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<特別企画> 先輩帰国生と専門家に聞きました~帰国後の実情と保護者へのアドバイス ~

先輩帰国生専門家に聞きました
~帰国後の実情と保護者へのアドバイス~

日系企業の海外拠点数が2017年には、およそ7万5千拠点と過去最高になり、海外在住の義務教育段階の子女数も同年8万3千人に上りました。09~17年の8年間において子女数は34%増加しており、文部科学省「海外で学ぶ日本の子供たち」(21年度版)によると「海外に長期間在留した後、再び帰国する子どもは年間で約1万2千人(14年度)」に達しています。※

日本では、世界水準の教育プログラムが導入されるなど、教育のあり方も多様化しています。しかし、帰国後の環境の変化がもたらす負担は、お子さまにとって決して小さくありません。これから帰国を控えるご家族の中にも、「帰国後うまく適応できるか」「スムーズに学校生活に慣れるか」と不安を抱く方もいらっしゃるでしょう。

今回Springでは、帰国して数年が経つ「先輩帰国生」にお話を伺うとともに、長年にわたり帰国生のサポートに関わられている専門家の先生にアドバイスをいただきました。現在の海外生活や将来の帰国生活のヒントにしていただけましたら幸いです。

※外務省「海外在留邦人数調査統計」2009~17年。
18年~20年は「海外の子ども(義務教育段階)」のデータなし。

海外生一人ひとりにストーリーがあります。 ぜひ、シリーズ記事「海外生の今」も合わせてお読みください! ?https://spring-js.com/global/global02/kaigaisei/

帰国後数年経過した帰国生34人に取材しました。

【帰国生プロフィール】

海外での学校
4割が日本人学校に、6割がインターナショナルスクール・ 現地校に在籍

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現在の学年(2022年4月現在)
平均:高校2年(最多:高校1年)

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滞在国・地域(複数回答)
アメリカ合衆国、アラブ首長国連邦、イギリス、インド、インドネシア、オーストラリア、カタール、韓国、サウジアラビア、シンガポール、タイ、台湾、中国、ドイツ、ブラジル、ベトナム、ペルー、香港、ロシア(50音順)

海外滞在年数
平均:5.9年(最多3~4年、範囲:1~12年)

日本に帰国した学年
平均:小学5年(最多 小学3~4年、範囲:幼稚園~高校2年)

多くが経験する帰国後の戸惑い

今回の取材では、先輩帰国生の8割が、帰国後に「戸惑い」や「苦労」を感じたと回答しました。しかし、環境の変化がより大きいと思われる現地校・インターナショナルスクール出身者でも「感じなかった」という回答もあり、個人差があることがわかりました。

帰国後に苦労したことでは、さまざまな学習の課題が浮き彫りになり、中でも「テスト」や「社会科」、「日本語での授業全般」という回答が目立ちました。学習面以外では「友人関係」がトップとなり、国内の転校と同様に人間関係に戸惑いがあることは想像に難くありません。また、「公共交通機関の利用」、「水泳」など、日本と異なる滞在国の治安・気候に起因する戸惑いも見られました。

日本に帰国した際、戸惑ったり苦労したことはありますか?

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帰国後「苦労した」と思うもの全てを選んでください。(複数回答)

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前向きに行動することが鍵

帰国後に悩みや戸惑いを経験してきた先輩帰国生からは、「周囲に相談する」「積極的に行動に移す」ことで解消されるという、前向きなアドバイスがありました。考え込みすぎず、コミュニケーションをとる重要性が伝わってきました。

先輩帰国生に聞きました。
帰国後の悩みを克服するには?

<1> 時間が解決してくれるので、 焦らずに。外国時代の友人に連絡しストレス発散をしましょう。
<2> 分からないこと・悩みは友人・先輩・先生・親など躊躇なく相談してみてください。
<3> 帰国生や帰国生クラスの先生は強い味方です。ぜひ力になってもらいましょう。
<4> 勉強面では、自分の苦手を見つけ対策を練ることで、自信に代えましょう。自宅学習と塾などをうまく併用することがおすすめです。
<5> 遊びを通じて友人と仲良くなれば、文化の違い・心理的な障壁も解消されます。

支えてくれたのは「親」と、7割が回答

多感な思春期では、親子の会話が減ることも少なくありません。親御さんの立場では「親より友だちが大切」と感じてしまうかもしれません。しかし、実際には7割が悩みを克服する際に助けてもらったのは「親」と回答しています。海外生活においては、家族は「運命共同体」。どんな時でも寄り添い、親身に耳を傾けてくれると感じるのはやはり「親」なのです。実際に、「母親と一緒に予習をした」「不安はその都度家族に相談」「家族は絶対裏切らない」という回答も見られました。

苦労した時、誰に助けられましたか?(複数回答)

<特別企画> 先輩帰国生と専門家に聞きました~帰国後の実情と保護者へのアドバイス ~

日本の学校に慣れるまでの期間は?

