世界型人材の育成を目指して
はじめに
私は、物心ついた時から漠然とですが、教師への憧れがありました。母親も戦時中に日本の統治下にあった台湾で教師をしていましたので、日本が敗戦から復興に向かう過程で、教育がいかに重要であるかを諭され、目上の人を敬う、挨拶はきちんとする、嘘はつかないなど、人としての生き方のベースを筋を通して教えてくれていました。幼少期は親や教師の教えが心にしみその背中が非常に大きく見える時期ですから、自然と母親の教育観や道徳観などの影響を受け、教師を目指したのです。教師生活45年を迎えた今、改めて「人を育てる」という職業は大変尊い仕事であると感じています。
ネット社会の進展とともにグローバリゼーションが加速の一途をたどる中で、自国第一主義や特定集団への誹謗中傷、人種差別など国家や集団の動きが、コロナ禍を通して世界各国であぶり出されてきたように感じます。環境問題や感染症など、世界規模の危機を各国が連携して解決しなければならない時代だからこそ、この傾向を非常に危惧しています。これは個人においても同様で、コロナ禍において経済的に困難な状況ではありますが、支援金詐欺や大規模窃盗事件など「相手を尊重しない」個人の行動に大変心を痛めています。人類が長い歴史を通して築いてきた大切なことが崩壊するような、強い危機感を持っています。耐えがたい困難や逆境の中にあっても「相手の立場を尊重し正しい行動をとる」、「逆境の中でも自分の志や夢を実現させる」、このような精神を育む「人間教育」が今ほど必要不可欠な時代はないと考えます。
このような時代だからこそ、中高の多感な時期に「人格教育」をしっかり行うことが大切ではないでしょうか。本校は、ウィズコロナ・アフターコロナの時代でも生徒一人ひとりが未来を確実に切り拓いていくために、「心力」「学力」「体力」の三位一体の教育による「世界型人材の育成」に日々取り組んでいます。
今こそ「心の教育」を
本校では、開校当時から「心の教育」を大切にしてきました。その礎となっているのは「道徳」の授業です。新学習指導要領では、昨年度から「特別の教科道徳」として実施していますが、本校では1987年の中等部開設時から「心の教育の土台」と位置づけており、特色とも言える教育の軸になっています。具体的には、通常授業より大幅に長い70分間の道徳の授業を、年間で25回かけて行っています。
「道徳」の授業では、テーマについて深く考える習慣や、グループディスカッションと発表を重んじています。一つのテーマを時間をかけてじっくり考える機会を与え、授業後には生徒が自分の意見をノートに書き提出します。それに対して教師は一人ひとりにプラス思考のコメントを書いて返却します。こうした心のキャッチボールが、生徒の行動様式に良い影響を与え道徳的な行動が取れるようになっていきます。現代の教育は、このような心の力を育む教育の柱が脆弱になってきていると感じます。そのため、人が見ていないから何をしても良い、といった身勝手な行動に抵抗がない若者が多いように感じています。人が見ていないからこそより誠を尽くす、という「品格ある生き方」ができるようになるためにも、道徳は一番大事な教科だと思います。
なぜそこまで「道徳」を重要視しているかと言えば、「心の教育」は生きる上で全ての基盤となっているからです。皆さんは、永山則夫死刑囚の『無知の涙』という本をご存知でしょうか。連続射殺魔事件として死刑執行までの間に獄中で自己と対峙した手記です。それを読むと、いかに環境が人を育てるか、ということをしみじみ感じます。ここでいう環境とは、いかに豊かで恵まれているかではありません。周りに理解してくれる親がいるか、良い友だちがいるか、悪いことはだめだよ、と叱ってくれる大人がいるか、学びの場がきちんとあるかなどを示します。そのような環境があるか否かは、人格形成に大きく影響するからです。
人生にはさまざまな困難が待ち受けています。特にコロナ禍で先が見通せず、悩み苦しんでいる人も多いと思います。本校ではどのような逆境にあっても、ブレない自分を貫けるタフなメンタルを養うよう、「心の教育」にじっくり時間をかけて取り組んでいます。
「初志貫徹」で多数の医学部合格を実現
医師で細菌学者の野口英世は会津の貧しい農家に生まれ、幼い時に左手に大やけどを負い16歳の時に手術を受けました。その過程で医学の力に感銘を受け、自らも医師の道を志しました。この有名な話は、皆さんもご存知でしょう。医師の道を目指し19歳で上京する際に「志を得ざれば再び此の地を踏まず」と家の床柱に刻んだと言われており、困難を克服し志を貫くことができた背景には「初志貫徹」という不朽の精神があることが伺えます。「初志貫徹」は、本校の中学一年生が入学後初めて聴く「校長講話」のテーマであり、コロナ禍にある今年度の本校スローガンでもあります。
