グローバル教育
三菱電機株式会社 役員理事 アジア代表 三菱電機アジア社社長 萩原 稔 氏

グローバル時代を迎えた今、企業が求める人材、教育とは何でしょうか。企業の担当者に聞きました。

御社は一般には家電製品のイメージが強いですが、重電システム、 電子部品、メカトロニクス、人工衛星と非常に広く手掛けられ ています。まずは海外における御社のご紹介からお願いします。

三菱電機は2020年度の2月に創立100周年を迎える総合電機メー カーです。事業内容は多岐にわたり、家電製品から人工衛星まで幅広い製品を取り扱っています。2013 年度の連結売上高は4 兆543 億円で、2020年度までに5兆円を達成する目標を掲げています。現在、海外売上高比率が約4割まで上昇しており、今後もさらにグローバルで事業を強化していきます。連結従業員数は約13万人、連結海外関係会社は約70社あります。このうちアジア・オセアニア地域には28拠点があり、日本からの出向者・研修生の280人を含めた約2万人の従業員がいます。

海外におけるアジアの比重は、今後もますます大きくなりますか。

現在、連結海外売上高のうちアジア・オセアニア地域は約20%を占めています。今後、連結売上高5兆円を目指す中でアジア重視の傾向は強く、さらに強化していこうと考えています。アジアの中間所得層をうまく取り込みながら、新興国を中心にインフラ整備も推進していきます。アジアの新興国には、まだまだインフラが整備されていないところも多く、また、未進出の地域にも新たに活動の場を広げていくことを視野に入れています。

シンガポールでは、日本製のIT機器や家電製品があまり目立たないようにも感じます。

量販店では価格が重視されるので、どうしても日本製以外の求めやすい低価格帯の製品が並びます。しかし、小売店・専門店では日本製を中心的に取り扱ってくれています。B to C(一般消費者向けの製品とサービス)も大切ですが、当社はB to B(企業向け製品とサービス)にも力を入れており、一見目立たないところで良い製品を送り出し、 社会に貢献しています。特に省エネ性能などの技術には力を入れており、全ての分野で環境に配慮した製品を製造しています。 具体的には2007年に制定した「環境ビジョン2021」に基づき、製品製造時はもちろん、エネルギー効率を高めた製品を世の中に供給することで、グループ全体で環境への負荷低減に取り組んでいます。アジアの工場では数値点検を定期的に行い、フィードバックをしながら改善を図っています。シンガポールの自社ビルも太陽光発電やLED照明を備えており、配線を工夫したり空調設備を省エネ性能の高い機器に更新しています。この結果、シンガポール政府から最高位の「グリーンマーク・プラチナ」をいただき、そのトップ10に入るプレミアム館となっています。

多国籍のスタッフを統括、マネージメントされる上でのご苦労 はありますか。

シンガポールでの事業では、11の国籍のスタッフがいます。世界の中でも特にアジアは、言葉、民族、宗教すべてにおいて多様性があります。大切なことは、それにどうやって対応するかということです。私はアジアで仕事をする際に「おごるな、ひるむな、堂々と」を合言葉にしています。人種・宗教差別をしないという意識は特に必要です。世界で活躍する日本人出向者へのアンケートからも、アジアで働くに は「倫理観」「脱偏見・脱先入観」「強い精神力と健康」が重要との声があがっています。 価値観を共有するための研修も行い、三菱電機の文化や存在意義を理解してもらうよう努めています。また、仕事においても一体感をもって取り組んでもらうため、環境をテーマにした歌※を作り共有することで、士気を高めています。かねてから大きなM&Aなどを実施せずに、コツコツとローカルスタッフを育成し、自分たちの手で企業文化を海外へ伝承してきたスタイルを継続しています。