学校生活に慣れるまでの期間は、「半年以内」との回答が47%と最多でした。海外での学校別に見ると、日本人学校生の多くが「半年以内」と回答しているのに対し、インターナショナルスクール・現地校生では「3年」と答えた人も同程度で、「まだ慣れていない」との回答も目立ち、より長期間かかることが伺えます。

日本人学校生が帰国後馴染みやすいことは想像しやすいですが、インターナショナルスクール・現地校生の場合には、帰国後慣れるペースが異なっており、個人差が大きいことが分かりました。

帰国後どの位で慣れましたか?(複数回答)

<特別企画> 先輩帰国生と専門家に聞きました~帰国後の実情と保護者へのアドバイス ~

学校生活を通して「日本の良さ」を発見

滞在国と日本の違いに戸惑いながらも、「今まではなかった新しい視点を見つけることができた」「新たな目標ができた」という日本での生活におけるプラスの声も多く聞かれました。

先輩帰国生に聞きました。
日本に帰国して良かったことは?

<1> 皆が勉強、研究、部活に熱心であることに刺激を受け、常に上を目指すようになりました。
<2> 習いごと(日本舞踊、お琴、空手、書道)を通して、日本の文化を学べました。
<3> 生徒自身が掃除すること、先輩後輩の関係など日本特有の価値観に触れられました。
<4> 1クラスの人数が多いた 5 め、日本人だけでも多様性が あることに気づきました。
<5> 暗記を重視する勉強法を経験して、「徹底的に理解する」姿勢が身につきました。

海外体験を再評価

海外滞在中は毎日の生活で精いっぱいでも、帰国後に改めて海外生活の意義を認識しています。日本人学校生もインターナショナルスクール・現地校生でも、現地で自分が成長したと感じる明らかな体験がありました。

先輩帰国生に聞きました。
海外生活を経験して良かったことは?

<1> 英語、アラビア語、中国語などを学び、まずは「伝える姿勢こそが大切だ」とわかりました。
<2> さまざまな国籍・文化・宗教の友だちができ、寛大な心を持てるようになりました。 
<3> 日本から離れてみることで、「当たり前が当たり前ではない」ことに気づきました。
<4> 自分の居場所さえあれば、案外どこでもやっていけると自信がつきました。
<5> ディスカッションやエッセイの授業から、自分の考えとその根拠を示す訓練ができました。

先輩帰国生からのアドバイス

最後に帰国予定・帰国直後の生徒さんに向けたアドバイスを聞きました。「海外で得た貴重な経験を、あらゆる場面で活用しよう」「海外生活を通じて、他の人には見えないものが見えてくる」「自分に誇りを持とう」などのアドバイスが異口同音にありました。自らの体験に基づいた先輩帰国生の等身大のアドバイスは、海外在住のご家族にも参考になることでしょう。

先輩帰国生に聞きました。
日本へ帰国する生徒さんへアドバイスは?

<1> 外国にいる間は沢山の友人と関わり、帰国後も一生の友情を育ててください。
<2> 自分の「譲れない部分」は維持しながら、日本の環境に歩み寄る姿勢も持ちましょう
<3> 究極は「時間」が解決してくれます。キーワードは「何とかなる!」です。
<4> 英語力が落ちないように、 とにかく本を読もう。語彙が増 え、将来役に立つと思います。
<5> 自分に誇りを持ってください。「自分はすばらしい経験の持ち主だ」と考えましょう。
<6> 不安なことは勇気を持って口に出してみましょう。必ず皆が真摯に応えてくれるはずです!
<7> はじめは見よう見まねでも、とりあえず皆と同じように試してみましょう。
<8> 礼儀や協調性を重視することや、期限を守って生活することが大切だと思います。
<9> 帰国前から、算数は計算機なしで解く、理科など教科の用語を理解しておきましょう。
<10> 日本に慣れてきたら、「日本の良いところ」をたくさん見つけてください。
<11> 小さいことは気にしないで、「今」を十分に楽しんでください。

保護者への アドバイス
教育の専門家に聞きました。

保護者は帰国生にどう寄り添うべきなのでしょうか。専門家に伺いました。

東京大学 名誉教授
北鎌倉女子学園中学校高等学校 学園長
柳沢 幸雄 先生

<特別企画> 先輩帰国生と専門家に聞きました~帰国後の実情と保護者へのアドバイス ~

「一番の理解者」は親

海外で生活するお子さんは、一人ひとりが異なる形で唯一無二の経験を積んでいます。帰国すれば新しい学校で違和感を感じ、当然ながら集団の教育では戸惑いもあるでしょう。海外生と言っても一括りにできないからこそ、身近で見守っている親御さんが「一番の理解者」であることは言うまでもありません。海外生・帰国生にとって親の役割は、極めて大きいのです。
実は、私自身も帰国生の親です。職業上の都合で子どもたちに海外生活を強いざるを得ませんでした。その時実感したことは、親として「他者と比べず焦らない」と覚悟を決めることでした。海外生活を最大のアドバンテージと考え、その貴重な経験こそが「自分の拠り所」になると捉えましょう。

