グローバル教育
サントリーホールディングス執行役員 兼 ビームサントリー エマージング アジア統括 小泉 敦 氏

非常によく勉強し、世界各国でキャリアを積んできた優秀なスタッフが集まっています。

彼らのハングリー精神にはいつも驚かされます。世界で伍していくためには、自分の道を極めてプロフェッショナルとして認められるように、しっかり学びながらキャリアを積み重ねていくことが大切です。

グローバル時代を迎えた今、企業が求める人材、教育とは何でしょうか。
企業の方からお話をうかがいました。

Q. 御社の紹介をお願いします。

ビームサントリーは、2014年に日本のサントリーホールディングスが、米国に本社を置く世界No.1のバーボンブランド「ジムビーム」を保有するビーム社を買収して、完全統合という形で設立されました。統合により、世界第3位のスピリッツ(蒸溜酒)を製造販売する会社となりました。当社は世界5大ウイスキー※全てを持っている唯一の会社で、販売網についてもほぼ世界中にネットワークを構築しています。買収したのはサントリー側ですが、グローバルな経営についてはビーム社の米国シカゴ本社が担うことになりましたので、当社の本社は日本ではなくシカゴになります。サントリーのグローバル化という意味では、非常に大きな転換点でした。
※世界5大ウイスキー:日本、アメリカ、スコットランド、カナダ、アイルランドが、世界的な ウイスキー生産地として知られており、それを総称して「世界5大ウイスキー」と呼ばれる。

サントリーは、1899年に鳥井信治郎が創業以来「やってみなはれ」精神と呼ばれる常に新たなことに挑戦する心で、ゼロから新しい価値や文化を創り出すことに挑戦してきた会社です。

一方、ビーム社がウイスキーを初めて生産したのは、サントリーより一世紀早い1795年でした。数世紀にわたる歴史の中でブランドを守り続けてきたビーム社では、次々と新しいものを創り出すことよりも、伝統あるこのブランドをしっかり守り、その良さをいかに多くの人々に知ってもらい、広い世界にいかに届けていくか、ということに注力してきました。

サントリーとビームサントリーは同じグループ会社ながら、企業文化の違いだけでなく、商習慣などの違いも顕著です。例えば日本では「売上を伸ばす」ということが重要な課題ですが、世界では売上げはさることながら「しっかり利益を出す」ということが重視されます。またグローバル・カントリーリスクが多いため、「リスク」に対する厳しさについても非常に敏感に、あらゆるリスクを回避する努力がなされていることに感心しました。異なる2つの企業文化・ビジネスマインドを持った2社が統合し、世界各地から多様で優秀な人材が集まり、互いに良いところを学び合いながら、当社は今も「世界最速で成長する」スピリッツメーカーになることを目指しています。

サントリーホールディングス執行役員 兼 ビームサントリー エマージング アジア統括 小泉 敦 氏

Q. アジア地域でのビジネス展開についてお聞かせください。

アジアでは、「お酒は食事をしながら飲む」というのが一般的です。日本でも、サントリーがウイスキーをソーダで割って飲む「ハイボール」を打ち出したのは、食事をしながらウイスキーを飲むスタイルを模索した結果でした。近年は、やはり求められるアルコールの度数が一般に低くなっていますし、居酒屋などで若い人が食べながら楽しく気軽にアルコールを飲む機会が増えています。サントリーでは、従来から食事とともに好まれてきたビールやチューハイなどに加えて、ウイスキーも選択肢に入れてもらうために、「ジョッキでハイボールを飲む」という新しいスタイルを提案しました。これが日本では非常にうまくヒットし、幅広い年齢層に親しまれるようになりました。

シンガポールや他のアジアの国ではビールやローカルスピリッツが多く、インターナショナルスピリッツ、特にウイスキーはまだそれ程一般的ではありません。例えば韓国では焼酎、中国では白酒など、現在もそれぞれの国の蒸溜酒がメインなのです。「アジアの人たちに我々のウイスキーを飲んでもらうにはどうすれば良いか」と考えた時に、やはり日本と同様に、「食事と相性が良いハイボールを、食中酒として飲んでいただこう」という考えに至りました。実際、このアプローチでアジア各国でも売上が大きく伸びています。

長期的に定着させていくには、「お酒」という物を売るだけではなく、お酒を通してそれぞれの国の文化に合った形の飲食のスタイルを提案し、「新しい文化を創り出していくこと」を大切にしています。

