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この人からエール

新春特別対談「これからの日本の教育」

2017.01.10

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Springでは創刊以来、新しい教育の形をさまざまな角度から取材・発信してまいりました。今回編集部では、文部科学大臣を歴任された衆議院議員下村博文氏と、日本の国際教育に尽力されている東京インターナショナルスクール理事長 坪谷ニュウエル郁子氏のお二人に単独取材をしました。

2017年の幕開けに、これからの日本の教育の展望と、今後の教育に私たちがどう向き合うべきかをお聞きしました。

新春特別対談「これからの日本の教育」

衆議院議員 下村 博文 氏

平成8年 衆議院総選挙にて初当選。24年 第二次安倍内閣に文部科学大臣兼教育再生担当大臣として初入閣。25年 新設されたオリンピック・パラリンピック担当大臣を兼任。26年 第三次安倍内閣で文部科学大臣に再任。28年 自民党幹事長代行・自民党東京都連会長。あしなが育英会副会長歴任。

東京インターナショナルスクール理事長 坪谷 ニュウエル 郁子 氏

平成7年 東京インターナショナルスクール理事長就任。12年 NPOインターナショナルセカンダリースクールを設立、理事長就任。24年 国際バカロレア(IB)機構アジア太平洋地区委員会委員に就任。26年「世界で生きる教育推進支援財団」を設立、代表理事に就任。27年より内閣府教育再生実行会議委員。

取材は2016年11月に行われました。

明治維新以来の「教育」が通用しない今

坪谷氏(以下敬称略):下村先生は文部科学大臣在任中、明治維新以来の大きな「教育改革」を手がけられました。その改革の概要と、これから日本が必要とする教育についてのお考えをお聞かせください。

下村氏(以下敬称略):Springの読者は、主に海外で暮らしている日本人の方ですね。そういう皆さんが一番よくわかっていらっしゃると思いますが、現在に至る日本の教育は、明治から始まった近代工業化と富国強兵、そして戦後の高度経済成長を支える人材育成が目標でした。グローバル化の波が押し寄せ世界がボーダレス化する現在、これまでの教育が通用しないことは、皆さんも感じていることでしょう。

司馬遼太郎氏が書かれた「坂の上の雲」に象徴されるような、西洋に追いつこうと近代化を推し進める時代の教育は、一人ひとりが与えられたことをインプットし、情報として覚えるのが教育の柱でした。しかし、その時代に成功した教育は、もはや通用しなくなっています。これまでの延長線上の小手先の修正では、21世紀に必要とされる人材は育ちません。一人ひとりがアイデンティティーを確立しながら、その人の思考力、判断力、表現力、そしてコミュニケーション能力を持たなければ、国際舞台では通用しない時代になったからです。この大きな転換期を迎え、それらの能力を身につけるための新しい教育改革を、文部科学大臣の時から手がけています。

フィールドは「地球全体」

坪谷:この大きな改革をきっかけに、一人ひとりの特性にあった教育が実現できることが理想だと感じます。すべての子どもたちが進学する目的もないまま偏差値に合う大学を目指すのではなく、その子の特性にあった進路選択がしやすい教育を実現することが大切だと思います。

日本は現在「グローバル人材」の育成が喫緊の課題ですが、この言葉の意味を、どのようにお考えでしょうか。

衆議院議員 下村 博文 氏下村:「英語ができればグローバル人材」と考えている人がいるとしたら、それは大間違いだということを、既に海外で生活されている皆さんはお気づきでしょう。言語はツールなので身につける必要があります。しかしもっと大切なのは、どこに行っても地域の人たちとコミュニケーションが取れ、自分という存在が認められ、その地で生きているという実感が持てることです。

これから日本企業はますます海外展開をしていきます。突然どこかの国に赴任を命ぜられることも少なくないでしょう。そんな時に、自分は日本でしか仕事ができないというのでは、能力の限界を自分で作っているのと同じです。フィールドは「地球全体」、どこでも新しいことにチャレンジしながら生きていけることが、その人の持つ能力をさらに伸ばし、新たな「生きがい」や「やりがい」をつかむチャンスにつながります。

