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この人からエール

広尾学園 理事長 池田 富一 氏

2018.06.25

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「進化」を止めれば「衰退」が始まる

はじめに

外資系企業に長年勤めていた私が教育に携わるようになったのは、「日本の英語教育」に疑問を抱き、テコ入れする必要がある、と強く感じたからです。きっかけは、前職で参加した国際会議でした。世界各国から集まる参加者の中で、自分も含めて日本人の英語の下手さに衝撃を受けたからです。ある時、私が他国の参加者に「君たちはどうして母語でない英語がそんなに上手いのか」と尋ねると、「中学から高校、大学と10年間英語を学んでいたから」という答えが返ってきました。それは私たち日本人も全く同じですから納得できず、その英語力の差がどこからくるのかと、深く考えさせられたものでした。

広尾学園 理事長 池田 富一 氏

本校の前身である順心女子学園が広尾学園になった学校改革に際しては、学校として変わるべきところと、守るべき伝統を融合させ、全教員が一体となって取り組んできました。広尾学園として新たなスタートを切って11年、変えなければいけないと熱い想いを抱いていた「英語教育」を、今こうして実現できていることに、大きな手ごたえと幸せを感じています。

「本物」に触れる

時代の先端を行く教育を提供するために、本校があえて実践していることがいくつかあります。中でも誇れるのは「本物」に触れる機会が多いことです。例えば、医進・サイエンスコースの生徒は、大学病院で行われる手術を実際に見学させていただく機会があります。医師を目指す生徒にとって、医療の最先端に赴き自分の目で見て直接大変さとやりがいを聴けることの意義の大きさは、言うまでもありません。医師への関心を一層高めたり、逆に、やはり血がダメだと方向転換をしたりする生徒もいます。いずれにせよ、学校で教員から聞く説明よりも遥かに説得力があることは確かです。他にも、裁判の傍聴や各分野の研究者にお会いする機会もあります。まさに百聞は一見にしかず、生徒たちが感じ取る時代の「進化」と受ける「刺激」は格段に違います。これこそが本物に出会う「威力」だと感じています。

この取り組みは、訪問した先でも高い評価をいただいています。実際に、毎年手術の現場を見学させていただいている病院のお医者さんが、「こんな学校があったのか」と驚かれ、この取り組みを気に入ってくださり、実際にそのお子さんが何人か入学されているのです。

「グローバル教育」を具体化する

本校のカリキュラムでは、「グローバル教育」という言葉はあまり使いません。なぜなら、それが意味するところはとても曖昧だからです。しかしその言葉に相当する取り組みは、他校の追随を許さないほど多岐にわたり、実践しています。

まずあげられるのは外国人教員の多さです。本校には、中学高校合わせて23名の外国人教員が在籍しています。一般には英語の教員と思われるでしょうが、英語科とは限らずそれ以外の科目や担任も受け持っています。23名という数は全教員の25%ですから、廊下やカフェテリアで外国人の先生とすれ違うことは日常であり、触れ合うチャンスはいくらでもあるのです。まさに「学びの場は授業だけではない」ことを体現できる環境と言えるでしょう。

2つ目は、「学ぶ楽しさ」が出発点となるような工夫を凝らした授業です。「疑問に思ったことを調べれば必ず答えがある」、その楽しさに気づいてもらえるよう、特に理系教育では力を入れています。中学生のうちは、面白さや楽しさを実験を通して感じてもらい、疑問に思うことがあれば「どうしてだろう」と自分で調べます。高度な興味を突き詰めていくと学術論文に行きつき、しかもその多くは英語で書かれていることを知ります。つまり、興味がある理系の分野を極めるには、英語が読めないと理解できないということになり、英語の切実な必要性へと繋がっていくのです。こうして一つの教科から他の教科へと関心の連鎖が起こり、「学び」への良いスパイラルが生まれるのです。

