グローバル教育
茗溪学園中学校高等学校 校長 田代 淳一 氏

「海外生受け入れ39年」の伝統校として

はじめに

私は、「教育」とは子どもたちに生きる力と希望、勇気を与え、人生を豊かにする行為だと考えています。本校が導入している国際バカロレア(IB)の教育方針でもあるように、一人ひとりの生徒がその子らしい生き方を見つけ、その行動を通して世界を平和にすることが、究極の目標になっていくべきでしょう。

本校は、知育偏重の中等教育批判に応える取り組みをする「教育実験校」として、筑波大学の同窓会「茗渓会」によって創設されました。時代や環境の変化に応じて形を変えながらも社会で活躍するのに十分な力を確実に身につける教育を、私立学校という自由な立場から大胆に展開しています。

オンライン講座やホームスクーリングなど「知識を得るためだけなら学校に行かなくても良い」という考え方も起こりつつある昨今、私は「あえて学校という場所に集まって学ぶ意味は何か」という大きな問いにしっかり答える学校づくりを目指しています。

茗溪学園中学校高等学校 校長 田代 淳一 氏

「発言」も「作文」も褒めて伸ばす

海外にお住まいの方であれば、何気ない日常生活の中でも、日本人の「発言力」の弱さに直面したことがある方もいらっしゃるでしょう。例えば現地校やインター校で先生が答えを求めた場合、日本人のお子さんは答えがわかっていても手をあげませんが、欧米人のお子さんは、答えがわからなくてもまずは手をあげて発言権を得ようとします。なぜ日本人は率先して発言をしないのかと、教育者の立場から考察すると、発言をして「良かった」と思えた経験がなく、むしろ意見を言ったことで「不愉快になった」経験が多いからではないかと思います。実際に、私がアメリカの小学校に見学に行った際には 、先生が生徒の発言にしっかりと耳を傾け、「いい発言だね」「全くその通りだよね」とよく褒め丁寧に返答している姿があり、衝撃を受けました。発言した子どもは褒められ認められたことが嬉しくなり、また発言したくなる、この良いスパイラルが、教育現場全体に浸透していたのです。

同じような問題を、日本の「作文」においても感じています。小学校の夏休みの宿題として馴染みがありますが、総じて「作文」が嫌いな子どもたちが多いのが現実です。とにかく「心に感じるまま、思うまま」に書くように言われますが、それはとても難しいことです。欧米では「エッセイ」が根幹にあり、入学試験に必ず課される大事な能力とされています。そのため、小学校の頃から自分の考えを論理的に書くトレーニングを行っています。そしてそこでも、教師や親御さんは考えを表明したことに対し、大変よく褒めているのです。

つまり「発言」でも「作文」でも、子どもが自分の考えを「表明したこと」自体をしっかりと褒めていく習慣があれば、お子さんは積極的になれると疑いません。そして当然のことながら、このような環境で育った子どもは、自然と自分の考えと「自分自身」にも自信が持てるようになります。これは非常に大切なことだと思います。

「海外生受け入れ39年」の伝統校として~茗溪型IBDPとは~

本校の海外生受け入れの歴史は古く、開校以来39年間、一貫して海外生を受け入れてきました。世界各国から集まる海外生が本校のダイナミズムを築き、「人と違うこと」を武器に、生徒一人ひとりの目的に合った居場所が必ず存在しています。

私が考えるグローバル人材の資質とは、正に「自信を持って自分の考えを表明できること」です。それゆえ、授業では教員一人ひとりに生徒としっかり向き合い、対話を重視するよう指示しています。また、生徒が主体的に活躍する行事やフィールドワークを中心とした本物に触れるカリキュラムが豊富にあるため、生徒は自然に自分の意見をしっかり持ち、日本人が苦手とする「発信力」が確実に養われています。生徒いわく「何もない日は一日もない」、そんな変化に富んだ校風が存在するのです。

本校では、グローバル教育促進の位置付けとして、昨年4月に国際バカロレア・ディプロマプログラム(IBDP)を開講しました。IB教育の先駆的存在であるUnited World College(UWC)に、これまで50名を超える生徒を奨学留学生として送り出してきた経験からも 、IB教育と本校の教育の親和性の高さは認識されていました。世界的に評価が高いIBを日本語で導入することで、日・英両言語で質の高いバイリンガル教育が可能となり、建学の理念である、人類や国家に貢献しうる「世界的日本人」を育成するという責任を、確実に果たせると確信しています。

