海外生・帰国生へのヒント
教育の現場から vol2. 早稲田アカデミー Orchard 校 校長 桑田穣 先生

海外生活で得た経験の大切さを今後の人生に結びつけるために、教育現場ができることは何でしょうか。

「恩師」と「恩弟」

人は一生の間に何人くらいの「先生」に教わるのでしょうか。義務教 育だけに絞っても、小学校6年間で6人、中学校では一気に増えて9教 科の3年間で27人。そして、高校、大学、他の習い事…。生涯では100 人以上の先生に教わるのかもしれません。直感的な予想より私たちはず いぶん多くの人からものを教わって生きています。

ただ、大人になっても覚えている先生は、ぐっと数が少なくなると思 います。そしてその中に、いわゆる「恩師」と呼ぶべき記憶に残る先生が 何名かいるのでしょう。そうした恩師との出会いが、人生観や自分の習 慣に大きな影響を与えたという方も少なくないのではないでしょうか。

実は、先生の側にとっても同じことが言えます。生徒たちの中にはこ ちらの教え方や考え方を変えるような「恩師」ならぬ「恩弟」が何人もい るのです。

授業は話し手と聞き手が化学反応を起こすものです。先生がただテレ ビのように一方的に内容を伝えても、生徒全員がそれを受け止めてはく 教育の現場からVOL.2 れません。生徒がその場で疑問に思ったことを発言したり、突然先生に 指名され、自分の考えを答えなければならなくなってドキドキする。こ んな刺激的な双方のやりとりがぴったりはまると、授業には俄然、活気 が生まれ、全員の脳がフル回転を始めるようになります。

ですから、良い授業をつくるには「良い先生」だけでは不十分です。「良 い生徒」がいるからこそ、すばらしい授業が生まれるのだと思います。 こうした授業の結果、生徒たちが真綿に水を吸い込むように内容を吸収 し、教える先生の予想を超えて大きく成長することも多々あります。

たとえば、私がシンガポールで初めて担当したのは、小学5年生の中 学受験クラスでした。たった2 人のクラスから授業は始まったのですが、 彼らの学びに対する姿勢と集中力はすばらしく、日本から来た私には大 きな驚きでした。彼らに合わせて必死になるうちに、私も新しい教え方 や、子供たちの考え方への理解を大いに深めることができました。その 後20人近くになった受験科のクラスの授業での基本的な教え方も、そ のときにでき上がったといえます。シンガポール校舎の宿命として、中 学生になる前に彼らは帰国してしまいましたが、彼らをきっかけとして、 私自身も大きく変わったのです。

そんな元生徒たちが今年の春、社会人となり、わざわざ日本から遊び に来てくれました。12 年の空白期間を経ての再会となりましたが、会っ てみればあっという間に当時のように話に花が咲き、楽しい時間を過ご すことができました。

授業は一方通行では成立しません。その意味で、私は本当に優れた生 徒「恩弟」に出会う幸運に恵まれているなと思いつつ、日々教壇に立っ ています。

 

早稲田アカデミー Orchard 校

校長 桑田穣 先生

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