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企業からの声

三菱重工業株式会社 執行役員 前アジア・パシフィック総代表兼インド総代表 小林 繁久 氏

2017.09.25

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この試練は超えられるからこそ神様が与えたのだ
誰にでも苦しい時はありますが、神様は超えられない試練は与えないと信じています。辛く苦しい時にこそ自分を奮い立たせ、落ち込むのではなく、ポジティブに挑むタフなメンタルを持つことが大切です。

グローバル時代を迎えた今、企業が求める人材、教育とは何でしょうか。企業の方からお話をうかがいました。

Q. エネルギー・環境、交通・輸送、防衛・宇宙、機械・設備システムなど御社の提供する製品は社会が発展するためのプラットフォームには欠かせない存在です。明治以来、日本の産業発展とインフラ整備に貢献してきた御社の企業価値は、アジアでどのように発揮・展開されているのでしょうか。

三菱重工業株式会社 執行役員 前アジア・パシフィック総代表兼インド総代表 小林 繁久 氏

当社の歴史は古く明治17年(1884年)までさかのぼります。三菱の創業者岩崎彌太郎が政府から長崎造船局を借り受け、本格的に造船事業を開始したのが始まりです。その後、発電設備、各種プラント、産業機械、航空機等を加え、 日本の近代化と共に歩んできました。創立以来、時代に先駆けた新しい「ものづくり」に挑戦しながら、人々の暮らしを支えるさまざまな製品を提供し、社会の発展に貢献しています。

皆さまに馴染みのある製品として、日本では、ゆりかもめなどの全自動無人運転車両(AGT)や2008年に正式に事業化を決定した国産の旅客機であるMRJ(Mitsubishi Regional Jet)、湘南モノレールなどがあります。シンガポールでは、シンガポールフライヤーやチャンギ空港のスカイトレイン、そしてERP(Electronic Road Pricing)やEPS(Electronic Parking System)が挙げられます。昨年4月に契約を結んだ「ERP2」はシンガポールの会社とパートナーシップを組み取り組んでいます。GPSを使用し衛星とのやり取りで課金される次世代システムで、区間も時間も自由に設定でき、走行距離によって課金できるメリットがあります。当地は車の通行管理をAI(人工知能)で行うなど、他国に先駆けて一歩進んだものを取り入れることが多く、世界のショーケース的な存在となっています。

Q. 「この星にたしかな未来を」という企業理念に表現されている通り、御社にとっての海外事業は社業の根幹を形成する重要事業だと思います。その海外でマネージメントをする上での難しさは何でしょうか。また、どのような点に工夫されていますか。

現在、当社は世界44ヵ国 ・地域に拠点があります。シンガポールはアジア・パシフィック地域の統括会社として約180名のスタッフがおり、そのうち約50名が日本人です。海外展開で心がけていることは、現地の人と「協働」で取り組む姿勢です。現地に精通しているのは当然現地の会社ですから、一緒にビジネスを行うことで「現地の強みと我々の技術の強みのマッチング」が図りやすくなるからです。当社のグループでは、地域によってはCEOが当地の人という会社もあり、また、その国の人だけでオペレーションしている会社もあります。

私は入社以来化学プラントに携わっており、海外では中東や南米などの家族帯同も難しいような過酷な環境で、多くの経験をしてきました。カタールの海底油田プロジェクトに始まり、イランイラク戦争の最中には、イラクでジェット戦闘機が飛んでくるようなところで仕事をしたり、ベネズエラでは銃撃戦が頻繁に勃発するようなところでプラントを建設しました。インドでは何もないところから会社を立ち上げています。国によっては、現地の方のみならず第三国人がたくさんいますから、次第に仲間がどこの国の人であるかは意識しなくなっていました。

しかしその一方で、多国籍のスタッフがいる場合は、「文化の違い」への配慮が何よりも重要だと感じます。日本の教育は「平等」を重んじ、「自分のことは自分で行う」ことを良しとします。しかし、国によっては必ずしもそれが当てはまらない場合もあるということを忘れてはいけません。例えば私が駐在していたインドでは、階級に応じて携わる仕事が区別されています。ある時、デスクの前に地図を貼りたくてオフィスボーイに頼んだことがありました。しかし、何度やり直してもらってもまっすぐに貼れません。我慢できず自分で直そうとしたのですが、人前でそうしてしまうと、私の会長(当時)というポジションがオフィスボーイと同じ扱いになってしまうと言われ周囲から止められました。結局、日曜日にこっそり自分で直しましたが、日本では当たり前とされる「自分のことは自分でやる」という価値観は、ところ変わればそうしてはいけない文化もあるということを、この時目の当たりにしたのです。
 