日本語IBの導入は、IBクラスだけでなく学校全体としても大変意味が大きいと感じています。最終的に全教員がIB資格を取得することで「発問」の内容を工夫したり、生徒の発言を授業の議論につなげていく教授法を、中学や高校の普通クラスの全授業で展開できます。 

このように「日本の教育」「茗溪の教育」そして「IB教育」それぞれの長所を融合するという新たな挑戦をしながら、日本人が養うべき資質を育み、挑戦者の気概を持つ生徒たちとともに、次世代に通じる「学び舎」としてさらに進化していきます。

卒業生に見る「まずはやってみる」メンタリティー

本校の生徒・卒業生は、6年間の過程で培った「自信」と「勇気」から、ピンチでも何とかするという「逆境に強いメンタリティー」が備わっています。グループで取り組む数々の行事を通して、皆で目標を立て作り上げていくことに抵抗感はなく、失敗しながらも達成感を得ていくタフな心があるからです。「まずはやってみます」というような突撃隊長タイプが多いのが特徴と言えるでしょう。

以前、説明会をした際に恰幅の良い初老の男性がいらっしゃいました。てっきりお孫さんの受験相談にいらしたのかと思いましたが、そうではありませんでした。何でも、経営されている会社に意気の良い若手社員がいて、困難を伴う新たなプロジェクトでも「まずはやってみます!」という責めの姿勢が目を引いたそうです。ある時、他の支社にも似たような社員がいることが分かり、その二人が同じ高校出身だということが判明したのだそうです。その理由を探りに、本校の説明会にいらしたのでした。

このような姿勢は学歴に関係なく、これからの社会でますます求められてくると信じて疑いません。情報社会の更なるネットワーク化が進み、人との接点がなくても普通の生活が送れる時代はそう遠くはないでしょう。しかし、そのような時代だからこそ、人同士が関わり活動することに改めて大きな価値が見出されていくからです。

海外で暮らすご家族へのメッセージ

私から一つアドバイスをさせていただくなら、ぜひとも「文章力」を育んでください、とお伝えしたいです。世の中はIT化が進み、お互いのやり取りもメールやSNSでの短文で済んでしまいます。しかしこのような世の中だからこそ、きちんとした日本語でアカデミックな文章が書ける力が意味を持ち、ますます求められていきます。「文章力」がある人とない人とでは、社会人としての評価、さらには職種も変わると言っても過言ではないでしょう。今後、正確な文章が読めて書ける人が社会で活躍できる傾向は、ますます顕著になるに違いありません。皆さんには海外生活を通して、日本語・外国語どちらにおいてもしっかりした「文章力」を身につけていただきたいと思います。そして、ご帰国時に学校選択をされる際は、ぜひ「書かせるプログラム」を多く持っている学校を選ばれることをおすすめします。

私が海外で説明会をする時はいつも、「海外で暮らしている皆さんが本当にうらやましいです」とお伝えしています。グローバル化に伴い、英語力をつけることは避けては通れない喫緊の課題です。国内でその重要性を認識しているご家庭では、子どもに海外で学習させる機会を模索しています。英会話教室や短期の英語集中プログラムに行かせたとしても、とても、海外生の経験に及ぶものではありません。シンガポールであれば、近隣諸国でサマースクールに参加するなど新たな経験を積むことも容易でしょう。異なる文化・さまざまな国の人々と関わり合い同じ空間で生活することは、言語を習得する以上に、視野を広げ異なる価値観が自ずと芽生えるでしょう。いかに、皆さんが恵まれた環境にいらっしゃるかを、改めて感じていただきたいと思います。

本校の海外特別選抜や海外生入試では必ず面接を実施していますが、お子さんの多くは、将来やりたい仕事にご両親の仕事をあげています。保護者ご自身こそ、すでにグローバルに活躍されているのですから、ぜひ海外在住中に、具体的にご自分の仕事をお子さんに見せたり語っていただくことで、中・高校生の漠然とした将来への方向性を具体化するお手伝いをしていただきたいと思います。

海外在住のお子さんには、10年後20年後に日本や世界を牽引する「グローバルリーダー」になる資質がすでに備わっています。保護者の皆さんはご苦労もあると思いますが、教育の究極の目標である「恒久的な世界平和」を担う人材を育てているという意味で、非常に大きな意義を背負っていらっしゃることを誇りに感じていただくことを、願ってやみません。

 

※2018年4月25日現在の情報です。最新情報は各機関に直接ご確認ください。

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