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音楽との出会い 「ヴァイオリンこそ人生」 庄司 紗矢香 さん

~音楽との出会い~
「ヴァイオリンこそ人生」
庄司 紗矢香 さん

世界を舞台に活躍されているヴァイオリニストの庄司紗矢香さん。10代でヨーロッパに渡った後、パガニーニ国際ヴァイオリン・コンクールで最年少および日本人として初めて優勝され、その後は世界中の指揮者やオーケストラと共演されています。

コロナ禍による演奏活動の制限が徐々に緩和される中、シンガポール交響楽団(Singapore Symphony Orchestra)の公演のため来星された庄司さんにお話を伺いました。

幼少期 イタリアでの出会い

幼い頃、画家である母の仕事の都合で、イタリアのシエーナに住んでいました。そこで感じた空気感や美的感覚、一流音楽家との出会い、そして心を揺さぶるような音楽体験は、その後の私の価値観や人生を決定付けたと言っても過言ではありません。

幼少期は、オペラやカンツォーネに憧れて声楽家になりたいと思っていました。しかし、私の声はあまり声楽家むきではなかったため諦めることにしました。そんな時、ヴァイオリニストのウート・ウーギ氏の演奏を聞く機会があり、その素晴らしさに深い感銘を受けました。それがきっかけとなりヴァイオリンをはじめたのです。お稽古では、歌や踊りも学びながら、最後にお菓子をもらってとても嬉しかったことを覚えています。いわゆる「英才教育」ではなく、自然な流れの中でヴァイオリンを楽しんでいました。

「辛い練習から逃げたくなったことは?」「ヴァイオリンを辞めたいと思ったことは?」と聞かれることがありますが、私は一度もありません。声楽家に憧れていた私にとって、ヴァイオリンは「声」であり、元気になれる「薬」でもあります。また、どちらかというといつも一人でいることが多かった私にとって、ヴァイオリンは「全てを分かち合える親友」であり、瞬時に別の世界に連れて行ってくれる大切な存在でした。シエーナで出会ってから今日までずっと、私の人生の喜びであり続けています。

恩師の言葉がきっかけでドイツへ

両親は音楽の道に進むより、普通に勉強をして進学することを望んでいました。そのため、ヴァイオリンの道に本気で進みたいことを理解してもらうために、コンクールで一位を取り続けるなど努力を重ねました。

そんな時、ドイツ人の先生、S.ガヴリロフ氏から「君には特別な才能がある。できるだけ早くにドイツに来て私の元で学びなさい」と声を掛けられたのです。その言葉がきっかけとなり、私はドイツ行きを決意しました。両親は日本で義務教育を受けることを望んでいたため、15歳頃までは長期休暇の度にドイツと日本を往復する生活を送っていました。

コロナ禍での新しい気付き

コロナの影響が出る以前は、ヴァイオリニストとして演奏活動で世界中を飛び回る生活を送っていました。ところが、コロナ禍では演奏会の予定が半年先まで無くなり、先が見えない不安な時期が続きました。そのような状況下でも、心を落ち着かせることができたのは、やはりヴァイオリンの存在でした。ずっと忙しい日々を送っていた私にとって、少し立ち止まる時間を持てたことは良かったと感じています。私にとって、「幸せ」はヴァイオリンとともにあるということに改めて気付いた貴重な期間でした。

「生」の音楽に触れる大切さ

オーケストラでは、さまざまな国籍の人たちと一緒に演奏をしますが国籍を意識することはありません。それは、一人ひとりが国籍を超えた「音楽家」だからです。

演奏会では同じ空間や瞬間、体験を聴衆と共有できるという醍醐味があります。そして何より「生」で聞く音楽は、マイクを通して聞く音楽とは全く異なります。皆さんにはぜひ、演奏会に足を運び、音楽家たちがどのような音を出しどのように心に伝わるのかを体験し、「生」の音楽に触れる大切さを肌で感じていただきたいと思います。

音楽との出会い 「ヴァイオリンこそ人生」 庄司 紗矢香 さん

海外で生活するご家族へのメッセージ

海外での生活には、言葉の壁などさまざまな不安があることでしょう。不安や恐れる気持ちを持つことは普通だと思います。どのような状況でも、自分の信念をしっかりと持ち、堂々と走り続ければ、道は開けるに違いありません。日本人には細やかさや思いやりがあり、尊敬の念や秩序・伝統を重んじる素晴らしい国民性があると感じます。それらを大切にしながら、皆さんには新しい信念と価値観、勇気を持って世界で活躍していただきたいと思います。近頃の若い皆さんはしっかりとした考えを持っている人が多いと感じます。皆さまを頼もしく感じているとともに、今後の活躍を楽しみにしています。

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