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この人からエール

海城中学高等学校 校長 柴田 澄雄 氏

2017.06.23

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主体的な学びを通して「人間総合力」を育む

はじめに

教育は「不易流行」だと言われます。時代が変わり世の中が変遷しても変わらないもの「不易」は人間としての「生き方」に通じるものであり、時代が要請する「流行」は養うべき資質能力を指しています。子育ての在り方とは、正に「不易流行」を見極め、お子さんをその子にとってふさわしい方向に導いていくことでないかと思います。

現在私は、約40年にわたり培った国際ビジネスの経験と大学で教鞭をとった経験のシナジー(相乗効果)を海城の教育に活かしたい、と毎日わくわくしながら意気込んでいます。国際社会で羽ばたけるグローバルリーダーの育成について、私の教育観をお話ししましょう。

海城中学高等学校 校長 柴田 澄雄 氏

海城中学高等学校 校長 柴田 澄雄 氏

実践すべきは「アクティブ・ラーニング (主体的な学び) 」

日本の教育は戦後最大の変革期を迎え、英語学習の早期化や大学入学共通テスト(仮称)などが議論されています。そのような中、日本の教育がまず取り入れるべき点は、自らが楽しく「主体的に学ぶ」姿勢だと思います。「主体的な人間」を要請する声は、産業界からもあります。

周りから言われるのではなく自らの意志によって学ぶことで、子どものモチベーションは何倍も何十倍も高まります。そして子どもは未知なる世界に対して外に「開かれていく感覚」を覚え、ますます学ぶ好奇心が駆り立てられ積極的になっていくのです。

一般にアクティブ・ラーニングは大学入試には繋がらない、と考えられがちですが、私はむしろ逆ではないかと思います。なぜなら、自主的に目標を掲げ自分を鼓舞しながら目標に立ち向かうことで各教科を学ぶモチベーションもぐんぐん上がり、その姿勢は正に受験にも大いに活かされていくからです。

日頃本校の生徒たちにも、常に「君だったらどう考える?君だったらどう行動する?」と疑問を投げかけ、主体的に学ぶことの大切さを説いています。今年は「KSプロジェクト」という課外講座を立ち上げ、生徒のとんがった興味や関心に応じるために、さまざまな講座を開設します。いわゆる理科や数学という科目の垣根を外し、自然科学と社会人文科学を融合させるようなプラットフォームの形成です。そこで生徒たちは通常の授業の枠には収まらない関心ごとを率先して学び、学外の活動やフィールドワークでチャレンジしていきます。自分がやりたいことに挑戦するからこそ湧いてくる集中力にも期待しています。

思春期のお子さんと親御さんへのアドバイス

中学生になると、子どもたちは本格的な思春期・反抗期に入ります。それまでは、親や教師は絶対的・完璧な存在でしたが、思春期に入るとその見方は一変し、親や教師の存在が不完全で色あせて見えるようになります。自分の理想像を追い求めるがあまり惑い悩み、その心情は時には投げやりな発言や無謀な行動となって周囲に向けられるのです。もちろん個人差はありますが、このようなプロセスを経て人は自立し、一人の独立した個人に育っていくものです。

お子さんにそのような兆候が現れた時は、ある程度距離をもって一人の「人」としてしっかり見守ることが必要でしょう。さりげなく子どもの悩みを聞いてあげたり、成長に合わせて自分の経験を親御さんの立場で話してあげることが大切です。親御さんとしても完璧でない自分をさらし、ストレートに等身大の姿を見せていくことが、お子さんとの距離を縮める近道だと感じます。

この時期、お子さんにはぜひ自分が苦手だと思っていること、やったことのないことに「目的意識」を持って挑戦していただきたいと思います。目標に向かって自分の力を出し切る経験を繰り返し積み重ねれば、その履歴として生まれる「自己信頼」が、その後の人生において確固たる軸になります。

「目標を見つける」と言葉で言うのは簡単ですが、実際には目標が見つけられずに模索しているお子さんもいらっしゃることでしょう。その大きな足がかりとなるのは、やはり「読書」ではないかと思います。本を通して過去の人が悩んだことも含め、自分の判断基準を広げていくことはとても意味深いものです。

現代の子どもは、本を読む習慣が明らかに減っており、とても残念なことだと思います。お子さんの多くはインターネットからの情報に頼っています。そこで得られる情報は、ショートカットをして手間が省ける一方で、結論が早く出すぎて読書で広がる世界とは大きく異なります。中高の6年間には多くの本に触れ、自分で考える機会を増やしていただきたいと思います。