海外マネージメントで工夫している点は、「いつまでに何をするか」をはっきり示し、会社としての「マニュアルと仕組み」をつくることです。この2つが確立できていれば、言葉はどうにかなるものです。私はアジア・パシフィック地域の総代表として、シンガポールだけではなくASEAN10ヵ国とオセアニア、バングラデシュを担当しながらインド総代表も兼ねており、計14ヵ国をカバーしています。現地では一人ひとりの権限をはっきり規定し、どこまでは裁量があり、どこからは取締役会にあげるべきだという仕組みをしっかり確立しています。ですから、例えばインドの会社においてはCEOもオペレーションもインド人ですが、私は出張として行くだけで普段は遠隔管理ができています。

Q. 海外勤務では予想もできないような困難な局面に遭遇することもあると思います。御社が求めている人材について、教えてください。

三菱重工グループは多様な経歴、国籍、文化を持つ8万人以上のスタッフからなるグローバルカンパニーです。持続的に成長し続けるために、社員は信頼され、変化を恐れずに新たな課題や試練に立ち向かわなければなりません。

必要なメンタリティーは主に2つで、「チャレンジングスピリット」と「ポジティブに考える習慣」です。失敗を恐れずに果敢に挑み、「どんなに失敗してもこの世の終わりではない」というくらいの覚悟をもって決断することは、いかなる状況下でも求められます。

イギリスのウィンストン・チャーチル首相の言葉で、正にこれだ、と心に響き書き留めている言葉があります。「悲観主義者はあらゆる機会の中に困難を見出す。楽観主義者はあらゆる困難の中に機会を見出す。A pessimist sees the difficulty in every opportunity. An optimist sees the opportunity in every difficulty.」

誰にでも苦しい時はありますが、神様は超えられない試練は与えないと信じています。辛く苦しい時にこそ「この試練は超えられるからこそ神様が与えたのだ」と自分を奮い立たせ、落ち込むのではなく、ポジティブに挑むタフな精神力を持つことが大切です。

「挑戦」するなら、エネルギーがあって怖いもの知らずな若いうちが良いですね。人はある程度年を重ねてくると変なプライドも出て、こんなことを訊いたら恥ずかしいのでは、など余念が入るものです。若い時は知らなくて当たり前で恐れるものは何もありません。失敗することは怖いことではなく、早くに失敗してその経験から学び、より高度な仕事に結びつけることができるよう、若手の社員を導いています。「かわいい子には旅をさせよ」と言いますが、若いうちにこそさまざまなことに挑戦し、敢えて厳しい環境の中で自分の力を試していくことに大きな意味を持つことは、子育てでも職場でも共通ではないでしょうか。

Q. 海外で暮らす日本人のご家族に、メッセージをお願いします。

現代の若者は、「打たれ弱くなっている」とか「内向き志向」などと言われていますが、家庭教育を通して、親御さんが子どもに積極的に挑戦させ、失敗や打たれた経験から学ぶように導くことは可能だと思います。

親御さんの中には子離れができず、お子さんにまつわることは全て親御さんの意図で決めたくなることもあるでしょう。大切なのは「子どもの人生は親のものではなく、子どものものである」と理解することだと思います。私も3人の子どもを育てましたが、小学3〜4年生の自我が芽生えた頃から、上の子も下の子も男女の差もなく分け隔てなく平等に接し、進学先を含め全て自分たちで決めなさい、と言い続けてきました。

海外にいると、お子さんと接する時間は日本にいる時よりも多くなると思います。せっかくの機会ですから親御さんにはぜひ「家庭と仕事を両立」し、お子さんと少しでも多く触れ合っていただきたいと思います。

(この取材は2017年1月に行われました)

小林 繁久 氏

1978年 三菱重工業株式会社入社 化学プラント事業本部 機械事業本部、機械・鉄構事業本部を経て11年 MHI Engineering Industrial and Projects India Pvt. Ltd.取締役兼会長。
2014年 執行役員アジア・パシフィック総代表兼 インド総代表 兼 Mitsubishi Heavy Industries Asia Pacific Pte. Ltd. 会長(16年より社長兼会長)
2017年より執行役員インダストリー&社会基盤ドメイン エンジニアリング本部長

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