グローバル教育
丸紅アセアン会社 シンガポール営業本部長 中山昌邦 氏

グローバル時代を迎えた今、企業が求める人材、教育とは何でしょうか。企業の担当者に聞きました。

世界の成長エンジン東南アジアは、御社のグローバルネットワークの中でも重要な地域と想像いたします。まずは御社の紹介をお願いします。

弊社は1858 年に創業し、1949 年に株式会社として設立されました。丸紅アセアン会社は、シンガポールが独立する前の1956年に丸紅株式会社のシンガポール支店という形で設立され、その3年後に現地法人化しました。2009 年より地域統括会社として、現在に至っています。

総合職の社員約4,500名のうち、およそ5分の1が海外に出向しています。そのうちアセアンには約200名の社員が配属されており、アメリカや中国、ヨーロッパと比べても現在はアセアンの駐在員の人数が一番多く、「最も熱い地域」といえます。シンガポールは、私が来た4年前は25名程度でしたが、現在は57名と倍以上になりました。今後も弊社におけるアジアの存在感はますます大きくなるでしょう。

総合商社として、どのような人材を求めていらっしゃいますか?

総合商社の事業内容は実に多岐にわたり、現在もビジネスのフィールドが増え続けているため、それらを支える人材が最大の資産です。売り上げの8割以上が海外と、比重が大きいので、「グローバルなフィールドで戦える熱い人材」を求めています。

具体的には、「自分をしっかり持っている人」のことだと言えるでしょう。日本にいて日本のことを聞かれることはありませんが、海外で日本のことを聞かれることは多いです。ですから、若いうちから日本のことをしっかり勉強してきちんと語れるようになることをおすすめします。日本を知ることは、自分を知ることにもつながります。自国のことをしっかり知った上で柔軟な姿勢で異文化に触れ、それを受け入れながらさらに交流を深めていくことが大切だと感じます。

仕事は決して画一的ではなく、時の経過とともにビジネスモデルが変わっていくものです。私が入社したころと現在を比べても、仕事の形態は大きく異なります。社員自身も変わり、その変化にも柔軟に対応できる「熱くて柔らかい」ことが必須です。 日本での新卒採用は、毎年100 ~ 120人くらいです。大学名や文系理系で線引きされるようなことはなく、あくまで人物重視です。業績によって採用数が増減した時もありましたが、今後は横ばい、もしくは増やしていきたいと考えています。

新卒で採用する際は、一定の英語力を求めています。近年は応募してくる学生の中にはTOEIC 900点などかなり英語力の高い人が多いようです。しかし、勘違いしていただきたくないのは、英語力がすべてというわけではなく、あくまでも手段にすぎないということです。まずは前述の通り、しっかりと日本を知り、きちんとした日本語を話すことが大切でしょう。正しい日本語が話せない人はきちんとした英語は話せないので、そこは間違えないでいただきたいです。

中国、ブラジル、トルコ、インド、南アフリカなど世界の新興国経済は、ぜい弱な通貨を背景に軟調な動きも垣間見えております。今後アジアの位置づけは御社にとってどのようになりますか。

世界経済や新興国経済の流れから見てもアジア重視と言えるでしょう。2015年に「アセアン経済共同体」が発足する予定ですが、これは関税がほぼ撤廃され、ものの行き来がよりスムーズになることを意味します。アセアン諸国の経済水準や生活水準も上がっていくので、いろいろな意味で大きなビジネスチャンスがあると言えましょう。

アセアンは人口6億人という一つの大規模な経済圏になります。成長マーケットとしても有望で、人々の生活がますます向上し中産階級の人が増えていきます。ビジネスチャンスとして一層重要になっていくことは間違いありません。新興国経済の中で調整局面が出てくる地域もあると思いますが、成長を続ける10の国々から構成されるアセアンは、基盤の厚い強固で多様な経済圏になると考えています。

