なぜ「国際バカロレア」なのか
~第1回 入門編~
社会のあらゆる分野でグローバル化が加速していく中、日本では「グローバル人材」の育成が急務となっています。教育現場でも英語力強化の取り組みをはじめ、探究型学習の導入など国を挙げて「グローバル人材」育成のために舵が切られています。
そこで注目されているのが、「国際バカロレア( International Baccalaureate、以下IB)」という教育プログラムです。政府が閣議決定した日本再興戦略の中でもIB認定校を増やしていくという数値目標が掲げられ、実際に日本でもIB認定校が年々増加しています。
今回Springでは「なぜ『国際バカロレア』なのか」と題し、改めてその詳細と現状についてシリーズでお届けします。第一回「入門編」として、IBカリキュラムの内容と現状について、国際バカロレア機構アジアパシフィックと文部科学省IB教育推進コンソーシアム事務局にお話を伺いました。
国際バカロレア(IB)とは
1968年、スイスで設立された国際バカロレア機構が提供する国際的な教育プログラムです。平和な世界の実現を目指して、探究心や知識、思いやりに富んだ人間性の育成を目的としています。現在、世界159の国・地域、約5,400校で実施され195万人以上が学んでいます(2021年5月時点)。
各国に移動する駐在家族などの子どもたちは、どの国においても同じ学習の枠組みで学べることが魅力です。 |
Spring編集部が
国際バカロレア機構に聞きました。
世界のIB
IBの実施プログラム数は世界の全地域で、年々増加しています。IBがグローバル社会に適したプログラムであること、また、IBの「探究型学習」が世界で受け入れられているためと考えています。
また、日本や韓国などで、IBDPの一部科目を母語で取得できるようになったことも世界でIBが広まっている要因の一つと考えています。
Spring編集部が
文部科学省IB教育推進コンソーシアムに聞きました。
日本のIB
文部科学省IB教育推進コンソーシアム(以下 IBコンソーシアム)とは? 日本におけるIBの普及促進およびIB教育ノウハウの展開を主導する組織。国内のIB関係者が集い、2018年文部科学省のプロジェクトを委託する形で設立された。 |
国のプロジェクトとしてIBの普及促進を進めています。
文部科学省教育推進コンソーシアム事務局
小澤 大心氏
文部科学省では「新学習指導要領」※で目指している教育のあり方が、すでにIBでは実践されていることから、IB教育を好事例として捉え、政府の方針としてIBの普及促進が行われるようになりました。
それにより、日本の学校教育に新たな特色が加わることにもつながり、子どもたちの教育の選択肢が広がったことは朗報だと感じています。
※2020年度~小学校、2021年度~中学校、2022年度~高等学校で導入される新しい学習指導要領。外国語教育の充実やアクティブラーニングなどが含まれる。
IBを学ぶとしたら、疑問がいっぱい!
Spring編集部が
文部科学省IB教育推進コンソーシアムに聞きました。
Q IBの意義を教えてください
A IBには4つの意義があります。
① グローバル人材の育成にふさわしいカリキュラム
IBは語学力だけでなく、課題発見、解決能力、論理的思考力、コミュニケーション能力といった、これから世界で活躍できるグローバル人材の育成にふさわしいカリキュラム内容です。
② 世界中の大学入試で利用
海外大学進学を目指す際は、大学が求める入学要件に受験生が合わせる必要があります。しかしIBは世界中の大学で入試に利用されているため、IBの資格を取得すれば、国内外の多くの大学を進学先として選択肢に入れることができます。
③「 何を」学ぶかではなく「どう」学ぶか
IBでは、日本の教育が目指している主体的で対話的な深い学びにつながる双方向かつ協働的な授業を実践しています。
④ 国内大学の国際化と活性化
IBでの入学を受け入れることで、海外からも優秀な学生を獲得することができ、国内大学の国際化と活性化に繋がると期待されています。
Q 現在、日本のIB校数は?
