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コラム

音楽との出会い 「ピアノに支えられて」~母の思い~ ピアニスト 三舩優子さん

2013.11.25

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〜音楽との出会い〜

世界的に活躍するピアニストの三舩優子さんが9月に来星し、日本人会でコンサートをおこないました。三舩さん自らが日本語と流暢な英語で演奏曲の背景を説明され、美しく響く音の情景に多くの方が魅せられました。コンサート終了後、幼少期から現在の音楽活動、母親としての思いをお聞きしました。

子どもたちに伝えたい「音楽の魅力」

「幼児期に本物のクラシックに触れ、豊かな感性を育んでいただきたい」という思いで演奏活動をしています。今回も一般の方はもちろん、ぜひお子さまに参加していただけるコンサートも開催したいと思っていました。  ピアノの音を聞きながら、子どもたちが客席でピアノを弾くまねをしたり、曲に合わせて歌いだしたりと、自由に音楽を楽しんでくれたと思います。コンサートの途中で舞台にあがってもらい、好きな場所で音を「体験」してもらいました。グランドピアノの下にもぐり音の迫力を実感する子、ピアノの弦を覗く子、鍵盤を叩く指先をそばでじっと見つめる子など、子どもたちの好奇心いっぱいのキラキラした目が印象的でした。まさに体全体が音楽に包まれ、五感を使って感じてくれたようです。  音楽は、耳で聞くだけでなく「目で見るもの」でもあります。また、ただ何となく聞くのではなく、五感を集中して静かにじっと聞く時間を過ごすこともとても大切なのです。そうすることで、音から絵本の中の風景を思い出すでしょう。色彩を感じることもあれば、懐かしい記憶が呼びさまされることもあるかもしれません。音楽は生 活に潤いを与え、救いとなることもある素晴らしいものだということをお伝えできたら嬉しいです。

母の支え

ギタリストの叔父の影響もあり、音楽は常に身近な存在でした。そのため小さい頃から自然にピアノを弾くようになりました。父の仕事の関係で6歳から6年間ニューヨークで過ごし、12歳で日本に帰国しました。帰国直後には、逆カルチャーショックに戸惑いました。振り返ると、どんな環境のもとでもピアノを弾くことで自分を表現し、周囲に認めてもらえるようになったと思います。「私にはピアノがある」という思いが私を支え、窮地を救ってくれたと思います。

ピアノは好きでしたが、やはり率先して練習をするのはつらいことでした。お友だちと遊んでいる途中で練習のために帰らなければならない時は、いつもつまらない気持ちになりました。それでも、今までピアノをやめたいと思ったことは一度もありません。熱心だった母は、周囲の人からそこまでやらせなくても、と言われていたようです。きっと迷うこともあったと思いますが、ピアノを続けさせたいという思いは強く、「ママも頑張るから一緒に頑張ろうね」と、ピアノを弾いている私の傍らでお裁縫などをしながら、一つのことに真摯に取り組む姿勢を見せてくれました。

家族を支える良妻賢母の母でしたが、海外生活の経験などから、これからの時代は女性も自立し活躍することが必要だと思っていたようです。私には自分と反対の生き方をすすめました。ピアニストとして活動する私を常に気遣い、陰で支え続けてくれました。出産後はコンサートや取材に同行し、乳飲み子の娘の面倒を見てくれました。そんな母のお陰で、私は今日までピアニストとして活動を続けることができたのです。

お子さまにいろいろなことを経験させてあげたいという親御さんは多いと思います。しかし、その中でお子さまが熱中できる何かを一つ選択し、応援してあげることは、とても尊いことだと思います。一つのことを続けていくということは、人生で生き甲斐を得られるとともに、大きな自信に繋がることでしょう。将来壁にぶつかっても乗り越えられる勇気を、お子さまは体得できるでしょう。

今しかできない体験を

女性の演奏家は子どもが生まれると、音が丸くなると言われますが、周囲の私に対する評価は逆で、むしろ研ぎすまされた音を奏でるようになったと言われました。それはきっと、自分に大きなエネルギーを与えてくれる子どもの存在を得て、以前より音にこだわるようになったり、限られた時間の集中力が高まったりしたからだと思います。

ピアニストとして忙しく過ごす私が、子どもと触れ合う時間は決して多くありません。母になってからはいろいろな葛藤もありましたが、常に心では、娘のために「今しかできないこと」を体験させたいと思っていました。物理的な制約がある中で、逆に私にしかしてあげられないことは何かと考えた時、それは、娘にいろいろな人や文化を見せることでした。語学でも思想でも、「文化」を知るということがとても大きな勉強であり、あらゆることにつながっているのだと強く感じるからです。ですから、海外のコンサートの時はいつも学校を休ませて娘を連れて行きます。

驚く方もいらっしゃるかもしれません。しかし、「体験すること」の大切さはピアニストとしてもぜひアドバイスしたいと思います。例えば、発表会が近いからと、コンサートにも行かずにひたすら家で練習をさせる親御さんがいるとします。しかし、そうするよりむしろコンサートに行き、生でいい音を聞いて体中で感じる方が良い 刺激を受け、結果としてピアノの上達につながるのです。

実際に体験することの影響はとても大きく、豊かな感性もそれによって育まれます。お子さまには、今しかできない体験をぜひたくさんしていただきたいと思います。

海外で暮らすご家族の皆さまへ

海外で演奏して感じるのは、日本人はとても良い印象を持たれているということです。東日本大震災の時は秩序ある行動と礼儀、他者への気配りが海外で話題になりました。 しかし、逆に積極性と感情表現は苦手だと思われているようです。現在海外に住んでいる皆さまは、このチャンスを活かして、日本人の良き部分は生かし、日本 人の苦手な部分さえも克服するように挑戦していただきたいです。 世界は広いと肌で感じることがお子さまの将来、そして日本の将来を明るい方向に導いてくれるはずです。

 

三舩優子さん(ピアニスト)

小学校時代を米国で過ごし、7歳より本格的にピアノを始める。桐朋学園在学中に、第57回日本音楽コンクール第1位を受賞。卒業後、文化庁の派遣でジュリアード音楽院に留学、91 年米国でデビュー。 映画「のだめカンタービレ最終楽章」では、エンドロールの「ラプソディー・イン・ブルー」を演奏。NHK-B2「週間ブックレビュー」の司会を務めるなど、多方面で活躍。
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