Q. 日米の会社では人事制度も異なるのでしょうか。

ビームサントリーはすでにグローバルな企業ですので、人事制度も世界標準と言えるでしょう。基本的に新卒採用は行っておらず、どのポジションでも即戦力になるプロフェッショナルを求めて世界中から募集しています。このため、それぞれの分野で非常に優秀な人材が各国から集まっています。新卒で採用して、さまざまな部門を経験させながら人材を育てていく日本の方式とはかなり異なると思います。

現在シンガポールの当社には17ヵ国の国籍のスタッフが80人程度おり、その内日本人は、ほんの数人です。今後は更に多様化が進むことと思います。

Q. 多様な人材の管理でご苦労されている点はありますか。

これだけ多様で優秀なスタッフを率いていく上では、基本的に仕事は各自に「任せる」という方針が肝要です。各スタッフは、それぞれの分野では私より専門性が高い人も多いですし、経験も豊富です。その上できちんとコミュニケーションをとって状況を把握することを心がけています。

優秀で向上心が強いスタッフは、次のステップアップを目指して転職していってしまう可能性が常にあります。それを防ぐためにも、社員のやり甲斐や満足度、仕事への愛着や貢献心などの「エンゲージメント」についてはきちんと調査分析して、社員の声に対してフィードバックするようにしています。

また上司の評価システムも導入されており、メンバー、同僚からのフィードバックを定期的に受け、自分のマネージメントの強み、弱みを定量的に把握し、改善していくようにプログラムが組み込まれています。

このように日本の人事制度とは異なる面が多々ありますが、どちらが良い・悪いということはなく、これからグローバルに働きたい人は理解しておくと良いでしょう。

Q. 世界で活躍していくために、必要なスキルとは何でしょうか。

当社の社員は、非常によく勉強して世界各国でキャリアを積んできた人が多く、彼らのハングリー精神にはいつも驚かされます。日本人の皆さんも、将来はこのような人たちと世界で伍していくことになるでしょう。そのためには、まずは「何がやりたいのか」「自分の強み」を知ることが大切だと感じます。そして自分がやりたいと思った道をしっかり極め、プロフェッショナルとしてどこでも認められることを目標にしてキャリアを積んでいただきたいと思います。

高度な英語力はやはり必要です。私自身は日本で教育を受け、仕事でも全く海外経験がないまま、50歳を過ぎて突然米国企業と仕事をすることになりました。時には英語で500ページもの資料を読まねばならず、当初は会議の話し合いに全くついていけずに非常に苦労しました。

その後、更に55歳でシンガポールに初の海外赴任となり、まさに55歳から真のグローバルビジネスをシンガポールで経験することになりました。

ここシンガポールのオフィスには、英語が母国語ではないスタッフが多くおりますが、誰もが英語圏出身者と遜色のない英語力を備えています。グローバルで活躍するためには何より英語は絶対不可欠な条件なのです。オフィスには日本人は数名しかおりませんし、日本人同士で話す際も周囲に留意して英語で話すよう心がけています。

Q. 海外で暮らすご家族へのメッセージ

お子さんを育てるにあたっては、「一人でなんとか生き抜いていけるような子に育てる」ことが一番重要かと思います。そのためにまず「自分が何をやりたいのか」「苦労してでも頑張って極めたい」、そんな情熱を傾けられる分野を見つけられるように、保護者の皆さまにはサポートしてほしいと思います。

親の立場からは、「親」という漢字が「木に立って見る」と書くように、少し高い所から見つつ、お子さん自身が「自分が決めたから、自分の力で頑張る」という経験を積めるように導いていただきたいと思います。

子ども時代や、多感な思春期に長期にわたり海外で生活することには、大きなアドバンテージがあるように感じます。語学力はもちろん、さまざまな人と交わることで「こんな世界もあるんだ」といった刺激を受ける機会に満ち溢れています。日本では、大学受験で浪人することや、留年や就職浪人することが大きな失敗や回り道かのように思われがちです。しかし世界では、若者たちが平気で1年休んで世界を旅したり、ゆっくり次のステップを考えたりして過ごすことが当たり前に見られます。目先のわかりやすい指標ばかりに振り回されず、長期的な広い視野で、お子さんの成長を考えて見守っていただきたいと思います。

会社概要

ビームサントリー

サントリーホールディングスのグループ会社で、米国イリノイ州に本拠を置き、ウイスキー、テキーラ、ウォッカ、ジン、コニャック、ラム酒などを生産、販売している。世界のプレミアムスピリッツを牽引するリーダーとして、同社製品を通して人と人との繋がりを深めている。

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