徹底的に考えよう、本当の英語力
英語を使って仕事をするビジネスパーソンや海外に住む日本人が増加しているだけでなく、日本国内に住んでいても外国人や観光客に出会うなど、英語に触れる機会は急速に増加しています。英語が話せることがごく当たり前となる時代に、「本当に求められる英語力」とは一体何でしょうか。
Springでは読者のご要望にお応えし、シリーズで特集しています。
今号では、海外の日本人学校小学部の取り組みをご紹介します。海外在住の日本人児童は、日々の生活でも英語が必要であり、英語の習得はとても重要です。一言に「英語力」と言っても、海外赴任が初めてのご家庭や国際結婚のご家庭などにより、お子さまの英語力はさまざまです。そのような多様なニーズに対して、在外教育機関である日本人学校では、どのような授業を展開しているのでしょうか。今回Spring編集部では、シンガポール日本人学校小学部を取材しお話を伺いました。
---前号の特集はこちら---
「社会で通用する英語力とは」https://spring-js.com/global/10179/「幼児・学童期に育む英語力」https://spring-js.com/global/10946/
海外で増え続ける日本人の児童・生徒たち
※外務省「海外在留邦人数調査統計(平成30年要約版)」より抜粋、グラフはSpring作成。
過去10年間で…
◆海外に在留する日本人数は…21%増
平成20年1,116,993人→平成29年1,351,970人
◆学齢期子女数は…35%増
(小学生のみでは31%増、中学生では48%増)
⇒子どもを帯同して在留する家族が増加している!
学校種別 小学生子女数(長期滞在者)推移(過去10年)
平成29年 地域別 学齢期子女数(小・中学生、長期滞在者)内訳
海外の中で学齢期子女(小学生・中学生)が最多なのはアジア地域
世界にある89※の日本人学校で、小学生・中学生たちが学んでいます。
海外にいる子どもたちにとって、日本人学校での英語教育は重要な要素と言えるでしょう。
※文部科学省「認定した在外教育機関一覧(平成26年7月1日現在)」より。
89校のうち、アジアの日本人学校は36校。
日本人学校の取り組み
在留邦人数が36,000人※に上るシンガポールでは、日本人学校小学部2校に合計約1,700人の児童が在籍しています。英語が公用語であり日々の生活でも必要に迫られるため、英語を学ぶ必要性は一層高いと言えます。では、具体的にどのような取り組みをしているのでしょうか。
※外務省「海外在留邦人数調査統計(平成30年要約版)」より。
平成29年10月1日現在。
シンガポール日本人学校小学部 クレメンティ校英語科主任
小塚 由紀 先生に聞きました。
初心者でも「英語でトライする志」を大切に
日本人学校の英語教育の目的は、児童一人ひとりが効率よく英語を習得し、運用する力をつけ、将来グローバルに活躍できることです。子どもたちは、現地校との交流の場では限られた語彙でも自由にコミュニケーションを楽しんでいます。授業では、初心者の子どもが積極的に話せる環境を作り、「子どもがトライする志」を大切にしながら指導しています。習熟度が上がるにつれて、正確な英語と語彙力の拡大を目指し、レベルに応じた学習にも心がけています。
◆習熟度に合わせたきめ細かな対応
シンガポール日本人学校小学部は、チャンギ校・クレメンティ校の2校が共通のプログラムで学んでいます。
限られた授業数の中で、小学1・2年生の児童に対して、「Jolly Phonicsプログラム」を導入し、早くから英語の音と文字の関係性を学びます。教材は、2018年度現在、全学年にOxford University Press社の「Family and Friends」シリーズを使用し、児童一人ひとりのレベルに合わせて指導しています。
◆少人数制・習熟度に合わせたクラス構成
◆CEFR指標に沿った4技能を強化
授業では両校舎共にCEFR指標※に沿って、客観的に4技能を総合した英語力の判断をしています。初心者の児童は「A0レベル」から学習を始め、「B1レベル」の児童までが学習しています。
