムが効果的に実行できる土壌を持っていると感じます。今回の研修で視察をした学校はどこも教育理念を大切にして教育活動をしており、生徒もIBの過密な学習プログラムにもかかわらず、積極的に勉強している様子でした。ただ一つ気になったのは競争の激しさです。「競争」という言葉が死語になってしまったような日本の状態も困りますが、若い力がいつでも復活できるような社会になれば、シンガポールももっと活気のある国になるのではないでしょうか。

同志社中学校 教頭 園田 毅 先生

今回、視察した3校(TTS , UWCSEA , ACS Independent)の教育理念に衝撃を受けました。どの学校も、主体的に生きる人をどう育てていくかという視点を強く持っておられました。日本人の在校生(高校生)が、「日本の学校の授業は覚えることが多くて、今は考えることが多い。」と発言されたことが印象的でした。世界は私の認識の枠を超えて進んでいて、日本は教育を変えていかなければならないと痛感しました。  本校は全教科の教科教室制を採っており、日本の中では個性的な学校だと思いますが、もっと世界、社会につながる教育を作っていくよう努力していこうと思いました。日本では私学にこそその役割が与えられていると思います。

編集部より

「このままではいけない」という危機感や、「日本の教育を向上させたい」という先生方の熱い思いが伝わってくる視察でした。訪問校の廊下や教室の細かな掲示も熱心にご覧になったり、たくさん質問されたりと、当初の予定時間を超えて視察が続けられました。

参加校は北海道から鹿児島の学校までと、まさに全国各地から来星され、その数も予想よりとても多かったそうです。日本の教育改革に対する先生方の問題意識はとても高いと強く思いました。

日本の教育関係者がシンガポールの教育現場を視察 参加された41名の先生方
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