グローバル教育
日本航空株式会社 シンガポール支店 支店長 土橋 健太郎 氏

多国籍の仲間と円滑に業務を遂行する秘訣は「コミュニケーションを図る」に尽きるということです。

これは言語能力の問題ではなく、いかに胸襟を開いて真摯かつ誠実に話を聞こうとしているかという姿勢が体現出来るかにかかっていると言えるでしょう。

グローバル時代を迎えた今、企業が求める人材、教育とは何でしょうか。
企業の方からお話をうかがいました。

Q. 御社について教えてください。

弊社は1951年に「日本航空株式会社」として創立し、それ以来、国際線・国内線の旅客貨物船便を運航している日本で最も歴史のある航空会社です。初めて世界の空に羽ばたいてから脈々と受け継がれてきたものとして、歴史や伝統に裏打ちされた技術や経験に誇りを持ち妥協を許さない心があります。当社の原点である挑戦する気持ちとお客さまを想う心を大切にしながら、「世界で一番お客さまに選ばれ、愛される航空会社」を目指しています。

現在は「コードシェア」という枠組みがあり、提携パートナーの航空会社の機体に当社の便名をつけて運航したり、外資系航空会社の機体に当社の便名をつけることもあります。JALのネットワークとしては、現在、国際線は世界350都市(アジアオセアニア地区は現在10ヵ国)、国内線は56都市を結んでいます。シンガポール線は1958年に就航し今年が63周年になりますので、シンガポールの歴史よりも少し長い運航の歴史があります。通常期には1日3便、週間21便運航体制でしたが、現在はコロナの影響により、成田発着の旅客便は週間4便、羽田発着が週間3便でご利用いただいています。

日本航空株式会社 シンガポール支店 支店長 土橋 健太郎 氏

Q. 新卒採用で求められるメンタリティーや資質とは。また、外国人スタッフや海外で学んだ学生さんの採用動向は。

コロナ禍で少し変わってきていますが、2021年春の入社の新卒採用は、残念ながら中断が決まっています。当社は大きく分け、業務企画職、客室乗務職、自社養成パイロットの3つの職種で採用活動を行っています。採用人数は年によって異なりますが、21年度新卒採用活動では、業務企画職110名(事務系40名、数理・IT系20名、技術系50名)、客室乗務職400名、自社養成パイロット80名を採用予定人数としていました。文系理系の制限については、業務企画職(地上職技術系)のみ、応募条件に理系大学(および大学院も可)出身としていますが、それ以外の職種においては専攻分野に関係なく募集しています。採用に際して、大学名は関係ありません。面接官も経歴書(エントリーシート)を見ながら面談していますが、学校名は予め消されているからです。面接官が学校の先入観を受けず、新しく一緒に働く仲間の候補として面談をしています。

JALグループでは求める人材像を7つ掲げています。その7つとは「感謝の心をもって謙虚に学ぶ」「果敢に挑戦し最後までやり遂げる」「プロ意識をもつ」「採算意識をもつ」「多文化を尊重し適応する」「仲間とともに働く」「お客さまに心を尽くす」です。この求める人材像は応募者だけでなく、弊社社員にも働く上で求められる意識・考え方となっています。入社前から全てを持ち合わせている必要はありませんが、JALグループで働く上では必須の意識・考え方となります。7つの考え方に共感していただけるかどうかは、弊社が応募者の方の就職先として適切かどうかにつながる判断ポイントであると言えるでしょう。

会社の計画の中に、今後日本だけではなく世界で選ばれ、愛される航空会社を目指すという目標があります。そのため、多様な文化・考え方を受け入れることで企業として厚みも増していくと考え、国籍や学習歴にとらわれず幅広い人材を求めています。

実際に、業務企画職・客室乗務職・自社養成パイロットの採用においては、国籍による要件は一切ありません。今後も日本のみならず、世界で選ばれる航空会社を目指す中で、外国籍の人材は、自身のバックグラウンドに基づく考え方や文化を起点により世界のお客さまに選んでいただけるサービスを生み出せる可能性を秘めていると考えています。今後、採用活動が再開された暁には、引き続き多様な人材を積極的に採用していく予定です。

Q. グローバル企業として多国籍・多文化のスタッフをまとめしていく上での苦労点は。

私自身が身をもって感じていることは、多国籍の仲間と円滑に業務を遂行する秘訣は「コミュニケーションを図る」に尽きるということです。これは言語能力の問題ではなく、いかに胸襟を開いて真摯かつ誠実に話を聞こうとしているかという姿勢が体現できるかにかかっていると言えるでしょう。

