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この人からエール

Sannwa Tennis Academy ヘッドコーチ 越智 亘 氏

2014.06.25

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スポーツを極める  ~常に勝者の顔で~

スポーツとの出会いと学び

 スポーツとの出会いの形は百通りあって良い、と私は思います。「お父さんに勧められた」「友だちと楽しみたい」「ダイエットが目的」など、ほんの小さな自然な成りゆきで良いのです。

 私の場合は、テニスが趣味だった母親の影響で10歳から本格的にテニスを始め、コートに毎日通う生活をしていました。小学6年生で地元広島市の小さな大会で初優勝したものの、その後の県大会では3位、中国大会においては2回戦で惨敗しました。一連の試合を通して「勝つ面白さ」と同時に「負ける悔しさ」を経験し、「もっと勝ちたい」「強くなりたい」という気持ちがますます募っていきました。それからと言うもの、勝負の魅力に一気にひき込まれ、学生・社会人時代を通じてテニスが私のバックボーンとなったのです。

 現在テニスを指導する立場にいる私がお伝えしたいこと、それはスポーツを極めるために努力することで、学び得るものは沢山あるということです。言うまでもなく、子どもたちにとって学業に専念することは大切です。しかし幼少期にこそ養える「走る」「投げる」「跳ぶ」「バランスをとる」などの身体感覚は、スポーツを通じてのみ獲得できるものかもしれません。また、対戦する相手との「駆け引き」や「勝つ」ことへのこだわり、勝負に挑む「精神力」もスポーツならではの貴重な学びといえるでしょう。スポーツに打ち込むことは生涯にわたり肉体的にも精神的にも成長し、人生をより豊かなものに導いてくれると強く感じています。

一流選手の条件

 現在、キッズからプロまでを指導する私は、初心者にもプロにもそれぞれの難しさがあることを実感しています。ただ誰しもはじめは初心者であり、現在活躍しているプロ選手たちは皆、紆余曲折を経て世界へはばたいています。そのプロセスには全ての人が参考にできる共通点があると思います。

 杉山愛選手が全仏オープン※1の決勝進出を果たした際に、私はTeam杉山の一員として同行していました。杉山選手は、勝利に向けて練習や調整方法を一から見直し改善を繰り返す中で、時には過去に積み上げたものを容赦なく取り壊して新しいものを作り出す勇気を持っていました。また、逃げ場のない孤独な戦いに耐え、勝利に執着する強い覚悟も備えていました。この状況を長年支えていたのは、後にコーチとなる母芙沙子さんの存在です。芙沙子さんは母として子どもとの距離感、コーチとして選手との距離感をとても大事にしながら、まさに親子二人三脚で女子テニスの世界一を目指していたのです。世界を代表するトッププレーヤーになった杉山選手が素晴らしい実績を残すことができたのは、全身全霊で応援する芙沙子さんの存在がある、と私はつくづく思いました。本人の熱意に対して親御さんがどれほどサポートできるかが、一流の選手への鍵になると言えるでしょう。

 プロ選手たちの勝利のニュースを見れば、誰でもその強さに圧倒されて自分とは遠い存在と感じるかもしれません。しかしそんな彼らでも世界一になるまでは数えきれないほどの「敗退」を経験しています。つまり、試合に負けた数が多いほど人は強くなれると考えます。私が現在帯同コーチを務める添田豪選手※2には「試合に負けた時こそ飛躍のチャンスだ」と声をかけています。勝負に敗れた時は、正に自分の課題を素直に受け入れられる大切な時です。一流選手への一歩を踏み出せるかどうかは、負けた時にその理由を考えられるか否かで大きく差がつくと言えるのです。

 では勝った時はどうでしょうか。これもまた物事を吸収できるチャンスの時です。「勝利」を味わえば、指導者の言うことを何でも聞き入れる柔軟さが選手の中には芽生えます。添田選手が勝った後には、特に苦しい練習を課します。負けた時なら「なぜ、こんなに辛いことを…」とめげてしまうことも、勝った時はのびのびとこなしていけるものなのです。一流の選手とは「負けから学び勝って自信をつける」ことを繰り返せる人と言えるでしょう。