多国籍のスタッフをマネジメントする上で工夫されていることはありますか。また、日系企業としてのアイデンティティーはどのように伝えるのでしょうか。

シンガポールは多国籍国家なので、ナショナルスタッフにもいろいろな民族の人がいます。常に心がけていることは、まずは人と人との信頼関係を築くことです。そのためにはコミュニケーションをしっかりとり、上から目線で接することなく、自分が知らないことは素直に聞いて教えてもらうなど、心のバリアを取り除くことが大切だと思います。最終的には、国籍や民族はあまり関係ないと感じています。

また、繰り返しコミュニケーションをはかることで、丸紅という会社が現在日本の中でどういう状況にあるのか、世界の中でどういう評価を受けているのかという情報を発信するようにしています。本社の社長も、定期的に会社の状況を英語のメールで発信していますし、私たちも同じように必要な情報を必ず伝えるようにしています。このように日本の本社との情報共有をしなければ、ナショナルスタッフにとって弊社はシンガポールに数ある会社のOne of Themに過ぎず、丸紅の一員としての高い意識を持ち続けることは難しいでしょう。

ほかにも毎年「グローバルワークショップ」を行い、海外のナショナルスタッフを数日間集めて本社の考えを共有する機会を設けています。以前は日本でのみ行っていましたが、現在はその限りではありません。参加後は、スタッフが改めて「丸紅は世界的な会社だ」と再認識するようで、かなり手ごたえを感じています。

今後、非日本人の活躍の場は広がりますか。

既に、社長が非日本人である現地法人はあります。部長クラスも何名もいますし、本部長や支店長も今後はますます増えていくでしょう。弊社は、ナショナルスタッフ向けの研修制度も充実しています。海外から将来現地の幹部に育ってほしい優秀な人材を集め日本の本社で約2 年間研修することで、世界で活躍できる人材の育成に努めています。

一方で課題もあります。ナショナルスタッフの場合、文化的な違いもあり、より良いキャリアや昇進をもとめて転職する人も少なくありません。そのためこれまでは、欠員を補い即戦力としての採用が一般的でした。しかし、会社を大きく強くしていくには、新卒の若い人を毎年採用し、ロイヤルティーのある社員に育てていくことも大切です。「頑張ればここまで行ける」という道筋を見せることで、優秀な人材が留まってくれることを期待しています。

日本の教育について、思われることはありますか。

教育の基本は、やはり家庭教育だと思います。今の時代は核家族化が進み、昔のように厳しく育てる風潮は弱くなりました。それでも、就学前までにきちんと躾をし、たとえ公共の場であってもお子さまの行動が一定の度を越したときには、親御さんがきちんと叱り、その場で教えることが大切だと感じます。

英語教育の早期化が叫ばれています。それも大切ですが、それ以前にもっと日本人としての道徳、文化、歴史をしっかり教えていただきたいと思います。そうすることで、世界に出た時に自信をもって日本の歴史や文化を語れる真の日本人になれるのだと確信します。

海外で暮らすご家族にメッセージをお願いします。

海外での生活はいろいろな良い面がある一方で、ご不便も多々あると思います。しかし、すべてをポジティブにとらえて楽しみ、いろいろな体験をしていただきたいと思います。

特にシンガポールは、治安もよく駐在地としてはこれ以上に環境が整ったところはないと思えるほどです。日本にいるときよりもご家族で一緒にふれあう時間が長い分、この恵まれた環境をぜひ満喫してください。

お子さまには、自分の目の前にある興味のあることを一生懸命やる、熱い心を持って欲しいと思います。当社は個性を伸ばし、尊重する社風があります。弊社の広告に「熱くて悪いか」とある通り、何か一つ秀でた力がある場合には、その力を高めるために何ができるか、と探究する企業文化があります。例えば英語以外の言語ができるというのでもいいでしょう。すべてがまんべんなくできる人は素晴らしいですが、そうでなくても何か一つのことにひたすら取り組む「熱い心」を持っていただきたいです。

 

※ 取材は2014年2 月末に行われました。

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