ビジネスパートナーとの会議でも、日本人は控え目だと言われます。「言わなくても伝わるだろう」「分かってくれていると思った」という思い込みは、後にボタンの掛け違いとなり、理解の齟齬が大きな問題に発展したことがありました。阿吽の呼吸に期待せず、相手の考え方が白なのか黒なのかを明確にして自らの考えも明確に示すことが必要です。実際に私の経験でも、トラブルの80%以上はこのようなコミュニケーション不足に起因していました。思ったことをそのまま表現しない遠慮深さが日本人の美徳となっているふしがありますが、場面に応じて明確に自らの考え、思いを表現することが大変大事だと切に感じています。

Q. 日系企業としてのアイデンティティを多国籍・多文化の方にどのように共有していますか。

シンガポール支店にはシンガポール人の客室乗務員が100名以上おり、メンバーは日本語教育に始まり保安要員としての訓練、機内サービスの訓練を経て客室乗務員として羽ばたいていきます。訓練の過程では、お客さまに対する「おもてなしの心」「設え(しつらえ)の考え方」も教えます。お客さまとどのように心を通わせるか、お客さまの心情をどう察するかは、日本人であっても非常に難しいですが、多国籍スタッフにもそうした訓練をしています。例えば食後に薬の袋を出されようとしているお客さまがおられたら「お水をお持ちしよう」と行動する、ともすれば見過ごしやすいことでも「お客さまは今何を欲していらっしゃるか」「どういう気持ちでいらっしゃるか」と機内の様子を常に目を配るよう教えているのです。このような精神は、客室に限らずお客さまとの接点においても通じることだと思います。当社は日本人のお客さまはもちろん、外国籍のお客さまにもたくさんご利用いただいています。そのため弊社のサービスを通じてお一人でも多く日本のファンになってくださる方が増えれば嬉しい限りです。

コロナの感染拡大は、人類が初めて対峙する一大事だと捉えています。この状況を「ニューノーマル」と言ったりもしますが、今後あらゆるお客さまのニーズにお応えできる商品やサービスをスピード感をもって柔軟にご提供できるかが、今後の事業継続の上で必要だと感じています。

Q. 海外で子育てをされているご家庭へのメッセージをお願いします。

国際社会でビジネスをして感じること、それは、日本人は素晴らしいメンタリティーを持ち合わせているということです。一例で言いますと、サッカーワールドカップでは、どのスタジアムでも試合後に日本人のサポーターがきちんと掃除をしていると聞きます。また、コロナ禍においても、高い衛生意識からマスクに対しても抵抗感を示さず大きな混乱がないことは世界からも称賛されました。このようなメンタリティーは、日本人として誇れる点だと疑いません。皆さんにもぜひ、自信を持って日本人らしいメンタリティ―を育んでいただければと思います。

私の印象では、外国籍の方は自国の歴史・文化をしっかりと理解し、明確にお話できる方が多いと感じます。会議の場でビジネスの話はできても、会食などではとかく無口になり会話が弾まなくなるということは意外に多いものです。そのような際に互いの国の歴史・文化などの話を話すことができれば、相互理解が一層深まりビジネスにも良い影響があることは、私自身が身をもって感じていることでもあります。異国の地にいながらも日本の歴史や文化をしっかり学び、外国の方に語れるようになれば素晴らしいことだと思います。

私自身が海外で幼少期を過ごし、海外に子どもを帯同した経験を踏まえて申し上げさせていただくならば、海外には日本では経験できないことが身の回りに実に多く存在しています。さりげない日常であっても日本では当たり前のことが当たり前でなかったり、日本での生活では知りえなかったことで溢れています。異文化との交流や知見は、必ずや将来の進路を定める上で何かのきっかけになるに違いありません。この貴重な経験をますます大きくする上でも、ぜひ多くの冒険をしてはいかがでしょうか。

会社概要

日本航空株式会社

1951年に日本政府主導による半官半民の体制で設立され、58年に初便を就航した日本で最も歴史のある航空会社。英国スカイトラックスによる世界の航空会社を格付け「ワールド・エアライン・スター・レーティング」で2年連続、最高ランク「5スター」に認定。また、3年連続で「ベスト・エコノミークラス・エアラインシート」にも輝いている。

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