グローバル教育
TOYOTA TSUSHO Asia Pacific Pte. Ltd. General Manager(人事総務部部長) Lai Pee Ping 氏

グローバル時代を迎えた今、企業が求める人材、教育とは何でしょうか。企業の担当者に聞きました。

Q 御社は自動車を中心にした商社という印象がありますが、事業 領域の全体をお聞かせください。

ご存じのとおり、豊田通商株式会社は総合商社です。金属本部、グ ローバル生産部品・ロジスティックス本部、自動車本部、機械・エネ ルギー・プラントプロジェクト本部、化学品・エレクトロニクス本部、 食料本部、生活産業本部の 7 営業本部で事業をおこなっています。当 社 グ ル ー プ は 2011 年 に、こ の 先 10 年 を 見 据 え た「GLOBAL 2020 VISION」を策定しました。従来の自動車、自動車以外という事業分野 による枠組みを進化させ、自動車分野を「モビリティ分野」と定義し、 自動車以外の分野を「ライフ&コミュニティ分野」、「アース&リソー ス分野」の二つに定義し、今後注力していく成長分野と位置づけ取り 組んでいます。 これからの時代はビジネスという枠を越えて、より大きな視点から 日本の未来を考え、事業モデルを描いていくことが強く求められると 感じています。

弊社は豊田通商株式会社の 100% 子会社であり、1975 年にシンガ ポールに設立されました。昨年 7 月、アジア太平洋地域の統括機能を 持つ現地法人として、豊田通商アジアパシフィックへ社名を変更しました。 現在はシンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、 ベトナム、インド、オーストラリアにある現地法人を統括する機能を 担っており、事業内容は金属、グローバル生産部品、自動車、化学品・ 合成樹脂、エレクトロニクス、食料、生活産業などです。シンガポー ルには実際に取引をするお客さんは少なく、周辺諸国に販売する事業 が主な仕事です。 アジア太平洋地域を1つの市場ととらえ、国別ではなく地域規模で さまざまな事業を強化するために、従来の方式を超えて運営体制の整 備や強化を図り、意思決定の迅速化を図ることを目指しています。

現在の従業員は 215 名で、日本からの駐在員は 25 名です。シンガ ポール、マレーシア、インドネシアなど 16 カ国の国籍のスタッフが います。

Q. 社員は海外志向が高いですか。またどのような人材が求められていますか。

事業内容は海外の比率が非常に高いので、海外に派遣されることは 過去のように特別なことではなく、通常地域間異動の一部になってい ます。単体の全社員はおよそ 3,500 名いますが、約 600 名の社員が海 外駐在員として活躍しています。

現在の豊田通商は、これまでの歴史の中でも、非常に大きな転換期 にさしかかっています。今後はますます加速しながら事業の領域を拡 大し、グローバルに広がっていくでしょう。そのためどんな状況下で も変化を恐れず対応できる精神力が大切だと考えています。 弊社では「現場に強い商社員」であることが求められます。単純に物 を右から左に動かしていくのではなく、社員自らが汗を流し事業を成 長させることが大切だからです。求められる人材としては、「ダイナ ミックで自ら道をひらき、新しい分野に飛び込んでいける人」です。 チャレンジ精神や柔軟性のない人は難しいでしょう。

Q シンガポールならではの採用のご苦労があると聞きました。

シンガポール政府が Employment Pass(就労ビザ 以下 EP)の発行を 大幅に規制したため、採用をしたくても外国人を雇うことが大変難し くなり、とても苦労しています。およそ 3 割が外国人スタッフですか ら、EP がほとんどとれない状態では採用する数は限られてしまいま す。国籍は問わず、優秀であれば採用したいと考えていますが、せっ かくそのような人がいても採用に至りません。企業側にとっては大変 厳しい状況です。

Q 多国籍スタッフをマネージメントするうえで大変なことは何で すか。

日本人でしたら仮に給与が安くても「豊田通商で働きたい」という 熱い思いを持っている人がいますが、当然のことながら国籍によって 求める価値に大きな差があります。

ある外国人スタッフが、マーケットリサーチをし、給与水準などに ついて大変アグレッシブに交渉してきました。給与に関しては人事の 評価をふまえ、フェアに設定しないといけないため、交渉されても受 け入れることは難しいのです。

