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企業からの声

日本貿易振興機構(JETRO) シンガポール事務所 所長 石井 淳子 氏

2018.04.25

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海外に飛び出して異文化の中でチャレンジする経験を、若いうちにすることが重要です。

互いの意見をすり合わせる「コミュニケーション力」と「相手を理解しようとする柔軟な頭」がないと、継続的なビジネスは難しいと思います。

グローバル時代を迎えた今、企業が求める人材、教育とは何でしょうか。
企業の方からお話をうかがいました。

日本貿易振興機構(JETRO)シンガポール事務所 所長 石井 淳子 氏

日本貿易振興機構(JETRO)シンガポール事務所
所長 石井 淳子 氏

Q 日本貿易振興機構(以下JETRO)について教えてください

JETROは経済産業省が所管する独立行政法人で、日本企業の貿易・投資拡大を支援すること、同時に外国企業の日本への直接投資を総合的に進めることを主な目的として活動しています。世界74ヵ所に事務所があるほか、日本国内にもほぼ全都道府県に事務所があります。幅広いネットワークを活用して企業への支援を行うことで、双方向の貿易・投資振興に努めています。

外国企業の日本拠点設立を目指し、シンポジウムやセミナーの開催、トップセールスの支援、個別のコンサルテーションやビジネス提案などの誘致活動を展開しています。また、地方への誘致に向けたインセンティブの発信や来日外国人の生活立ち上げ支援など、地方自治体とも協力してワンストップで総合的な支援が受けられるよう取り組んでいます。

中小企業の海外展開については各国のビジネス情報の提供、個別相談や商談会を開催している他、国内外の展示会への出展支援やバイヤー招へいなども行っています。品質が良ければ必ず売れるというものでもありませんから、現地の経済やビジネスの状況、関連法の説明だけでなく、人々の嗜好や流行など文化的な背景まで理解いただいた上で進出の方向性を探ります。また、進出後も販路の紹介を行うなど一貫した支援を心がけています。

Q 特に力を入れている取り組みは

JETROが取り組む主要分野は時代とともに変遷してきました。現在関係省庁や関連輸出・生産団体などとオールジャパンで力を入れているのは、「日本産の農林水産物や食品の輸出支援」です。生鮮食品の他、お菓子などの加工食品や飲料も含まれています。地方創生にも貢献するこの分野については、JETROの国内外のネットワークを最大限に活かして推進しており、日本食ファンの多いシンガポールでも好機を逃さないよう力を入れています。

シンガポール人は一般的に日本の食材や和食に対する理解が深く、日常的に馴染んでいるため、通り一遍の物では注目していただけないという難しさもあります。また日本産の食材をレストランで使っていただこうとしても、単価が高いため導入しづらいという声もあります。そこで当地では、中華料理やイタリアンのシェフに日本産の食材を使って料理をしてもらい、レストラン関係者やブロガーなどにその美味しさを広めてもらう催しを開いています。

最近では和歌山県産の梅を紹介する会を開催しました。梅干しは日本人には馴染みのある食べ物ですが、シンガポールではその酸っぱさが一般的には好まれないため、そのままでは浸透しにくいのが実情です。そこで梅その物の効能と美味しさを活かそうと、今回は梅のピューレなどを使って、当地で有名なパティシエがスイーツを作り披露する会にしました。シェフのほか、シンガポールではSNSが浸透しているため、フォロワーが数十万人規模に上るブロガーも招待して情報拡散を狙いました。

Q 海外進出で成功する中小企業の特徴は

成功事例にはさまざまな要因がありますが、共通する企業の特徴としては「明確な戦略」を持ち、「将来の自社の姿を描けているリーダーがいる」点だと感じています。また、そうした企業には過度に日本的な進め方にとらわれない柔軟性があり、ターゲットである市場を理解した上で、世界経済の動向も視野に入れ、大局的に将来を考えておられると思います。海外市場で成功を収めるには、予想外の荒波を乗り越えていく覚悟を持ち合わせていることが大事だと感じます。

柔軟性といっても異文化に全てを合わせるということではありません。日本の企業文化として世界でも評価されてきた「誠実さ」や最後までやり通す「責任感」などを大切にしていきながら、各地で学ぶべき「ベスト・プラクティス」を吸収することで、日本発のグローバル企業は更に活躍していけるのではないかと思います。