つまり「グローバル人材」とは、「自分の気持ちや能力に限界を設けず、どこでも生きていける強い精神性を持つ人」であり、それを実際に実行できる人が、本当の意味での「グローバル人材」だと思います。

「英語を話す人=グローバル人材」ではない

坪谷:英語ができてパソコンを片手に世界中を駆け巡る人を「グローバル人材」だとイメージする方が多いようですが、英語が話せるからグローバル人材と言うのでは、英語が母国語の人は皆グローバル人材ということになってしまいます。これから東京オリンピックに向けて、自動通訳機が活用されるとも聞いています。下村先生がおっしゃる通り、英語が話せるだけでは十分でなく、異なる意見の人にも信念を持って交渉し共にゴールに向かえるような実行力を備えた人が、世界中でどこでも生きていける「グローバル人材」である、と私も考えます。

日本の教育改革が叫ばれる一方で、日本の教育には優れた点もたくさんあると感じます。特に「基礎学力が高い」点は、世界に誇れる素晴らしい一面です。日本の教育の「強み」と日本の教育が抱えている「課題」について、ご意見をお聞かせください。

日本の教育の「優れている点」

下村:「自分は幸せだ」と感じている子どもが世界で一番多いのはオランダだそうで、以前視察に行ったことがあります。オランダには、生徒が200人集まれば学校を創らなくてはならないという決まりがあり、教育や学校設立の自由が保証されています。そのため、子どもたちがのびのびと教えられており、だからこそ子どもたちが幸せを感じているのだと思います。

一方でオランダでも課題はあります。具体的には、学校生活に集団生活を円滑にし、皆で仲良く過ごすための「道徳的な力を養う場」が限られているのです。日本の学校における清掃や給食当番などがそれに当たります。オランダでは清掃は子どもたちの役目ではなく業者が担い、給食当番もありません。そこで、この点ではむしろ日本の教育を参考にしたいと考えているようです。このように、日本の教育現場には、集団生活の中で求められる道徳的な力をしっかり育むノウハウが確立されており、それこそが日本の教育の優れた点であると感じます。

東京インターナショナルスクール理事長 坪谷 ニュウエル 郁子 氏坪谷:日本の「民度の高さ」は世界に誇れる気質だと思います。東日本大震災の後は、暴動が起きるどころか皆が文句を言わずにきちんと列をなして待ち、世界に驚きと感動を与えました。ワールドカップでも、日本のサポーターが帰った後だけ、ゴミがなくきれいにされていると賞賛されています。このような「利他的」な精神や慣習は、学校内の特別活動や学級活動といった机上の学び以外で自然に養われており、改めて日本の教育の優れた一面だと感じます。このような資質を持った人々が世界で活躍の場を広げることができれば、「世界平和の実現」へ大きく近づくに違いありません。

日本の子どもたちの多くは「自分に対する自信があまりない」というデータが出ています。なぜ日本の子どもたちがそう感じるのか、どうすれば改善できるのでしょうか。

日本の若い人たちが「自信」を持つには

下村:日本の20歳以下の若い人たちはデフレ経済のもとで育ち、「これから更に経済状況が悪くなるのではないか」というデフレマインドに陥っている傾向があるように思います。つまり自分たちが大人になった時に、未来が良くなるとは思っていないのです。これは日本に限らず、先進諸国であればどこの国にも見られる現象です。実際に、アメリカでトランプ氏が当選したことも「アメリカンドリームをもう一度復活させたい」というアメリカ国民の強い願いの表れと理解できます。

未来に夢も希望も感じられない、その上、教育においては画一均一の学校教育が未だに行われ、世界で伍していくにしても自信を持てないまま大人になってしまう。これは正に日本の負の側面と言えるでしょう。

将来幸せな生活が送れないのではないかという不安感が、結果的に子どもたちの自己肯定感のなさにもつながっていると考えられます。これは子どもの責任というよりも、むしろ日本社会の反映であり、将来が見通せないという現実の表れでもあると思います。それぞれが「社会の中で夢や希望を実現できる」「社会全体が良くなっていく」という気概を持てる社会にしていくことが、日本の将来を担う子どもたちにとって必要なことだと強く思います。

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