A 2013年から2021年の間に54校から167校に増加※しました。政府の方針として2022年までに200校の導入を目標にしており、今後も増加が見込まれます。また、IBを活用した入試はスーパーグローバル大学をはじめ、数多くの大学にて実施されています。
※学校単位ではなくプログラム単位で集計
※PYP:プライマリー・イヤーズ・プログラム(3~12歳)、 MYP:ミドル・イヤーズ・プログラム(11~16歳)、DP:ディプロマ・プログラム(16~19歳)
※1校で複数のプログラムを実施している学校があるため、プログラムごとの学校数の合計は全認定校等数と一致しない。
Q なぜ幼稚園や小学校から IBで学ぶのですか?
A IBのPYP教育では、子どもたちの学ぶ意欲を喚起し、個々の学びに関連性をもたせ、子どもたちにとってチャレンジに満ちた意味のある教科の枠を超えた学びの確立を目指しています。特に、子どもたちが抽象的な概念を理解しそれらの間につながりを見いだしたり、物ごとを概念的に捉えたりすることができるようデザインされています。このような学力観は日本の大学教育の現場でも求められる能力です。
Q 日本の小学校教育課程に比べ、基本的な知識の習得に不安があります。
A IBでは、知識を獲得していく上でのプロセスを大事にしています。一方的な知識の詰め込みでは、意味のある知識として学習者に定着はしません。学ぶ上での必要な非認知能力※も大事にしながら、実社会において得られた知識を活用できるような学習者を育てることをIBでは目指しています。
※非認知能力とは、コミュニケーション能力や粘り強さ、創造性など、点数などで数値化しにくい能力のこと。
Q 過去にIBで学んだ経験がなくてもDPを取得できますか?
A IBではどのプログラム段階からも学び始めることができます。もちろんプログラム間の接続があることは、子どもたちの発達段階に応じた学びにも寄与していますが、MYP、DPから始める生徒は世界でも数多くいます。
IBプログラム
生徒の年齢に応じた教育プログラム
PYPは精神と身体の発達を重視した全人的教育、MYPは教科内容と実社会の繋がりを学び、DPは国際的に認められる大学入学資格の取得が可能となるプログラムです。
IB DPのスコアとは
満点45点 24点以上がDP取得の要件
1科目最高7点、6科目分の合計42点に、「知の理論(TOK:Theory of Knowledge)」や「課題論文(EE: Extended Essay)」と呼ばれる課外活動やエッセイなどでボーナスポイント3点を加算した45点満点です。ディプ
※その他DP取得の
IBDPスコア結果(世界144ヵ国)
2019年5月
総受験者数 | 166,465名 |
平均スコア | 29.65点 |
合格率 | 77.81% |
合格者のうちスコア40点以上獲得者の割合 | 9.7% |
満点45点取得者の数 | 275名 |
日本語IBとは
日本では「日本語IB」が導入され、より身近な存在に
IBDPの使用言語は英語、フランス語、スペイン語のいずれかが基本ですが、6科目のうち4科目で日本語DPとして日本語での実施・取得が可能となっています(ただし、外国語を含む2科目は英語などで履修する必要あり)。
日本語と英語の「デュアルランゲージプログラム(DLDP)」として、国際バカロレア機構と日本の文部科学省の協力のもと、現在、日本の高校(IB認定校)で導入が進められています。
シンガポールのIB校
アジア太平洋地域では順調にIB認定校が増えていますが、シンガポールでは例年IB DPスコアで高得点を出す生徒も多く、その成果が確実に表れています。シンガポールは小規模の国でありながら、幼稚園から高校まで、多くの選択肢があるのが魅力と言えるでしょう。
日本のIB校
海外でIBで学んでいたお子さまや、帰国後にIB認定校を検討されているご家族も多いことでしょう。
現在幼稚園から高校までIBを導入する学校が増えています。
IBの学習者像
編集部より
次回からは各プログラムの詳細や国内外からの現場の声をお届けします。次回はPYPについてご紹介予定です。どうぞお楽しみに…。
今後取り上げてほしい内容・質問がありましたらぜひSpring 編集部までご連絡ください。 contact@email.spring-js.com
◆Springの過去のIB特集はこちら◆https://spring-js.com/global/global01/iinternational-baccalaureate/