海外生・帰国生へのヒント
Vol.13 トータルペインター ミヤザキ ケンスケ氏 戦禍や貧困に苦しむ地の「壁」を キャンバスに ~ テーマは“ Super Happy”~

はじめに

今春から、高校英語の教科書に私が世界各地で現地の人々と壁画を共同制作するプロジェクト「Over the Wall」が紹介されました。まさか自分のことがと驚きましたが、アートを通じて互いを理解し、世界平和のきっかけになればと願っています。

プロの画家を目指して

私の父は建築士で、幼い頃は父や兄弟たちとスケッチを楽しみ絵を描くことがとても身近な存在でした。高校の芸術コースで学んでいた3年時に、ベルギーへ一人旅をした時のことです。言葉が喋れず、毎日路上でスケッチをしていました。ある時、ホストファミリーが私の絵を見て大変盛り上がり、一気に心が通い合いました。居場所ができた私は、言葉の壁を超える「絵の力」を実感したのです。その体験がきっかけで、プロの画家を目指すようになりました。そして、人ができない場所でやっていきたいと考え、海外に活動の場を広げるようになりました。

Vol.13 トータルペインター ミヤザキ ケンスケ氏 戦禍や貧困に苦しむ地の「壁」を キャンバスに ~ テーマは“ Super Happy”~

「Over the Wall」 ~共同制作へのこだわり~

海外に絵を描きに行くというプロジェクトで、ロンドンやケニアに赴きました。まだ若かった私は、アーティストなのだから自分が思うように描いて良いという思い込みがありました。そんな矢先、ケニアで描いた絵を消すように要請されてしまいました。私が描いたドラゴンの絵が怖く、学校に行けない子どもがいるというのです。その衝撃は大きく、公共の壁に自分が好きな物を描くのはエゴであり、私は描かせてもらっているのだとハッとしたのです。

その後は共同制作にこだわり、現地の子どもたちが描いてほしいというものを必ず取り入れて一緒に描くようになりました。すると、子どもたちはこれは自分が 描いたんだと指をさして盛り上 がり、「一つになる気持ち」を実感することができました。アーティストとしての 醍醐味を感じながら、戦禍や貧困に苦しむ地の「壁」に共同で壁画を描く。その取り組みを通して人々を笑顔にし、希望を与えることが私のライフワークになりました。

Vol.13 トータルペインター ミヤザキ ケンスケ氏 戦禍や貧困に苦しむ地の「壁」を キャンバスに ~ テーマは“ Super Happy”~
マリウポリ:ウクライナ民話「手ぶくろ」をモチーフに

 

ウクライナ・マリウポリの壁画

ケニア、東ティモールでの活動を見たUNHCR※の方から、日本との国交関係樹立25周年となる2017年にウクライナ・マリウポリに壁画制作を打診されました。当時、すでに紛争が起こっていたので「平和」をテーマに据え、「敵対する人々がこの壁画を見て銃を置いてくれたら」という強い思いを込めて描きました。モチーフは、ウクライナの民話を元にした絵本「手ぶくろ」です。

制作中は、言葉が通じなくても一緒に作っていくことで固い絆ができ、完成を皆で喜び合いました。現在はロシアの軍事侵攻により街は破壊されましたが、当時一緒に制作した人たちとはSNS でつながっており、「また壁画を描きに来て」というメッセージが届いています。戦禍からの悲痛な願いを受け止めた時、このプロジェクトで作ったのは、「壁画」ではなく人々との「つながり」と「絆」であると確信しました。なぜなら、壁画は破壊されても、この固い絆は消えないからです。私は必ずまたマリウポリへ行き、壊れた壁画を描き直すことで大切な人たちに再び夢と希望を届けたいと思っています。

※国連難民高等弁務官事務所  
(UNHCR:The Office of the United Nations High Commissioner for Refugees)

海外生の皆さんへ

皆さんのように海外で生活をするということは、新しい環境に飛び込むことへの恐れが大きい分、そのメリットも果てしなく大きいと感じます。多くの「違い」に出会えるということは絶好のチャンスです。日本からではなかなか「触れられない」場所に行き、実際に体験を積んでいただきたいと思います。そうすることで、自分の世界観がぐんと広がるに違いありません。

海外で共同制作をしていると、チームワークを組む自分の中に日本人らしさを感じることがあります。協調性は日本人の強みですが、その 固定観念に縛られ集団としての視点を重視し過ぎている人が多いよう に感じます。あえて外れる勇気も身につけていただき、「自分はどうしたいか」と自分自身で価値を決めることも大切です。なぜなら、幸せ・ 不幸せを決めるのは、あなた自身なのですから。

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