Q 海外の事務所を統率する上で大切なことは

シンガポールの方々は中華系でもマレー系、インド系でも幼少時から異文化を持つ人と一緒に育っていますから、外国人に対する抵抗や違和感が全くありません。また、英語も通じるので仕事はとてもしやすいと感じています。

多様な職場で仕事を進める上で心がけていることは、「相手の国や文化を理解しようと努力する」こと、そして「自分のやり方を強要せず、背景となる自分の考えについて言葉を尽くして説明する」ことです。理解してもらうために誠意を持って働きかけるプロセスの中で、双方の理解や信頼関係が培われます。また「分かり合う」という目的のためには、さまざまな場面でスタッフと苦楽を共にして共感し合えるような環境作りも、チームワークを高める重要な要素だと考えています。

Q 日本人が世界で活躍するために必要な力とは

近年は海外に出たがらない人が増えています。当事務所では日本の大学から学生の研修を受け入れたり、講演の機会などもできる限り受けるようにしていますが、積極的に質問し意見を述べる学生が少ないことを毎回残念に思います。その要因の一つに、自分の考えや意見を人前で述べることや、問いを立てることに重きを置いてこなかった教育、これらのスキルの養成を重視してこなかったことが挙げられるでしょう。これは教育界だけの問題でなく、従来の日本は多様性に乏しく、また「阿吽(あうん)の呼吸」や「空気を読むこと」で成り立つコミュニケーションこそが美徳とされてきたという背景があると思います。しかし、今は日本の会社でも外国人従業員が増え、また中小企業でも海外を視野に入れた業務の重要性が高まる一方ですので、国内でも海外でも、異文化の中で仕事をしていくスキルは必須です。互いの意見をすり合わせる「コミュニケーション力」と「相手を理解しようする柔軟な頭」がないと、継続的なビジネスは難しいと思います。

多様であることが当たり前のシンガポールでは、自分とは異なる考え方や仕事の仕方にも許容度が高いため、海外勤務が初めての方でも比較的仕事がしやすいと感じます。海外に飛び出して異文化の中でチャレンジする経験を、若いうちにすることは重要です。そして相手の反応に「どうしてだろう」「わかってもらうにはどうすれば良いだろう」と自問自答しながらコミュニケーションする経験を積んでおくと、将来更に広い世界を舞台に仕事をする時に必ず役に立つと思います。

Q 海外で子育てされているご家族へ

マニラ赴任に帯同した当時小学生の次男は編入先のインターナショナルスクールで友だちに恵まれず、相当寂しい思いをしたはずですが、毎日健気に登校しました。私は仕事に追われても夕食時には一旦帰宅し、一緒に食事をとって宿題を手伝ったり、週末は必ず子どもたちと共に過ごしました。「どんな時もあなたの味方」という姿勢を貫きながら見守ることが、異文化の中で頑張る子どもの支えになると思います。

私自身メキシコとアメリカで小学校時代を、オーストラリアで高校時代を過ごした帰国子女で、子どもながらに何度も海外のハードシップを経験しました。特に高校2年から編入したオーストラリアの現地校では授業もよく理解できずに大変苦労しました。そこで救いになったのは、好きな音楽の世界で仲間と一緒に演奏する機会があったことでした。学生でも社会人でも言えることですが、勉強や仕事とは別の世界を持つことは、楽しいだけでなく思わぬ人脈が広がり、また息抜きにもなって本業の効率も上がるという利点があります。お子さまの興味に合わせて、趣味になりそうなクラブ活動や習いごとに挑戦することは、きっと人生を豊かにしてくれることでしょう。皆さまやお子さまの海外生活が今後につながる実り多い期間となることを祈っております。

組織概要

日本貿易振興機構(JETRO)
シンガポール事務所

日本企業の貿易拡大・海外拠点作りを支援・促進し、外国企業の日本への直接投資を総合的に進める政府系機関。世界74ヵ所にある海外拠点ではビジネスに役立つ各種調査と情報提供、商談会などの開催を通してビジネスマッチングを実施。日本産農林水産物・食品の輸出にも注力し、地方創生を後押ししている。

石井 淳子 氏

国際基督教大学(ICU)卒業。

1984年よりJETROで開発途上国とのビジネスを支援・促進。

東京、名古屋、横浜のほか3年半マニラに駐在し、日本企業の海外展開をサポート。

またアジア・アフリカを中心にビジネスに直結する産業育成にも従事。

2016年秋から現職。

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