3つ目は、「実社会で役立つ英語と国語の力を養成すること」です。一般に英語や国語は受験のための学習と考えがちですが、本校では、実社会に出て使える「語学力」のことを言っています。通常の授業で板書をノートに写し暗記するだけでは「使える語学」は身につきません。そのために、板書と暗記中心の授業ではなく、少人数の発言しやすい機会を設け、アウトプットの場を多く提供しているのです。

企業と学校の共通点

私が学校改革を手がけるにあたり、ビジネスの経験が大いに活かされました。なぜなら、学校という組織も、広く見れば一つのサービス業であるからです。もちろん収益を上げ続けることが求められる企業活動と、一人ひとりの子どもたちを育てる崇高な目標を持つ学校教育では、異なる存在意義があります。しかし両者ともに言えるのは、「進化を止めれば、衰退が始まる」ということです。

もともと本校には、先生が新しいことを楽しむ文化があり、改革について大きな反対者はいませんでした。しかしそうは言いましても、学校とはそもそも閉鎖的なところです。何を改革し何を守るのかという判断に、全員一致はあり得ないのが普通です。ある程度この方向で良いと決まったのなら、たとえ100%全員が賛成でないにしろ、動き始めるしかないと信じて進んできました。

今年は、順心女子学園として創立100周年になります。この1世紀に亘る伝統校に新しい風を吹き込んだ軌跡を回想すると、感慨深いものがあります。本校は広尾学園になって以来、受験者が増え続けています。この改革を現時点で「成功」と言うのなら、その秘訣はどんな時でもぶれずに推し進め、「躊躇なく変えていこう」という強い覚悟を持ち続けたからに他なりません。そしてこれからも、進化し続けることをお約束できます。

広尾学園 理事長 池田 富一 氏

最先端のツールを用いて好奇心を引き出す理系教育

海外で暮らすご家族へのメッセージ

お子さんには、ぜひ「あなたが今、興味のあることは何ですか」とお聞きしたいです。受験勉強など、目標に向かって一生懸命頑張ることは、とても素晴らしいことです。しかし、「誰かにやらされている」と感じる受け身の勉強では意味がなく、自発的に取り組める「熱い心」が生まれることこそが尊い、と感じます。自分の内側から生まれる興味や好奇心を入り口にしてアンテナを張り巡らせ、「今住んでいる国」でさまざまなことを発見してください。

日本人は「シャイ」であるとよく言われます。あなた自身はいかがでしょうか。美徳とされる「謙遜」や「慎み」と紙一重である一方で、国際社会では「シャイ」の気質を払拭し、自分を出す「心の強さ」を磨いていただきたいです。そしてさまざまな人に出会い、現地でも本物に触れその国の文化や行事を体験してください。その体験は、帰国後皆さんの個性となって輝いていくに違いありません。

日本ではますます、国際的な感覚を備え、あらゆる文化を受け入れられる人材が必要となるでしょう。海外での経験をすでに積んでいる皆さまですが、大学や大学院で再び海外に出るという選択を、ぜひ考えてみてください。異国の地で、今とはまた異なる見聞を広め、その体験を日本に持ち込んでいただきたいのです。そのような方が、必ずや、日本社会に革新をもたらしてくれるからです。

海外の大学進学については経済的に負担も大きいですが、本校は、海外進学を可能にする奨学金制度のリサーチにも力を入れています。親御さんがお子さまの特性を見出し応援してくださると同時に、私たちも学校として、将来を担うお子さまを全力でサポートしていきます。

皆さまが近い将来日本の社会を牽引する存在になり、恒久的な国際平和に貢献してくださることを、期待しています。

※広尾学園に関する情報はこちらをご覧ください。
https://spring-js.com/japan/9377/

『この人からエール』バックナンバーはこちら。
https://spring-js.com/expert/expert01/yell/

池田 富一 氏

外資系企業での勤務を経て、2006年順心女子学園に入職。

翌年、順心女子学園は共学化して広尾学園となり、副学園長を経て2017年より現職。

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