グローバル教育
早稲田大学系属早稲田渋谷シンガポール校 校長 小口彦太氏

海外で育つ子どもたちはどのように未来へ向かって歩んでいけばよいのか、親が出来ることとはいったい何なのか。専門家から進路や将来を見据えたアドバイスをいただきます。

はじめに

 20世紀後半、産業や経済、金融などのあらゆる場面で頭角を現し始めた中国やインドを始めとするアジア諸国が、その勢いをさらに加速させて一躍世界経済の主役となったことにより「アジアの時代」は幕を開けることとなりました。しかしその一方で、アジア地域における日本人子女に対する教育環境は決して充分とは言えず、とりわけ高等学校段階の教育の場が不足しているという現状は、日本人の海外赴任に対する消極的要素の一つとなっていました。

 早稲田大学はそうしたアジアの現状と将来の飛躍の可能性に早くから注目し、アジア地域における日本人子女教育の必要性を感じていました。中でも「アジアのハブ」と呼ばれるシンガポールは国際的な日本人子女教育実践の場としてふさわしい地であると確信しています。

「地球市民」に求められるもの

 グローバル化が進む現在、国を隔てる国境線は限りなく薄まりつつあります。「地球市民」という新たな概念が生まれ、多くの民族と文化・風俗が多様に入り交じってカオスの様相を呈する中、新たな価値観やニーズが生まれ、それらを受けた産業が次々と生まれています。多民族国家シンガポールは、まさにこうした現代世界の縮図といえるのではないかと思います。

 この目まぐるしく変化する国際社会で、お子さまが「地球市民」の一員として生きるには、好奇心のアンテナを伸ばして貪欲に知識を吸収し、物怖じせず積極的に行動する能力が求められることでしょう。しかし、こうした姿勢というのは一朝一夕に身に付くものではありませんし、誰かから付与されるものでもありません。そうした環境に身を置き、五感を用いて日々鍛え上げていくものと言えます。

 皆さんが生活するこのシンガポールは、様々な民族と文化が入り交じり、世界の複数の宗教が上手に絡み合い、中国語、マレー語、英語といった多くの言語が飛び交っています。日本にいては味わうことのできない、新鮮な驚きと感動、そして多様な理解と意識の共有を肌で感じるというこの経験は、お子さまの人間性を豊かにしてくれるばかりでなく、世界をより身近に感じるためのモチベーションとなるはずです。

 日本ではグローバル化への対応として2011年度から小学校での英語の必修化が実施されましたが、この成果が現れるにはまだしばらくの月日がかかるでしょう。一方でお子さまがシンガポールで学んでいる英語は日本の生徒が学ぶそれとは異なり、より実践的で汎用性に富んだものであることは疑うべくもありません。つまり、英語環境に身を置く皆さんは、現在の日本において即戦力となり得る貴重な存在なのです。慣れてしまうと当たり前のように思われるシンガポールでの生活ですが、こと「国際化」の波が絶えず押し寄せる現代にあっては、グローバル社会の最前線で「生きた英語」を学ぶことができるという大変恵まれた環境なのです。このことを自覚し、英語力と国際的な視野の習得に力を注いでほしいと願っています。

 

高校生活における人間形成とは

 多感な高校時代に、普遍的に求められる教育の基本は、体力、徳力、知力の三つの力の涵養だと考えます。

 一つ目は、何事をなすにも不可欠な「体力」です。そのためには規則正しい生活を送ることが重要です。朝食をしっかり摂る、充分な睡眠時間を確保する、 適度な運動を続けるといった基本的な生活習慣の積み重ねが、大事を為すためにはかかせません。明治維新という一大改革を成し遂げた中心人物の多くが、規律と節制を重んじ、日々の修練を欠かさなかった武士階級であったことを鑑みると、その重要性は推して知るべしといったところでしょう。

 二つ目は、自身のアイデンティティーの確立を踏まえた「徳力」の涵養です。徳とは、ひらたく言えば、相手への思いやりの精神ということです。現在、日本の学校でいじめの問題が深刻化しております。本校はお互いを思いやる教育に努めて参りました。この雰囲気をこれからも大事にしていきたいと思っております。

 そして三つ目は、様々な問題解決に高い意欲と技術をもって臨むために必要な「知力」、すなわち学力の向上です。現代においては、どの問題であれ、その発生には多くの複雑な要素が絡み合っており、解決が容易ではありません。そうした問題の所在を的確に把握し、解決方法を見つけ出していく能力を、まず高校において、培っておくことが必要であります。

シンガポールの素晴らしさ

 日本国内では、若者を中心に自己と他者の認識が曖昧になってきていることが問題視されており、長引く経済不況や社会情勢の不安に伴う閉塞感が、彼らの精神的不安を助長しているように思えます。一方、ここシンガポールはアジアのハブとして安定した経済成長を続け、当地の人々は気さくで鷹揚な性格の中に、意見の相違に基づく日常的なやり取りを通して、明確な自我を確立するなど、非常にバイタリティに溢れています。

 世界は、皆さんが想像している以上に広大です。このエネルギッシュな地での生活を通して皆さんの個性を磨き、確固たる意志と果敢な意欲とをもって堂々と国際社会に飛び込んでください。

早稲田大学系属早稲田渋谷シンガポール校

※本文は2012年11月23日現在の情報です。

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※2012年11月25日現在の情報です。最新情報は各機関に直接ご確認ください。

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