「グローバルリーダー」の資質とは

グローバル化が進む中で必須の資質は、文化や価値が異なる人同士でも相互に尊敬し合うことができる精神的な強さと、それを前提にした「人間総合力」です。私が考える「人間総合力」とは、具体的に次の3つの力だと考えています。

1つ目は「やり抜く力」。つまり途中で投げ出さず、最後まで自分で結果を出すことです。グローバルな環境では、いくら努力をしたとしても結果が出せなければ認められません。どんな小さなことでも、自分で「起承転結」の「結」まできちんとやり抜く力が必要だと感じます。

2つ目は「解決する能力」。インターネットが発達している現代、世界中で情報が瞬時に行き交い、世界の至る所で未曾有の問題が生じています。その解決策を過去の事例だけに習うことは難しく、自ら課題を設定し解決する力が求められています。解なき問いにさえも、自分で解決策を見出す力が必要なのです。

3つ目は「繋がる力」です。これからの社会では、異質な人間同士が関わり、お互いを認め合いながら高いパフォーマンスを生み出していく、共生・協働の力が求められます。あらゆる価値観に多様性が求められる中で、さまざまな人々と「繋がる力」がますます重んじられるのです。本校の生徒は、小学校から受験を最優先にしてきた子が多く、テストの点などで人と比較することに慣れています。もちろんその気持ちは必要ですが、中高の6年間では、比較しがちな気持ちを解きほぐし「繋がる」ことを学んで欲しいと思っています。世界中の人とSNSで手軽に通じ合うことができる現代だからこそ、大切なのはやはり対面でしっかり繋がることです。この6年間で人生の財産とも言える「真の友人」を作り、生涯にわたり心を通わすことのできる人間関係を構築してくれることを願っています。

枠にとらわれない生き方を

私が教鞭をとっていた大学は日本の中では個性的で、4年間で卒業する学生はおよそ半分でした。この比率はアメリカのハーバード大学と同じくらいです。4年で卒業する人が大半の日本の一般的な大学からすると異例ですが、事情はさまざまで、成績が悪く卒業できない人もいれば、自分の専門分野をもっと学びたいと自ら望んで留年をする人もいました。

そのきっかけとなるのが、卒業条件にある1年間の海外留学です。留学先では、世界中の学生と肩を並べて学ぶ機会を得ます。そこで初めて自分たちがいかに勉強していなかったか、読書量が少なかったかに唖然とすることが多いのです。現地で目覚め、学ぶ意欲を駆り立てられた学生は、帰国後自分のやりたい学問をより深く極め、もう一年学ぶというケースがほとんどでした。

大学を4年で卒業することにこだわる背景には、就職活動があるでしょう。しかし、大学時代に海外に赴き国際教養をしっかりと身につけていれば、大学生活が4年間だろうがそれ以上だろうが、あまり心配することはないと感じます。一般的な枠にとらわれない生き方で本質を見つめられれば、就職試験のときにも、社会に出てからも自分の考えを自分の言葉でしっかり語れるのではないでしょうか。

海外で暮らすご家族へのメッセージ

英語の授業の様子

英語の授業の様子

私自身、海外に駐在して感じたことは、海外生活で一番大切なことは「家族の絆」を強くするということです。ご家族が一緒に異文化や異言語の中で、厳しい壁を乗り越えた協働体験は、必ずやその後の苦しみや困難を乗り越える力、家族としての団結力に繋がっていきます。親御さんには海外生活を自ら楽しみ、何ごともポジティブに取り組む余裕を持っていただきたいと思います。その姿を見れば、お子さん自身も海外生活を楽しみ、現地の人たちとの交流や異業種の家族との輪が広がっていくに違いありません。

最後になりましたが、私は日本の学校と外国の学校の違いを考えることがよくあります。前者は「正しいこと」を教えてもらう場所、後者は「何が正しいか」をじっくり考える場所であるように思います。皆さんにはぜひ、貴重な海外生活を通して、この両者の良さを肌で感じ、今後の人生に生かしていただきたいと思います。

柴田 澄雄 氏

1973年早稲田大学政経学部経済学科卒業。三菱商事入社。
韓国、サウジアラビア、タイなど15年以上にわたり海外に駐在。
2012年 国際教養大学 東アジア調査研究センター特任教授。
15年4月より現職。

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