職場が多国籍になっていることで、働く人にとってプラスの効 果はありますか。

非日本人であるローカルスタッフは、オンとオフの区別をしっかりつけており、家族と共に過ごす時間も長く家族思いだと感じます。「家庭」という安住の場があって良い仕事ができるということを改めて実感します。日本人社員も同じように感じるようで、働き方や家庭への意識が良い方向へ変化していると思います。 ローカルスタッフは、やはり日本人の仕事熱心でまじめなところに影響を受けるようです。日系ブランドの「品質の良さ」「サービス」が高く評価され、日本製品が好まれる理由もそのような日本人気質に由来していることを肌で感じていると思います。

今後、非日本人の管理職は増えますか。

管理職だけでなく、スタッフ全体における非日本人の割合を増やしていかなくてはなりません。これだけ海外で事業展開をしているので、日本人だけでは限界がありますし、ローカルスタッフがマネージメントできるよう育ってもらう必要があります。優秀な人材がいる場合、本社側と話をして現地の社長に昇格させる場合もあります。

 海外ではジョブホッピングも多いと聞きますが、御社の場合は いかがですか。

競争社会ですので、他社からの引き抜きはあります。しかし、「やはり三菱電機が良い」と一旦辞めてもまた戻ってくる場合もあります。グループ会社として強みを活かした人事をしていますので、辞めたいというスタッフが出た時にそれで終わらせるのではなく、同じグループ会社の中で活かせる場がないか再度検討する試みをしています。

日本での採用について教えてください。

三菱電機(単独)では2013年度で、大卒以上で約800名を採用しています。製造業なので技術系が多く、技術系が約600名、事務系が約200名です。出身大学や語学力で選別することはなく、その人の長所を見て幅広く採用しています。 求める人材は、広い知識を身につける素養のある人です。同時に何かに取り組む熱意、好奇心、やりとげようという強い意志も大切でしょう。個人的には、チャレンジ精神旺盛できちんとコミュニケーションがとれる人が良いと思います。 海外だから英語が大切というよりも、むしろ日本語がしっかり話せることが求められます。日本語を確立した上での英語力ということです。お子さまは、きちんと国語を勉強しておくことが大事だと思います。

御社のように家電製品から人工衛星まであらゆる製品を扱って いると、世界各国の現場の声を反映してものづくりに生かされ ていると思います。御社で活躍するために今の学生さんにアド バイスをお願いします。

まずは一つでもいいので「打ち込むもの」「これは人に負けない」という「強み」を見つけていただきたいです。そうすることよって大きな自信が芽生え、他のことにも挑戦してみようとプラスのスパイラルができていくと思います。また、豊かな「想像力」と「創造力」を養うためには、とにかく本を読むことでしょう。 私は日本人出向者を含む、三菱電機アジア社の従業員全員に3つの「本」の実践を提唱しています。それは「本を読もう、本気で取り組もう、本物を目指そう」です。英語では「3R」として “To Read widely” ”To be Responsible” “To be Real” と言っており、環境の「3R(Reduce、Reuse、Recycle)」と合わせて奨励しています。

読者である日本人のご家族にメッセージをお願いします。

まずは、きちんとした日本語を話せる教育をしていただきたいです。親子の会話が減っていると感じますので、テレビやパソコンに向かう時間を削って、親子の会話でコミュニケーション力をつけることが重要だと思います。 海外では、まるで仲良しクラブのように日本人同士が固まりがちですが、せっかくの機会ですので現地の方と仲良くなり、お互いの文化を学び合っていただきたいです。そうすることで、相手の文化や習慣を尊重する気持ちも出てくることでしょう。それは「リスク管理」にもつながります。現地で何か起こった際に、迅速に手を差し伸べてくれるのはやはり現地の方です。私の長年の海外経験からも「リスク管理は現地の人に負うところが大きい」と言えると思います。お子さまのためにも、ぜひ親御さんが勇気ある一歩を踏み出してください。   ※「環境をテーマにした歌」については下記サイトを参照。 http://www.MitsubishiElectric.com/eco/activities/environmentally-themed-song.html

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