帰国生へのアドバイス

現地校やインターナショナルスクールに限らず、海外で日本人学校に在籍していた場合でも、外国の気候や風土を通じて豊かな体験をしています。だからこそ、私からのアドバイスは「海外ネタを積極的に持とう」です。例えば、自分が住んでいた地域の写真・面白いエピソードをいくつか用意しておくと良いでしょう。さらに、楽器やジャグリングなど「言葉以外で伝わる特技」があれば、新しい場所で自分らしさを理解してもらいやすいと思います。

「転校しても良い」という気持ちで

帰国後の学校については、固定して考える必要はないと思います。子ども自身の受け止め方や、クラスメイトや先生との関わりなど、全くわからない要素があります。学校やクラスによっていじめがあることも確かで、「自分一人で頑張る」ことが難しい状況も考えられます。環境に恵まれ非常にすんなり馴染むこともあれば、適応が難しいこともあります。親御さんが帰国時のストレスの受け皿となり「一緒に考えようね」という気持ちで、選択肢をその都度用意しながら次の一手を考えていきましょう。状況次第では、転校することも選択肢の一つではないでしょうか。

頑張りは7割まで

人と違う場所で経験を積むことは、一種の「苦労」と言えるかもしれません。若い時にする苦労は、10年後、20年後にはむしろ、「ああ良かったな」と思える貴重な体験であることは、多くの親御さんが共感されるでしょう。「若い時の苦労は買ってでもせよ」と言われるように、その苦労には実に大きな意味があり、自分自身の根幹をなすものだと信じましょう。帰国生の皆さんに「ギリギリまで頑張り続けてほしい」とは言いません。皆さんが重ねてきた未知の経験を 生かし、自分の成長のために7割まで頑張ってほしい。しかし、決して頑張りすぎないで、親御さんに相談してほしいと思います。

立命館大学 大学院・言語教育情報研究科 教授
全国海外子女教育国際理解研究協議会 所属
田浦 秀幸 先生

<特別企画> 先輩帰国生と専門家に聞きました~帰国後の実情と保護者へのアドバイス ~

「言語」と「アイデンティティ」の問題

帰国生が直面する課題には、「言語」と「アイデンティ」の二点があります。まず日本語または現地の言葉のどちらかで「年齢相応の言語力(在籍学年の国語の教科書が理解できて感想文も書けるだけの力)」つまり「認知力」がついているかを確認しましょう。次に「自分は何者なのか(日本人?外国人?ハイブリッド?)」という「アイデンティティ」の問題にも留意します。特に中高生など年齢が高くなってから帰国した場合には注意が必要です。帰国してから3年以上経過しても「まだ、日本に慣れていない」と感じる場合は、その背景に友人関係や学業の悩みなどが関連していることが多く、お子さんの根幹に関わる切実な問題です。子ども時代に同様の苦労をしていない保護者にとっては感情移入しづらく、必要に応じて専門家(異文化カウンセラーなど)に相談して、周囲の大人が連携して長期間にわたり相談にのってあげましょう。ありのままの自分を受け入れるには、かなりの時間(時には20歳・30歳代まで!)が掛かるのが普通です。

帰国後には「同胞」と息抜きを

小学生でも中高生でも、帰国後1年以内には「現地で習得した言語力」の中で、特に「話す」「書く」力が急激に落ち込むことを痛感します。これは滞在期間や年齢に関係なく、ほぼ全員に起こる現象です。帰国直後は友だち作りや勉強で苦労がある一方、「英語(や他言語)には自信がある」と思っていた矢先に起こるため、お子さんにとっても戸惑いが大きいでしょう。そんなときは、帰国生を支援する団体や英語(現地語)保持の学校などに通い(現在ではWeb参加も可能)、自分の経験や気持ちを分かち合える「同胞」を見つけましょう。学校の先生や同級生のほとんどが、「モノカルチャー」で育った「モノリンガル」であるがゆえに、帰国生の心情を理解できる「同胞」との息抜きは何よりも尊く、大切なのです。

「100%守ってあげる」という姿勢

ご家庭でお子さんと接する中で、保護者の方が「あれ?うちの子大丈夫かな」と気になることがあると思います。「こんなことがあって嫌だった」と、素直に心の内を話してくれる子もいれば、「何言っているの?」と、強がりを言う子もいるでしょう。どのようなときでも、ぜひ「家庭は全部受け入れてあげる場所だよ」と伝えてあげてください。
子どもたちが本当に辛くなったときのために、「はけ口」があることは大切です。一般に、8割のお子さんは問題なく適応しますが、2割のお子さんは、順調に見えても苦労している可能性があると言われています。親御さんが「何かあったらいつでも言ってね」「100%味方だよ」などと日頃から伝えておけば、子どもたちは安心し、心強く思うものなのです。万が一深刻なケースにはお子さんと相談しながら、時にこっそりでも、学校の先生や「異文化カウンセラー」と呼ばれる専門家に相談してみてください。 

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