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この人からエール

グローバルリーダー育成スクール 株式会社 igsZ 代表取締役社長 福原 正大 氏

2015.04.25

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自分を知り「哲学」を持つ ~日本の教育に求められる力とは~

はじめに

現在私は、Z 会と共同で設立した「グローバルリーダー育成スクール」igsZ を主催しています。国際金融の仕事を通して日本が置かれている切実な状況に危機感を抱き、「母国のために役立ちたい、教育こ そが未来への一歩」と心を動かされ、異業種から教育業界に転身しました。40 歳までの私は、日本の銀行員として、また世界最大の外資系資産運用会社の役員として、金融界に身を置きながら外から日本人を見つめ考える機会が多くありました。フランスのINSEAD※1 やグランゼコール ※ 2 での企業留学生時代、また国際会議への参加など、ひとたび世界に出てみると、「なぜ日本のエリートは世界で活躍できないのか」「なぜ日本の存在感は低下したのか」という疑問を強く感じるようになりました。

仕事や私的に出会った日本人たちは、非常に緻密かつ勤勉で、世界的に見ても優秀な人たちばかりでした。しかし、当時勤務していた外資系資産運用会社の CEO からは「国際的な学会や会議で日本人は非常におとなしく、顔が見える人は少ない」と 指摘を受け、交渉の場で不利な立場に追い込まれる日本の大企業も目の当たりにしました。国際連合などの国際機関で働く日本人職員数は拠出金と比較して少ないことも、周知の事実です。

私自身子育てをする保護者の一人として、国際金融舞台での経験や大学での教鞭、公立校の先生方への研修経験などを基に、将来を担う子どもたちのために「今、日本に必要な教育とは何か」をお話ししたいと思います。

自分の「哲学」を持つ

「グローバル人材の育成」という言葉を聞かない日はないくらい、「グローバル化」は今の日本で喫緊の課題です。では、グローバル人材として活躍する上で核心となる資質は一体何でしょうか。

世界の公用語である英語でのコミュニケーションスキルだ、と考える人もいるかもしれません。現に大学入試改革に伴い 2021 年の春入学から英語試験が見直され、「読む、聞く、書く、話す」という 4 つの技能が問われるようになります。TOEFL など外部試験の活用も、一部の大学では決まっています。また小学校 3 年生から英語が必修化され、 中学校や高校では英語で授業を行うことを基本とする見通しで、英語の重要性が高まる動きは顕著です。

英語でのコミュニケーション力は確かに必要な一つのスキルです が、国内外を問わずリーダーシップを発揮している人たちには、語学力よりはるかに重要だと思われるもっと根本的な共通した姿勢が存在するように思います。

その姿勢とは、母国を知るということも含めて「自分を知る」こと。 自己に対する深い思考と理解に基づき生き方を構築しているということです。自分を見つめた上で確固たる価値観とぶれない軸を築く、 言い換えれば、自分なりの「哲学」を持っていることが世界のリーダーに共通する重要な資質なのです。自分の「哲学」を持ち、しっかりとした軸に支えられている人はどんな環境にも対応でき、日本だけでなく世界のどこに行っても活躍し、存在感を発揮することができるのです。

では、「自己を形づくる軸」はどうすれば築くことができるでしょうか。

知識を「軸」に変える思考力

世界各国の教育システムを比較すると、日本の教育の強みは基礎知識をきちんと身に付けさせることにあると感じます。「基礎」が無ければアウトプットはできませんから、この点において優れた教育体系が持つ強みを、今後も大切にしたいものです。その一方、「重箱の隅をつつく」レベルまで知識を学ぼうとすると、知識習得だけに終わってしまい、その知識を活用してどう思考していくのか、という肝心な部分がおろそかになってしまいます。

豊富な知識を自らの血肉とし、「自己を形づくる軸」へと昇華させるには、十分に咀嚼(そしゃく)した知識を自分の考えへと再構築するプロセスが必要です。私自身、この再構築の過程を十分に経ていなかった事実を、日本の組織を離れ海外のトップスクールやグローバルカンパニーに身を置いた時に初めて突きつけられました。日本人が得意とする「知識を蓄える」作業と同時に、「知識を材料に考え抜く」作業を意識的に繰り返すことで、人生を大きく切り拓く糧を得ることができると感じます。

世界の名門大学の入試問題を見ると、思考を重視する姿勢をはっきりと打ち出していることがわかります。例えば、ハーバード大学ロー スクールの 2012 年入試における小論文では、「あなた自身(あなたの背景、考えなど)について書きなさい」という課題が出題されました。 一見非常にシンプルですが、ここで問われているのは「あなたはどんな人間なのか、どのような価値観、信条を持っているのか」ということであり、受験者は深い洞察力と思考力をもって自分について分析し、論理的に説明することが求められます。

この思考重視の学びは、大学入学後も続きます。知識を蓄積するだけでなく、哲学の古典から「認識」「国家」「自由」「経済」といったさまざまなジャンルについて思想家の考えを学びます。そして何よりも「自分はどう考えるのか」を周りのクラスメートと議論を重ねながら明確にし、さらに深い思考力を養っていくのです。

日本の教育でもこのように本質的な物事に関して一つずつ思考を突き詰めることこそが、今、まさに求められているのだと思います。

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