※各レベルのクラス数は学年によって異なり、A0のレベルが多い場合もある。CEFR指標のA1・A2・B1の各レベルを習熟度に合わせて、さらに複数のクラスに細分化して学習していく。
CEFRとは? 欧州評議会(Council of Europe)で定められた、外国語の運用能力を測る世界共通の国際基準。「Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment」の略。 |
◆英語力が育まれる秘訣とは
1) 教員は英語指導の専門家
教員は皆、CELTA※1またはTESOL※2を取得し、「第二言語としての英語(ESL: English as a Second Language)」を教えた経験があります。国籍はヨーロッパ諸国、アメリカ、香港、インド、シンガポール、オースラリア、南アフリカ共和国などさまざま。日本人教員は両校合わせて3人と少数。イマージョン英語を担当するのは、各校舎共に水泳担当3人、音楽担当2人の非日本人の先生たちです。
※1:CELTA(Certificate in English Teaching to Adults)
※2:TESOL(Teaching English to Speakers of Other Languages)
※1※2共に、英語を母語としない人に英語を教えるための資格。
2) 現地の方との交流やイベントも盛ん
年間2回程度の交流会(訪問・招待)を各学年で実施しています。授業とは一味違う貴重な交流体験やイベントが、児童の心に刻まれています。
週末のお泊まり会を実施。
交流会・イベント例
●現地校とのホームステイプログラム
●大学の学生との交流会
●シンガポールの文化(ハリラヤ、ハロウィン、ディパバリ、クリスマス、旧正月など)を学ぶ特別レッスン
●暗唱コンテスト(シェイクスピア、 マザーグースなどの詩)
●ディベート大会
●お店屋さんコーナーでの英語で買い物ごっこ
※校舎により内容が異なります。
英検の取得を促し、さらなるモチベーションに
同校では、日本に帰国する児童に「英検」の受験をすすめています。具体的な目標を掲げることで英語学習のモチベーションが高まるだけでなく、海外で培われた英語力を認識することは、その後の学習意欲を高めるきっかけになるからです。
日本人学校で学んだ英語力に自信が持てるように、小学生の内から現地ならではの環境を活かし、効果的な指導を心がけています。
きめ細かな英語教育は、日本帰国後の各生徒の英語力や学習の総合力にも表れています。
【英検の保持級(推定)】
3級~準2級保持者…推定で5・6年生については5割程度
2級保持者および2級相当…推定で1割程度
日本人学校小学部の保護者に聞きました。
<保護者の声>
高学年
英語で発表する機会がとても多いことが素晴らしいと思います。発表はほぼ毎月あります。例えば、「世界各国の朝食」というテーマが与えられ、それぞれの子どもが好きな国の朝食について調べ、発表していました。息子は日本から編入し、徐々に上位のクラスに移動して現在はレベル別のクラスのうち上から2番目のクラスになりました。
低学年
英語の授業参観が年に2~3回あり、子どもの学習内容を把握できるのが良いと思います。どの英語レベルのクラスも6~7人程度の少人数制で、先生がきめ細かく目を配ってくださいます。娘はレベル別のクラスでは上から5番目のクラスにいますが、習熟度別の学びが子どもの意欲につながっていると感じます。宿題は英単語の意味やスペリングなどで、子ども一人で取り組めています。
世界の第一線で働く先輩方のストーリーをシリーズでお伝えしています。
今回は「日本の学校」「海外の日本人学校」で過ごした方です。
Story
豪州クイーンズランド州政府事務所 勤務
中西 知子さん
オーストラリアクィーンズランド州政府事務所
シンガポールオフィス
商務官(教育)
【プロフィール】
日本育ち。日本の高校を卒業後、約5年間オーストラリアに滞在。英語学校、大学準備コースを経て、メルボルンの大学で広報(Public Relations)を専攻し卒業。その後、在東京オーストラリア大使館。2016年から在シンガポール オーストラリア大使館に勤務、17年より現職。
