海外子育て・体験記・生活情報
マラード裕美子さん 「自信を持って『生きる力』を身につける」

長年海外でお子さんを育ててこられた方にご登場いただき、これまでのご苦労や貴重な体験談をうかがいます。
皆さんも「海外で子どもを育てるヒント」を見つけてみませんか。

Q:10年間のシンガポールでの生活を振り返られていかがですか。

 2003年に夫の赴任のため、2人の娘を連れて日本からシンガポールに来ました。当時、長女は小学3年生、次女は5歳でした。

 2人の娘たちは小学校からアメリカンスクールに通い、同時に日本語力を養うために日本語補習授業校(以下、補習校)にも通いました。私も日本で教師をしていたので、補習校でその経緯を活かし教師として10年間勤務しました。

 父親がアメリカ人である娘たちにとって、多民族が認め合いながら暮らしているシンガポールでの経験はとても貴重なものでした。アメリカ人であり日本人でもあるという自己が、多くのアジア人に囲まれながら確立できたことに感謝しています。

Q:日本語力はどのように養いましたか。

 シンガポールで暮らす日本人の親御さんは、日本人学校、インターナショナルスクール、ローカル校の、どの学校を選択しても悩みがあると思います。我が家は英語環境の比重が大きく、娘たちはアメリカの大学に進むことを目標としていたので、まずは小学6年生までの義務教育の日本語力を確実に習得させようと決めました。ある程度、基礎ができていれば、後年、自学自習してそれを積み上げていくことが可能だと思っているからです。長女は補習校で小学6年生までの基礎を徹底的に学習しました。漢字などに苦労する長女を説得するために、親子で迷ったり悩んだりしたこともありましたが、将来娘が独立した時に、しっかりとした日本語力を身につけていて欲しいと強く願いながら頑張っていきました。

Q:ご家庭で工夫されたことはありますか。

 繰り返しながら無理のない学習を進めようと、下の学年の本を読ませました。例え幼児の絵本でも年齢なりの解釈ができると考えたからです。「好きなフレーズあった?」「どこが好き?」などと問いかけながら、日本語はかけがえのない大事なものだというメッセージを送り続けました。また日本語ができる夫にも協力を得て、食卓での会話は必ず日本語と決め、その日のできごとを語り合いました。日本語の勉強に限らず、子どもたちは日々いろいろなことを一生懸命吸収しています。学ぶことを楽しみ、できるだけ自信を持てるように導くよう心がけました。

Q:子育てで大切にしていたことは何ですか。

「良い大学へ行かせたい」という思いは、どの親御さんにも共通のことでしょう。しかし一番大切なのは、一人立ちした時に社会で通用する「生きる力」が身に付いていることではないでしょうか。高い学力だけでなく、社会人として適切な行動ができる、自分の健康を管理できる、限りのある時間を有意義に使える、そういう力が身についている大人になることが大切だと感じます。

 長女が思春期を迎えた時、門限をめぐる問題で確執があり、自分が良かれと思って教えてきたことが伝わっていなかったと悩みました。母の日に「愛してくれてありがとう」とメッセージをもらった際、「愛しているから叱るんだよ」と改めて説明したことがありました。

 教師として、「生徒を注意した後は愛を込めてその3倍誉めること」を意識していましたが、母としてそれを家庭で実践することは、なかなか難しいことでした。今でも日々修行だと痛感しています。

 兄弟は、とかく自分たちは比べられていると感じているようです。それぞれに人は賜物であり、できることとできないことがあります。長女と次女は年齢も性格も違うので、言い方や叱り方を変えて接するようにしてきました。その上で「できないことがあって当たり前」「叱るのは10年先に影響することだけ」、「見守ることも大切」と自分に言い聞かせました。

 現在長女はアトランタの大学で看護士を目指して勉学中です。親元を離れているからこそ、これまでの教えを糧に、危険なことやリスクから自分自身を守れるようになってほしいと願っています。

マラードさんから一言

「子育て」とは「自分育て」だと思います。私も子育てを通じて自分の弱い部分をたくさん発見しました。自分の子育てに自信が持てない時期もあるかもしれませんが、すぐに結果が出なくても焦らず、決して無駄なことはないのだ、と自分に自信を持つことも大切なのではないでしょうか。

 親が不安な気持ちでいると、子どもはそれを敏感に感じ取ります。子どもには「好奇心」と「感受性」が豊かで、幸せをたくさん感じられる人生を歩んで欲しいと思います。

 

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