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グローバル教育

この人からエール

関東学院六浦中学校・高等学校 校長 黒畑 勝男氏

2022.03.25

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全ての教育が「平和」につながることを願って

はじめに

私の教員人生は、北海道の公立高校の英語教員として着任したのが始まりでした。しかし、はじめから教員を目指していたわけではありませんでした。ある理系の学部を目指し2年間浪人し、諦めた経験があります。
その苦い経験で分かったことは、進路を選択する上で、私の視野は狭く大学・学部選びやその先の学びを俯瞰的に見ることができていなかったということです。関心を持っていた遺伝子の研究には色々なアプローチがあり、必ずしも単純にその分野が特定できる学部でなくてもよいということへの気づきが深まらなかったのです。その反省から、中学・高校時代に生徒が人生を考える上で、世の中には実に多くの選択肢があることを伝え、広い視野で物ごとを捉える指導が必要だと実感したのです。

関東学院六浦中学校・高等学校 校長 黒畑 勝男氏

APUで直面した「多文化理解」

北海道に新しく開校した私立中高在任中は、2000年に開学した立命館アジア太平洋大学(APU)に有為な人材を送るという附属高校の使命を果たしました。APUのキャンパス内にある学生寮(APハウス)でResidence Assistant( RA, 国際学生が暮らしを始める際に必要な支援をする学生)の育成に7年間関わり、日本にいながらにして国際色豊かで貴重な経験をしました。その経験の全てが「多文化理解」そのものでした。

APUの約半数は世界各国から集まった学生で、RAはAPハウスで国際学生に日本の生活マナーを伝えます。衝撃の一つにインドから来た学生が廊下にゴミを捨て去ったことがありました。日本人には到底理解できないのですが、その学生にしてみれば「そのゴミを拾う人」がいる、その人の職業を奪ってはいけないという考えによる行動でした。それ以外にも、国際学生のトイレや台所の使い方など日本人の常識を覆されることは多々あり、日々驚きと衝撃の連続でAPハウスはまさに「異文化理解」の極みでした。また一方で、国際学生の意識の高さにもまた衝撃を受けました。どの学生も自分の国と世界を比較しながら「自分はどう生きるか」を模索しており、明確な夢と人生設計がありました。それゆえに学びも主体的であり、日本の一般学生とは大きな違いを感じました。

「少子化」がもたらす真の問題

2021年は我が国の出生数が84万3000人と、6年連続で過去最少を更新しました。これは実に深刻な問題です。「少子化」は、私学経営の面でも大きな危機感をもたらしており、私立の小・中・高はよほどの魅力がない限り、この先、加速度的に経営が厳しくなるでしょう。一部の私学では子どもの数が減る、だから帰国生を募集しようと舵を切っていますが、経営重視の短絡的な考えは避けなければならないと感じます。

「少子化」がもたらす最大の影響は、生産年齢人口が減少していくことだと考えます。生産年齢人口が減少すれば絶対消費傾向や経済の規模も変わります。AIが台頭し、機械化やICTの導入が加速の一途を辿る今後、有為な人材だけが雇用されるようになることは言うまでもありません。安全で平和な日本社会とその文化への憧れと日本企業への信頼から、外国人留学生が中核外国人材として日本の企業で活躍する人が増えています。あるいは自国に帰国し、現地に進出している日本企業で中心的な働き手になっていくという状況もあります。外国人留学生は母国語と英語ができ専門知識を持ち合わせ自国の事情に精通しているのですから、当然、日系企業にとって即戦力になります。外国人採用が増えれば、取り残されるのは言うまでもなく日本の若者です。今後日本の子どもたちの働く場が、外国人にますます奪われていくことを予想すべきでしょう。日本の企業が生き残りをかけて今後多国籍での採用を増加させる中で、日本の子どもたちの行く末はどうなるのだろうか。これこそが「少子化」がもたらす真の問題だと考えます。

今後の中等教育の在り方

コロナウイルスの感染拡大に伴い、オンライン授業が急速に浸透しました。もはや環境さえ整えば、どこでも学べる時代になったのです。私は、アフターコロナでは日本の教育の在り方が大きく変わると感じています。具体的には、海外からも学べる通信制高校のような学校が生き残っていくのではないでしょうか。なぜなら、少子高齢化が進めば過疎化が進み、町も衰退します。すると学校の閉校や統合が相次ぎ、通学にも支障をきたします。通信制の学校であれば通学する日は限定的で、通常は全てオンラインで学ぶのですから実に効率よく学習が継続できるからです。

日本の教育現場では今、学ぶスタイルだけでなく、学習方法においても改革が唱えられています。これまで多くの学校がそうであるように、「大学に入るため」という指導を展開しているだけの学校は、果たして本当に価値があるのかを改めて考えるべきではないでしょうか。暗記中心の知識とスキルを用いて問題を解決する日本式の学習は万能ではなくなり、いかに社会に学びの場面を繋いでいくかが重要になると感じます。