Q. 「英語が強みになっている」と感じますか?
~多民族社会で英語を学べたことが強み~
現在はオーストラリアの政府機関に勤めており、業務は英語だけで遂行しています。そのためかつてオーストラリアで習得した英語がとても役に立っていると感じます。オーストラリアもシンガポール同様、多くの移民で成り立っている国です。世界で話されている英語のほとんどは非ネイティブ・スピーカーによる英語だと言われていますので、いろいろな発音や話し方の英語に慣れ、うまくコミュニケーションをとるためにも「通じる英語」を使いこなしていく必要があります。私の場合、若い時期のオーストラリアでの留学経験は、多文化社会に身を置き、真の多様性に触れながら英語を学べた貴重な経験でした。英語力だけでなく、コミュニケーション力や異文化理解力などが総合的に身につき、外国で仕事をしていく上で大変役立っていると感じています。
Q. 英語を習得するまでに、どのような努力をしましたか。
~自分から英語漬けに~
日本で育ち、留学時点での英語力はほぼゼロの状態からのスタートでしたので、かなり苦労しました。授業中は、英語が全く理解できず、一人ぼーっとしていた記憶があります。ようやく大学に入ってからも、課題が終わらず朝までかかってしまうことがよくありました。
苦労はありましたが、オーストラリアの大学の授業は、一人よりもグループで取り組む課題が多かったため、クラスメイトにかなり助けられました。心がけていたことは「とにかく積極的に英語を使う」ことです。テレビやラジオも見聞きするようにし、日夜常に「英語漬け」の状態で生活するようにしていました。その甲斐があり、社会で通じる英語力が身についたと実感しています。
Q. 海外在住のご家族にアドバイスをお願いします。
~将来どこでも通用する人材に~
使える英語というのは、「いかに英語でコミュニケーションが取れるか」ということだと思います。シンガポールやオーストラリアなど多民族国家の環境で習得した英語は、将来どこに行っても通用する、グローバル人材の最大の武器となるでしょう。皆さんもその恵まれた環境を最大限に活かして、世界で通用する英語力を培ってください。
Story
ホスピタリティ・サービス企業 勤務
八木澤 真也さん
フレイザーズホスピタリティ・プライベートリミテッド
リージョナルセールス
アシスタント・ディレクター
【プロフィール】
シンガポール生まれ、高校卒業まで18年間シンガポールで過ごす。現地の幼稚園を経て、日本人学校小学部を卒業後、中学・高校はUnited World College of South East Asia(UWCSEA)にてGCSE & 国際バカロレア(IB)ディプロマプログラムを修了・卒業。大学はスイス・ローザンヌにあるEcole hoteliere de Lausanne(EHL)
にてインターナショナルホスピタリティ・マネジメント学を専攻。卒業後、東京の外資系ホテルを経て、2018年より現職。
Q. 「英語が強みになっている」と感じますか?
~格段に広がる選択肢~
進学先や就職・転職先などさまざまな局面において選択肢が格段に広がったと感じます。もともとホテル業界に興味があったので、高校卒業後はスイスの歴史あるホテルマネジメントの大学に進学し、世界各国の優秀な学生に刺激を受けながら有意義な大学生活を送りました。
仕事では以前勤務していた東京の外資系ホテルで、海外からのインバウンドビジネス取得のためのプレゼンテーションや料金交渉、レポート作成や海外出張、競合分析などを全て英語で手がけました。その経験が実を結び、今回のシンガポールへの転職が実現できたと思います。
Q. 英語を習得するまでに、どのような努力をしましたか。
~好きな趣味と英語を融合させて~
中学から通い始めたUWCSEAでは、英語での授業含め国際校の雰囲気に慣れるまで苦労しました。当時は少しでも早く英語を上達させるため、同じESL(English as a Second Language)で学んでいた友だちと積極的に話し、放課後は大好きなサッカーを通じて英語を母国語とする人たちと交流するようにしました。とにかく“仲間”を作ることがおすすめです。自分の好きな趣味と英語を融合させると、楽しみながら上達するスピードが速くなると思います。
Q. 海外在住のご家族にアドバイスをお願いします。
~発音など気にせず、日々使っていくこと~
これからの時代は、今まで以上に「英語が話せて当たり前」になると思います。まずは積極的に現地の人々や文化に触れ、楽しみながら英語に慣れ親しむことが大事だと思います。英語はあくまでもコミュニケーションのツール(道具)ですので、発音などあまり気にせず、たくさん友だちを作ってください。知らない間に英語がどんどんレベルアップしていくはずです!
次回は、「英語を本気で武器にする!~中学校で育む英語力~」をお届けします。どうぞ、お楽しみに。
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