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専門家の声 Specialist

この人からエール

British Council Singapore Deputy Director クリスティン・ジョイス 氏

2013.04.25

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海外で育つ子どもたちはどのように未来へ向かって歩んでいけばよいのか、親が出来ることとはいったい何なのか。専門家から進路や将来を見据えたアドバイスをいただきます。

はじめに

 私は日本といろいろな関わりをもってきましたので、自分は 親日家であると自負しています。イギリスの大学を卒業後、す ぐに英語教師として日本に赴き仕事をする一方、日本政府主催 の JET プログラム 1 に参加していた夫と結婚し、公私を問わず 日本と深い関係を築いてきました。その過程で、バイリンガル 教育を目指す多くの日本人ご家族を見てきました。これまでの 経験からその際に必要な親御さんの心構えを、ある生徒の例を 考察しながらお伝えしていきたいと思います。

日本の英語教育に必要な視点

 日本で教えていたときに、ケンブリッジ英語検定のFCE (First Certificate in English)2 に2度不合格となった生徒がい ました。通常であれば、間違えた試験問題を分析し正解を出せ るように指導するでしょう。しかし、私は試験への苦手意識があった彼女に対して、あえてそうすることはしませんでした。 彼女の英語力を伸ばすことにはならないと考えたからです。む しろ彼女が自信を持つべき得意分野、つまりコミュニケーショ ン能力に注目し、そこに重点を置いた指導をしました。その結 果、彼女の会話力はどんどん向上し、「英語の総合力」が格段に 向上しました。このような経験を通して、英語でのコミュニケー ションにおける「自信」を生徒に与えることこそ、大変重要な 教師の役割だと確信するようになりました。 日本の高校で英語を教えた経験を持つ夫や同僚は、日本の英 語教育では、コミュニケーションのための英語力と、それに必 要な自信の養成が後回しになりがちだと言います。文法をきち んと理解することに多くの時間を割いているからです。

 かつてはイギリスの学校でも、フランス語などの外国語を学 ぶ時には教師が黒板の前に立ち、クラス全体に説明する学習方法が主流でした。例えば、フランス語の動詞の活用形を反復し て学ぶといった方法です。現在は「コミュニケーション能力」を向上することが重視され、そのため、学習方法においても実 際の「会話練習」が多く取り入れられています。その結果、フ ランスを旅行中に、お店でのやりとりや地元の人との会話に自 信を持って臨めるようになった、という生徒がとても多くなり ました。「コミュニケーション能力」が以前より確実に身につい ている証と言えるでしょう。

 日本でも外国語を学習する際には、この「コミュニケーショ ン能力」に自信がつく外国語学習法を考えていかなければなら ないと思います。

大切な親の言語力

 バイリンガル教育においては、教育を受ける子どもに焦点が 当たりがちですが、親御さん自身の言語環境についてもっと議 論が必要だと感じます。具体例でこの点を考えてみましょう。 前述の生徒はその後渡英し、イギリス人と結婚して母となり ました。日常生活を通して彼女の英語力は飛躍的に高まるだろ う、と私は期待していました。実際はどうなったでしょうか。 残念なことに会うたび、彼女の英語力は低下していました。彼 女は日本人コミュニティの中で子育てをし、ほぼ日本語で生活 していたからです。日本人の育児サークルに参加し、お付き合 いをする友人は日本人のお母さんたち、それに加え夫はあまり 言語への関心がないという環境でしたので、必然的に日本に住 んでいたときよりも英語に触れる機会が減少してしまったので す。英語力向上の必要性があまりないまま、中級レベルの英語 力をかろうじて保っている状態が続きました。子どもが大きく なるにつれ、困ったときはわからない単語は子どもに聞くよう になりました。

 一見普通のことのように思えますが、このような状況は親と しての権威や信頼性が、脅かされる可能性を意味します。それ は、お子さんが大きくなるにつれてより顕著になります。学校 が始まると、何か問題が起きたときに先生としっかり話し合っ たり、宿題で困ったことがあれば相談にのってあげたりする場 面も出てくるでしょう。学校での使用言語が英語であれば、親 が英語力を磨かない限り、お子さんのためにできることが限ら れてしまいます。

 日本人学校にお子さんが通っている場合でも、例外ではあり ません。英語の学び方をアドバイスしたり、英語の授業参観の 日に気になることをネイティブスピーカーの先生に直接質問す るには、やはり英語力が必要です。

 確かにバイリンガル教育をすすめる過程では、日本語の発達 を促進するためお子さんには一貫して日本語で話しかけること は必要です。しかし、真のバイリンガルになることをお子さん に求めるならば、親御さん自らがその言語の習得に努めること が大切なのです。

継続学習から得るものとは

 親御さんご自身が困った状況に遭遇しなければ、言葉を学び 続けることは簡単ではありません。継続して関心を持つには努 力が必要です。しかし、その努力から得られるものは想像以上 に大きいものではないでしょうか。 インター校にお子さんが通っている方でしたら、算数、理科、 地理等の科目でどのような宿題が出ているのかを親御さん自身 が知ることでも、学校での学習について理解を深めることがで きます。「子どもの送迎時に他のお母さんにぐっと話しかけやす くなった」と言う人もいます。またお子さんが通っている学校 がどこであれ、知識があれば英語の発音を直してあげることも できるでしょう。

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