私たち教育者は、日本の人口減少がもたらす未来社会とその人材育成について、あまりに楽観的過ぎたのではないかと感じます。世界のフラット化が進む中では、生きる世界を別次元にも広げるということが今以上に重要になるでしょう。昨今注目されるのが「グローバル教育」ですが、その教育は単純に特定の国や文化を学ぶことであってはなりません。お互いの国がどのように「平和的な共存」を果たすかを、真に学ぶことだと思います。お子さまがしっかりと自分の立ち位置を見極め、互いに尊重し平和を築くように導くことなのです。平和とは努力して作るものだと疑いません。そしてすべての教育の目的は、「平和」へとつながっていくべきだと信じています。

関東学院六浦中学校・高等学校 校長 黒畑 勝男氏

Space Laboを使用しての授業風景

寮は「小さな地球」

昨年4月に開設した寮は関東学院大学が大学生向けに建てた寮で、理想的な学びの環境が整っています。コンセプトは「小さな地球」であり、多国籍・多文化の人たちが集まりそれぞれの文化を生かしながら互いの文化を吸収し合える場を提供したいと考えています。

本校はこの寮を生かし、学びの国際化を加速していきます。日本は全国民が高い水準の教育を受けており、子どもの「学力」は諸外国から見ても 決して劣ってはいません。しかし明らかに劣っているものがあります。それは「ダイバーシティ」の中での主体的行動力と「英語運用力」です。前述の通り、日本国内では外国人留学生が日本の企業に就職し、中核外国人材として活躍する人の数が増加の一途を辿っています。今後、日本の若者は活躍する「場」を自分で確保する力が必要になります。今こそ、日本の子どもたちの教育内容や教育環境を「グローバル・スタンダード」にシフトしなければならないでしょう。中・高生の多くは調和を重んじ、同調志向の中にいることで得られる安心感を心地よく思いがちですが、このマインドの偏狭さを打破することが必要なのです。

関東学院六浦中学校・高等学校 校長 黒畑 勝男氏

「グローバル・スタンダード」が息づく寮

長年、国際交流事業に関わってきた経験から、「一条校」※でも国際環境を整えることが必須だと考えてきました。日本で学び就労したいと願う強い意欲を持ったインバウンド留学生と生活環境をともにし英語でコミュニケーションをとる、このダイバーシティの環境は、それまで自分の中にあった「当たり前」や「普通」を考え直す機会になるに違いありません。外国へ留学した生徒は必ずと言っていいほど、「自分の常識が普通ではなかった」という経験をして帰国します。その得難い経験を日常生活の中でしながら、国際舞台で活躍できる力を自然に育んでいく、寮をそんな環境にしたいと考えています。

※学校教育法の第一条に定められた学校。国公私立を問わず、小学校、中学校、高等学校などがこれに当たる。

海外で暮らすご家族へのメッセージ

帰国生は、海外にいる時点で素晴らしい体験をしています。違う世界の中で「自分がどのように生きていくか」を考えることが大事だと感じます。異文化の中で生活する上では、さまざまな格闘があることでしょう。いかに自分らしく生きるか、自分の想いを伝えるかという苦労(格闘経験)は全て貴重な糧となり、皆さんのアイデンティティの形成の礎となるに違いありません。将来につながる大きな力になると信じて苦労を厭わず何ごとにも挑戦していただきたいと思います。

治安の問題があり、子どもだけでどこかに立ち寄ったり遊んだりすることができない地域もあるでしょう。しかし、可能な限り現地の子どもたちと接してくださいとお伝えします。なぜなら、同年代の子どもたちが仲良くなり繋がりが深ければ深いほど「平和の束」は大きくなるからです。海外生活での経験にはピース・メーカーとしての感性を育てるアドバンテージがあります。私もAPUでかつて目の当たりにしました。それは、あまり仲が良くない国同士の学生がいたとしても、人同士として仲良くなれば「彼/彼女の頭の上に爆弾は落とせない」という気持ちになり、互いを思いやる気持ちから深い絆が芽生えていく、ということがあります。相手を思い合い「平和の束」が太く大きくなれば、難しい世界ですが、未来の世界平和を紡ぎだせると信じたいものです。

※関東学院六浦中学校・高等学校に関する情報はこちらにも掲載しています!
英語を本気で武器にする! ~日本の学校の取り組み~(2022)
https://spring-js.com/global/17843/

黒畑 勝男(くろはた かつお)氏

1983年 北海道の公立高校で教員となる。
80年代から国際理解教育での教育プログラムを実践。
2000年から日本の「少子化」に着眼し、人材育成について新たな視野で教育の義務と可能性を実践。
14年 私立法人で3つの目の勤務校となる関東学院六浦中学校・高等学校に校長として入職。22年からは同学院六浦小学校校長も兼務。

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