採用する際にも、50 ドルや 100 ドルのことで採用に至らなかった例 もあります。特にシンガポールにはいろいろな人種がいますから、い ろいろな考え方があり、全ての人に理解してもらうのは難しい場合が あります。しかし、人種の多様性とそれぞれの価値観があるからこそ「フェア」であることが大切だと感じています。

Q 日本企業で働きながら戸惑いを感じたことはありますか。

日本のシステムは決断までのプロセスが長いと感じます。ローカル スタッフで日本の文化がわからない人にとっては、やはりストレスを 感じるようです。 スタッフが辞める際は人事としてその理由を聞いています。その中 には決断が遅いとか、日々の業務管理における「報・連・相(報告・連絡・ 相談)」への不満があります。日本ではごく普通のことが、非日系の スタッフにはやりすぎに思えたり、理解できない場合があるようです。

私自身も日系企業で働き始めたころは、かなりギャップがありとて も苦労しました。日本人にとっては「報告=信頼」であっても、ロー カルスタッフから見ると細かすぎると感じてしまうのは、よく理解で きます。しかし弊社の場合、豊田通商グループウェイとして「チーム パワー」を掲げています。個人の力を磨くことは当然ですが部署をま たいでプロジェクトを組むケースも多く、豊田通商というフィールド でチームパワーを発揮することが大切です。そのため、「報・連・相」 はチームとして働くうえで、必要不可欠になります。ローカルのスタッ フにそれを理解してもらうために「報・連・相」の教材を自ら作成し、セミナーを開いたことがあります。教材の作成にあたり日本人スタッ フとローカルスタッフにインタビューをしたのですが、その結果、異 文化間で求めていたものが大きく異なっており、皆で討論をしたこと で理解を深めることができました。

Q 日系企業と非日系企業の大きな違いは何だと思いますか。

システムで明らかに違うのは、日本は「終身雇用」が色濃く残って いる点だと思います。長く勤続するため「育てよう」という気持ちが 強いのです。非日系の組織では、できなければ解雇ですからどちらが 良いかと言えば難しいでしょう。終身雇用にも、西洋のようなドラス ティックな雇用にもそれぞれ良さがあると思いますが、個人的には日 本の風土文化には感謝をしています。「終身雇用」のお陰で長いスパン で物ごとを見てくれるからです。海外ですと、昇格のスパンはだいた い 1 ~ 2 年ですが、日本は 5 年くらいでしょう。弊社に関して言えば、 今後は「10 年雇用制」を考えています。10 年のスパンで昇格も含め給 与やキャリアアップを目指そうとしています。

Q 日本人の素晴らしいところは何ですか。

私は日本に住んでいましたので、あらゆる意味で日本の素晴らしさ を肌で感じています。規律や礼儀正しさはもちろんですが、「和を持っ て尊しとなす」の言葉通り、チームワークを意識しながらも個人のス キルアップをし、全体として高めていく文化はぜひ維持されるべきだ と思います。情報共有も徹底しており、「会社のために働く」という考 え方にも私は共感します。

母としてもまた、日本の素晴らしさを感じたことがあります。日本 のお母さんの「子育て」は素晴らしいと思いました。決して過保護で はなく、愛情のこもった「お弁当」に表れているように、必要に応じ て深い愛情を注ぐ姿に感動しました。

当地のメイドさんを雇う習慣については、子どもの将来において問 題になるのではないかと危惧します。働く女性にとっては良い環境で すし、当地で 1/3 の女性が管理職についているのは、まぎれもなくそ の慣習のおかげと言えましょう。しかし、メイドさんに頼ってばかり の子育てでは、子どものアイデンティティーや自立心を養う機会が損 なわれそうで心配になります。

Q 日本人のご家族にメッセージをお願いします。

お子さまと共に、異国の文化を理解することは大変有意義で、大切 なことだと思います。よその文化に違和感を覚えることもあるでしょ うが、それぞれの国の文化・習わしを学ぶことは、お子さまの将来に とっても、大きな意味があるはずです。海外で暮らしているからこそ、 精神面でも強くなっていると実感する瞬間もあるのではないでしょう か。日本人の美徳も持ちながら、どんどん経験を積んでいっていただ きたいと思います。

日本の経済環境が厳しさを増す中で、今後はますます海外で働く必 要性を感じる機会が増えるでしょう。日本の皆さんにもぜひ頑張って いただきたいと思います。

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