本校では、中学入学の時点で3つのコース(東大、医科、難関大)に分かれます。中でも「医科コース」は27年の歴史と実績があり、将来、医師になることを目標としている志高い生徒が切磋琢磨しながら学んでいます。当コースの生徒は、まさに「初志貫徹」の精神で医師になるという志を曲げず、ほぼ 100%達成しているのが大きな特色です。近年どの大学の医学部も小論文と面接を課しています。医師に求められる資質は、豊富な知識、つまりテストで高得点を取れるだけではなく、むしろ人間力やコミュニケーション力こそが大切です。そのため、本校では独自の教育プログラムによる指導で、学力だけでなく「人間性」にも注力した指導を行い、年々難化する医学部受験において確実な実績を上げています。在校中に現役医師の講話や病院見学、大学医学部の高大連携講座の機会が多数あることは他校にはない大きな魅力だと、卒業生もその成果を称賛しているほどです。こうして多くの卒業生が医師として、日本だけでなく世界でも素晴らしい活躍をしているのです。
医療の現場でも国際化が進む昨今、国際社会でも活躍する医師となるために、世界最先端の医療が行われているアメリカの医療現場を訪れる「アメリカメディカルツアー(医療系海外研修)」を2019年に開始しました。世界の大学ランキングでも上位のカリフォルニア大学サンディエゴ校で研修を行い、医療分野における「世界型人材」の育成も進めています。
生徒の夢は学校の目標
本校は、今年度創立43年目を迎えました。人は夢や志があれば、例え逆境であってもそれをバネに大きく成長することができますから、本校ではさまざまな教育改革を行い、夢と大志を抱いて努力する生徒たちを全力で応援しています。本校独自の取り組みを、具体的にお伝えしましょう。
まず、中等部から東大、医科、難関大の3つのコースを導入している点です。生徒が目標に合ったコースに在籍することで、学習の指標を明確にしながら教育効果を高めています。実際に東大コースでは、東京大学の「高校生と大学生のための金曜特別講座」をオンラインで受講したり、東大キャンパスツアーを行ったりするなどで生徒の士気を高め、推薦入学を含め累計335名の合格者を輩出しています。
また、「授業が一番」をスローガンに各授業は45分に圧縮し、生徒が高い集中力を保ち熱心に授業を受けることができるよう導いています。そこで生まれた時間は、放課後の「アフタースクール」という自由選択講座に充てています。生徒の興味や関心に合わせた150以上の充実した講座を開講しており、目標別に習熟度別講座やアクティブ・ラーニングを取り入れた講座が、生徒の伸びる力に直結しているのです。
コロナ禍の臨時休校期間中でも「学びを止めない」との方針でオンライン授業を展開し、一日平均7.5時間の学習時間が確保できました。生徒は自宅で制服に着替え緊張感を持って、毎日通学していることをイメージし規則正しい学習を継続したのです。このようにどのような状況であっても学びを止めず、「生徒の夢は学校の目標」というスローガンを全うするべく、学校が一丸となって取り組んでいます。
海外で暮らすご家族へのメッセージ
我々人類は、まさに今新型コロナウィルス感染症の危機にさらされており、この難問にどう立ち向かえば良いのか、人類の叡智が試されています。この逆境の中でこそ、人は強くなり新しく生まれ変われると信じています。辛い時代であっても、始まりがあれば必ず終わりがありますから、アフターコロナに輝ける人であってほしいと願っています。
海外にいらっしゃる保護者、児童・生徒の皆さんは、日本を代表して当地で活躍されていると思います。ぜひ今置かれている状況とその経験に誇りを持ってくださいとお伝えします。そして、日本に戻られた際には、現地で培ったものを役立て、刺激を与える役割を担っていただきたいと思います。本校には、教師も生徒も互いに学び合う「師弟同行」の精神を持ちながら、生徒一人ひとりの夢を達成し成長していく切磋琢磨の風土があります。異国の地で学んだ皆さんにぜひ牽引力になっていただき、真の国際社会で活躍できるタフでありながら心豊かな人材として羽ばたいてくださることを期待しています。
※2021年12月25日現在の情報です。最新情報は各機関に直接ご確認ください。