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アートとの出会い 陶芸家 イスカンダル・ジャリル 氏「謙虚に誠意を込めて取り組む態度を、 心の土台に」

2020.03.25

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~アートとの出会い~ 特別インタビュー
「謙虚に誠意を込めて取り組む態度を、心の土台に」
陶芸家 イスカンダル・ジャリル 氏

シンガポール人として日本で陶芸を学び、世界的な陶芸家として数々の傑作を世に生み出してきたイスカンダル・ジャリル氏。これまで日本では外務大臣表彰受賞や旭日小綬章受賞、シンガポールでは文化勲章にあたるCultural Medallion賞なども受賞されています。2016年には「日本シンガポール国交樹立50周年」記念切手にイスカンダル氏の作品が登用されました。
今回Springでは、イスカンダル氏に幼少期から今日に至るまでの思いをお聞きしました。

~アートとの出会い~陶芸家 イスカンダル・ジャリル 氏「謙虚に誠意を込めて取り組む態度を、 心の土台に」

私はマレー系のシンガポール人ですが、「中身は日本人のようだ」とよく言われます。「日本で陶芸を学んだ陶芸家」として知られていますが、陶芸だけでなく、言語や文化を深く学ぶ中で、日本人が自然界や周囲の人に対して謙虚に敬意を払う態度に強く共感するようになりました。日本の伝統職人のように、あらゆることに丁寧に誠意を込めて取り組む態度こそ、どんな道を極めるにも必要な心の土台だと疑いません。これからも陶芸や後進の指導を通して、日本で学んだ美意識や価値観について、心を込めて伝えていきたいと考えています。

陶芸家への道

私は4人兄弟の長男として育ちました。家庭はとても貧しかったため、大学進学は諦め、働きながら教員養成学校(Teachers’ Training College)に進みました。学校では文学への造詣を深め、これは私の自己形成にも深く影響しました。後に三島由紀夫や川端康成などを愛読したことは、日本文化の理解にも大いに役に立ち、今でも陶芸の作品に古典文学から引用した作品名をつけたりしています。

中学校の理数科の教師だった私は、1972年、コロンボ計画※の奨学金を得て岐阜県多治見市に赴き、日本全国から来ている研修生に混じり、陶芸を基礎から学びました。毎朝5時半に起きて誰よりも早く研究所に着き、そして夜は誰よりも遅くまで残って先生に課された課題に取り組んだものです。陶芸には科学の知識が必要です。焼き窯の温度の変化、土や釉薬の化学的構成、窯の中の酸素の濃度によって作品の肌ざわりや仕上がりの色や光沢が変わってくるからです。理数科教師だった私には、陶芸に必要な理論は容易に理解することができたので、実験を重ねながら作品の幅を広げていきました。

「芸術」とは何か

「芸術」というと、「思いつきの発想を自由に表現する」という安易なイメージがあるかもしれません。しかし自由な発想や創造性とは、基本をしっかり身につけ、幅広い知識や文化的な素養が備わってこそ発揮されるものであり、そうして初めて人の心を動かす作品ができるのです。

私は陶芸の技法だけでなく、日本の文化を学び、「わび・さび」や「渋い」といった日本人独特の美意識を理解したことで独自の創造性を発揮するようになりました。また、作品によってはマレー系イスラム教徒としての魂も宿っています。他にも、「イスカンダル・ブルー」と名付けられた独特の青色は、ストックホルムで個展を開いた際に、北欧の青い空と海に囲まれて1ヵ月過ごした中で、初めて生まれた色なのです。

~アートとの出会い~陶芸家 イスカンダル・ジャリル 氏「謙虚に誠意を込めて取り組む態度を、 心の土台に」

「イスカンダル・ブルー」の青色が特徴の作品「Listening to the Waves」(2018年)

~アートとの出会い~陶芸家 イスカンダル・ジャリル 氏「謙虚に誠意を込めて取り組む態度を、 心の土台に」

「日本シンガポール国交樹立50周年」記念切手。左上の切手がジャリル氏の作品

海外で暮らすご家族へのメッセージ

日本留学から40年以上経ちますが、これまで毎年シンガポールの生徒たちを連れて日本へ行っています。生徒たちには、観光地を巡るのではなく「人が行かない道を行ってみなさい」とすすめています。陶芸だけでなく、人々の暮らし、町並みや建築、特産物など、その土地の文化全てを吸収することこそが成長する機会だからです。海外に住む皆さんにも、日本の素晴らしい文化を受け継ぎつつ、同時に新しい世界にも触れて感性を磨き、自分の頭で考える経験を積んでいただきたいと思います。そうすれば、きっと予想もできない未来の世界でも、地に足をしっかりつけて成長していけるに違いありません。

~アートとの出会い~陶芸家 イスカンダル・ジャリル 氏「謙虚に誠意を込めて取り組む態度を、 心の土台に」

2015年6月 旭日小綬章受賞式にて。当時の竹内春久元駐シンガポール特命全権大使とともに。

※コロンボ計画…….南アジアや東南アジア地域の経済開発を推進することを目的とする経済協力機構。1950年コロンボで開かれた英連邦外相会議で提唱され、翌年発足。日本は54(昭和29)年加盟。

イスカンダル・ジャリル氏

1940年シンガポール生まれ。

62年教員養成学校卒業後、理数科教師を経て、72年にコロンボ奨学生として岐阜県多治見市へ留学。

帰国後は高等専門学校で教鞭をとる傍ら陶芸家として活躍。

以後シンガポール、マレーシア、台湾、香港、日本、スウェーデン、ブルネイ、ニュージーランドなどで展覧会を開催。

88年Cultural Medallion賞、2012年National Day Award(The Public Service Star )を受賞。

14年に日・シンガポール間の交流促進などに対する貢献を踏まえ外務大臣表彰受賞。

翌15年には旭日小綬章を授与される。

 

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