 国際大会では、選手たちがジムで地道にトレーニングに励む姿も目にします。テレビ中継では決して映ることのないその舞台裏では、選手たちが実に千差万別のトレーニングを行っています。大切なことはそのトレーニング法を選手本人が「信じているか」ということです。トレーニングメニューがいかに科学的なものでも、選手が納得しなければ練習に身が入らず、何の効果も上がらないからです。「トレーニングは誰のためか」という問いに対して「自分のためなのだ」と言い切れること、それが一流の選手だと思います。

 将来の活躍が期待される選手には、スポンサーが支援をしてくださるケースもあります。まだ結果が十分に出ていない時に成長を期待してもらうのですから、選手にとっては非常に有り難い好機です。支援者の気持ちや企業が費やす時間や労力・資金に感謝し、最大限に活用し全力を尽くす責任が選手には課されます。日頃から「支援者の思いに応えたい」というその一途な思いを持ち続けられる人が一流の選手だと考えられます。

※1 テニスの4大国際大会であるグランドスラムの一つ。
※2 グランドスラム各大会への出場経験多数。2014年5月現在、全仏オープンに出場。

常に勝者の顔で

 テニススクールの教え子がシンガポールを離れる時、私の座右の銘である「常に勝者の顔で」という言葉を贈っています。子どもたちは、それぞれの目標に向けて日々頑張っています。だからこそ「苦しい時こそ良い顔で」「辛い時こそ元気に」と繰り返し伝えています。これは勝負の世界だけでなく、日々の生活 でも同じではないでしょうか。辛い時に顔を下に向けていれば、自ずとその落ち込んだ弱い心が伝わり、物事が好転するはずがありません。どんな状況でも全身で相手に負けない強い自分を見せる、そういう気持ちを表現しているのです。

 親御さんにできることは、子どもの心に寄り添い信じてあげることではないかと思います。 仮にお子さまにメンタル面で弱さが垣間見えたとしても、最後まで「この子は強さを秘めている」と勇気づけてあげて欲しいのです。また、 長年の指導の経験で、うまくいかなかった時こそ褒めることが効果を出すと確信しています。ここぞという勝負の場で実力を発揮できる「勝者」になるためには、努力するプロセスの中で日々前向きな精神を養うことが最も大切だと考えています。

 子どもたちが上をめざし「勝者」になるにはどうすればよいでしょうか。それには2種類の目標設定が有効だと考えています。一つは自分が夢見る大きな目標、もう一つは小さな目標の設定です。小さな目標では期限を定め、達成できれば新たな目標を設定します。もし目標が達成できない場合には、期限を見直します。この目標設定による成長のスパイラルが続けば、子ども自らが主体性をもって次の成長に進み、ついには真の「勝者の顔」になっていくと思います。

シンガポールの皆さんへ

 私は高校1年のとき交通事故で右脚に大けがを負いました。診断書に10種類以上の名称が並ぶような致命的な状況で絶望の縁に立たされたその時、不可能とも思える復帰計画をたてリハビリを支えてくれたのは当時のコーチとトレーナーでした。11 ヶ月間に及ぶ厳しいリハビリを経て体格が見違えるほど大きくなり、世界を目指す選手として奇跡的にテニスへの復帰も果たせました。人生にはどうしても抗うことのできない困難があります。しかし、それを乗り越えられるかどうかは自分が決めることだと、私は思います。

 シンガポールはテニスに適した常夏の地であるだけでなく、外国人との関わりから大きな刺激をもらい、テニスコートが常設のコンドミニアムでは毎日でもプレーすることが可能です。シンガポールにいることこそが、大きなチャンスではないでしょうか。

 スポーツを極めるために努力したことは、お子さまの将来に必ずや
笑顔をもたらしてくれるでしょう。

越智 亘(おち わたる) 氏

KSジュニア全国大会優勝、インターハイシングルス ベスト8、
全日本学生室内D準優勝、全日本学生D準優勝、全日本選手権
D ベスト8。
2007~08年 チーム杉山愛の一員として帯同、07年ユニバー
シアード日本コーチ、11年~現在 チーム添田豪の遠征帯同。
03年より現職

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